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ENDRESS TALE

火炎の翼持つ者 黒き門より下る 6

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           ◆

 チャイナタウンというのは、どこへ行っても同じ造りで面白みがないと、ユリは勝手なことを考えながら華やかな朱塗りの所々剥げた柱を見上げた。
 黒地に金泥で『李易占』と書かれた看板は、しかし赤や緑の縁取りを幾重にも重ねて過剰にデコライティブな周囲のものよりずっとシンプルで、シンプルというよりむしろかなり鄙(ひな)びて見える。本当にこんなところに、東海岸のチャイニーズ・マフィアを牛耳るボスがいるのかと、疑り深く首を捻った。
「ユリ、ここ?」
 同じことを思ったらしい貴臣が小声に訊ねるから、「ああ、だと思うが」と答えながら自信がなくなる。
 ほかにも『李易占館』がないかと狭い通りを引き返しかけた時、ぎーっと陰気な音を響かせて表の扉が開き、お団子に結い上げた白髪がユリの胸の辺りまでしかない小柄な老婆が、ひょっこりと頭を出した。
「おい、ばあさん。李花って女がここにいないか?」
 ちょうどいいと声をかけると、しわくちゃのおもてがじーっとユリを見上げた。その漆黒の瞳が混じり気がなく怖いほど澄んでいて、ぎくりとする。これはひょっとしたらと、恐る恐る老婆の様子を窺ったが、上着とスカートに分かれたどこか古風なチャイナ服も、着古したような色の抜けた藍色でしごく質素なものだった。
 一体いくつになるのか、肌には深々と年輪のような皺が刻まれ、丁寧に結われた髪も幾分薄い。唇だけが妙に赤く艶っぽくて、さらに目の輝きが異常に強い。
「おっと……失礼。あんたが李花か?」
 その外見だけなら、ただの老婆と見逃すところだったが、恋人のものにも似た深淵のように底知れぬ虹彩を覗いてしまえば、彼女がただ者ではないと気づかないわけにはいかなかった。
 非礼をわびて、それでも馴れ馴れしい口調は変わらずに訊き直すと、ほほ……と老婆は嗄れた笑い声を立てた。
「ようわかったの」
「まあな。女を見る目には、ちょっとばかり自信がある」
 少し離れて成り行きを見守っていたロイは、この老婆がチャイニーズ・マフィアのボスだと知って驚きを隠せないようだったが、貴臣はやはり彼女を見たとたんその素性に気づいたらしく、顔色ひとつ変えていない。勘のよさと、滴るような色香とはどうやら別物らしいと、なんとなくホッとした。
 その貴臣へちらりとまなざしを向けた李花は、「女ばかりじゃなさそうじゃな」とにんまりと微笑む。どうやら貴臣との関係はひと目で見抜かれてしまったみたいで、それもユリに寄り添う姿から滲み出るような艶のせいもありそうだと、これから先が思いやられた。
「なんだか今日は朝からそわそわと落ち着かなかったが……これじゃ、無理もない。おいで、おまえさんたちの未来を占ってあげよう。そっちのあんたも」
 ダラスへ着いたとたんの貴臣の不調もあって、李花には今日の訪問を予め知らせたりはしていなかったが、まるでユリたちが来ることをわかっていたような口振りだった。そして、ドアを開けて二人を招き入れながら、背後に立っていたロイへも声をかける。
「あんたにも、何か心配事があるようだ。……しかし、近々、あんたの身のまわりで大きな変化が起きそうじゃな」
 ロイの顔を見つめながら、李花はいかにも占い師らしい曖昧な言い方をした。それにははっきりした言葉しか信用しない軍人らしく怪訝そうな目つきを返して、けれどもロイは大人しくユリたちの後ろからついてくる。
 外観どおりの古くて小さな家は、しかし思ったより窓が広く明るくてこざっぱりとしていた。床は板張りであちこちがぎしぎしと軋んだけれど、塵ひとつなく、部屋の中央に木製のテーブルと椅子が数脚置かれていた。日当たりのいい窓際には、竹の寝椅子が置かれ、その傍らへ並べられた鉢植えの観葉植物の緑が清々しい。
 テーブルの上には日本の街角でも見覚えのあるような筮竹(ぜいちく))や卦木(さんぎ)が載っているから、ここで李花は占いの仕事をしているんだろう。最初に王老から李花が占い師だと聞かされた時は、占いという名目でチャイニーズ・マフィアが集めた情報でも売っているのかと思ったが、さっきのロイへの科白を聞いていると、本当に占いをするらしい。
 予言託宣の類をまったく信じないユリは、なんだか胡散臭いぞと鼻の頭に皺を寄せたが、振り返った李花はそれもわかっているようにふふっと忍び笑った。
「そっちへお座り。……まずは、あんたからだ」
 テーブルは案外とゆったりしていて、三人が横に並んでも座ることができた。李花と向かい合った正面にかけるように勧められて、遠慮もなく飾り気のない硬い椅子に腰を下ろしてから、ユリは老婆の皺の奥の澄んだ双眸を睨む。
「ちょっと待て。俺は占いをしにきたわけじゃねー。あんたからニューヨークのチャイニーズ・マフィアの情報を聞きたいだけだ。芙緋人がどこにいるのか、正確な位置だけでもいい」
「情報なら、ちゃんと教えるよ。まあ、いいからお聞き。年寄りの忠告ってのは、結構役に立つもんだ」
 おっとりとなだめる李花は、ユリが知りたいこともちゃんと心得ているようで、肝心の話が聞けるのなら少々のことは我慢しようと口をつぐんだ。
 李花は筮竹を弄びながら、またしげしげとユリの端整なおもてに見入る。それから、ふっと大きな息をついた。
「なるほど、占いなんて必要としないはずだ。あんたは強い意志の塊だ。よかれ悪かれ、あんたの力はまわりの運命まで変えていく。捜し人はすぐに見つかるだろう。闇の中では、すべてのものがあんたに引き寄せられてくる。だが……大切なものを見失うよ」
「ふーん」
 気乗りしない声音で相槌を打った。ユリにとって大切なものとは、貴臣だけだ。アメリカへ来る前から、悪い予感はずっとしていた。それは、占いみたいなあやふやなものではなく、幾多の修羅場を潜り抜けてきたユリの研ぎ澄まされた勘だった。困難は覚悟の上だったし、今さらその程度の脅しに動揺することもない。
「いずれにせよ、ニューヨークの闇はあんたを必要としている。迷わずに、自分の信じるままを進めばいいよ。それが、あんたの大切なものを救うことにもなる」
「芙緋人はどこにいる?」
 もとより、迷うつもりもなかった。ユリの目的は、貴臣と一緒に芙緋人を日本へ連れ帰ることだ。まっすぐにそう訊ねると、李花はまるで頼もしい孫でも見るように、微かに口元を綻ばせた。
「今じゃニューヨーク全体がスラムみたいなもんだが、チャイナタウンに龍(ロン)という男を訪ねておいき。芙緋人の居場所へ連れて行ってくれる。ちょっと気難しい男だが、手なずけられたら、あんたはチャイニーズ・マフィアの協力を得られるだろう」
「わかった」
 ユリは茶化しもせず、真摯な表情でうなずいた。ニューヨークでは正木の名前は通用しない。自分の腕と度胸だけで、米軍やマフィアたちと渡り合っていくしかなかった。芙緋人を連れ出すためには、どうしてもチャイニーズ・マフィアと手を結ぶ必要がある。
「さて。今度は、おまえだ。深い闇と炎……あんたは、その身の内にニューヨークそのものを抱いている」
 貴臣に向き直った李花は、すーっと半眼に睫を伏せ、急に筮竹をまさぐる手を止めた。見えない何かを見つめているように、皺の刻まれた瞼が細かく震える。
「『火炎の翼持つ者 黒き門より下る』……おまえは、もうひとつの運命を生きることになるだろう。愛する者を、決して疑うな。疑えばその身は、二度と戻れぬ闇に堕ちる」
「あ……」
 意味を判じかねるように貴臣は当惑した瞳を揺らし、ユリのほうを振り返った。どうせ占い師の忠告などそんなものだ。心配するなと見つめてやると、いくらかホッとしたように緊張を解く。
 芙緋人のことにしろ、元信に言われた《gate》の謎にしろ、ニューヨークの秘密が貴臣に関わっていることは、もはやユリにも否定できない。李花の占いがどういう意味であれ、貴臣にとってろくでもない運命が待っていることは、簡単に想像できた。
 しかし、『火炎の翼持つ者 黒き門より下る』とは、随分と象徴的だ。『黒き門』――また門かと首を捻ったものの、言葉遊びのような占いに確かな意味があるとも思えなかった。ただ、ニューヨークだろうとワシントンだろうと、貴臣から片時も目を離さないほうがよさそうだ。
 大切なものを見失う――と李花は言った。そして、貴臣の夜ごとの夢で、「俺を捜してくれ」とすがりつかれた。占いを信じるわけじゃないが、用心しておくに越したことはない。
「最後は、おまえさんだ」
 李花は、ユリの右側に座ったロイへと皺くちゃの顔で微笑んだ。思ったより神秘的なものに弱い性質なのか、軍服の男はその輝きの強い両眼にらしくもなくぎくりと目を伏せる。
「あんたが気にかけているものは、すぐに解決する。だが、それをきっかけにさらに大きな運命に巻き込まれるだろう。誰の言葉でもなく、自分の気持ちに正直になることだ。そうすれば、願いは叶う」
「俺の、願い?」
 訊き返したロイは、にこにこと李花に笑顔を向けられ、かえって難しそうに考え込んでしまった。アリスのことと米軍の不穏な動きに、この男が板ばさみになっている状況はわからなくもない。だが、今度の李花の言い方は、ユリや貴臣へのそれに比べて随分と明確だった。
 ロイの気がかりがすぐに解決するというのは、アリスのこととしか考えれらない。どういう具合に解決するのかはわかったものじゃないが。
「訊いていいか?」
 ユリのほうから李花へと質問を向けると、「ああ、いいとも」とうれしそうな仕種で首を縦に振る。
「ニューヨークに絡んで動きまわってる忍者、あれは何者だ?」
 かつて病院でアリスが忍者に襲われた時に居合わせたというロイは、ぼんやりしていたおもてをハッと引き締めた。
「ほう、忍者か。あれは、コスモスウエブが動かしておる」
「コスモスウエブ? シーザー・ゴアか。ソフト屋じゃねーか」
 インターネットとソフトウェア業界で近年めきめきとシェアを伸ばして、業界大手となったコスモスウエブは、米国内でも十指に入ろうという巨大企業だ。その現会長であるシーザー・ゴアは、若くして事業を成功させた立志伝中の人物として名を知られている。
 李花の口から思いもかけない名前を聞かされて、時代錯誤な忍者と最先端のIT企業のまったく似合わない組み合わせに眉を顰める。どこでどんな接点があるのか、想像もつかなかった。
「さあな。シーザーは、あれでなかなか顔の広い男だが、どこであんなものを拾ってきたかは、あたしも知らん。ただ……」
「なんだ?」
 占いの話は多分に眉唾ものだったが、世界各国に散らばるチャイニーズ・マフィアの情報力は侮れない。思わせぶりに呟く李花へ、さっきまでのやる気のなさとはあからさまに態度を変えて、熱心に身を乗り出した。
「シーザー・ゴアは、テロ事件の少し前からマンハッタンの土地をあちこち買い漁っていた。しかも、ビジネスとしては役に立たなさそうな場所ばかり……」
「へえ、そいつは面白いな。地上げ屋を始めようってわけでもなかったのか?」
 ソフト産業で既に成功しているシーザーが、不動産に手を出したとしてもおかしくはない。けれど、それなら価値のある物件を選ぶはずだ。ビジネスの成り立たない土地を買ったというのは、やはりおかしい。それに、テロ事件の前というのが気になった。
「何かを探していたのかもしれんな」
「王が探してるお宝か?」
 同じチャイニーズ・マフィア同士、ましてマンハッタンにこれほど近い位置にいる李花が知らないはずはない。直裁に訊くと、それでも驚いたように目を丸くする。
「ニューヨークに、どんな秘密があるんだ?」
 なおも詰め寄るように詰問した。もとよりお宝になんか興味はないし、それを王が手に入れようがシーザーが手に入れようがかまいはしないから、もったいぶるつもりもなかった。
「ヤクザのくせに、欲のない男じゃな」
「まさか。欲ならたっぷりあるさ」
 李花に嘯いてちらっと左の貴臣を流し目に見ると、意味を察した恋人はほんのり赤く頬を染める。その反応はいつもと同じだが、闇を秘めた虹彩に欲情の焔が映るのは、やはりこんな場所で貴臣らしくなかった。
 クスクスと老婆は喉声で笑って、「なるほどなあ」と納得する。「若いのお」と目を細められて、「あんたよりはな」と言い返した。
「お宝というのは、ひねくれたものでな。必死に欲しがる者には手に入らず、案外そういう無欲な相手の腕に転がり込んでいきたがる。まして、おまえのような男ならなあ」
「よせよ。俺は面倒にわざわざ巻き込まれる趣味はない」
 王や米軍、それに忍者を使うソフト屋なんかと争いたくもないと、唆すような李花の科白を拒絶した。
「ニューヨークには、大きな謎がある。それは深い闇に閉ざされていて、並の者には見通せん。その闇の中を窺い知ることができるとなれば、ローマ法王か、チベットのダライ・ラマ、あるいは……」
「妙な坊主がいてな。貴臣のことを《gate》だとぬかしやがった」
 ローマ法王もダライ・ラマも、ユリにしてみればひとまとめに坊主の仲間だった。「ふむふむ」と李花はうなずく。
「日本にも、闇を見通せる者がおるのかもしれんな」
「《gate》ってのは、どういう意味だ?」
「あたしには、わからん」
 ユリの問いは、あっさりと一蹴された。「役に立たねーなー」と図々しくぼやくと、李花は気を悪くする様子もなく痩せた肩を竦める。
「分に過ぎたものを見れば、これほど長生きはできんよ」
「それもそうか」
 李花のいうことも、同じ裏社会に生きる者だからなんとなく理解できた。この世の中、よけいなことに首を突っ込めば、長生きはできないということだ。だが、好むと好まざるに関わらず、ニューヨークには行かなければならなかった。
「世話になった」
 ユリはポケットから一枚の紙片を出して、テーブルの上に置いた。その表面の数字に目を落とした李花が、ふんと鼻を鳴らす。
「なんだい、これは?」
「占いの礼だ。多い分は、俺たちの無事でも祈っててくれ。いずれにせよ、こんなものはニューヨークに持っていったって、ただの紙切れだ。それに……美人には金を惜しまないことにしている」
「おや……」
 ユリに艶っぽく流し目されて、李花は微かに赤くなった。「年寄りをからかうんじゃないよ」と笑みを浮かべながら、上機嫌で紙片をスカートのポケットにしまい込む。
「龍に会うなら、上等の酒でも持っていくといい。話が通じやすくなるよ」
「すまないな」
 ユリはもう一度李花に礼を言って、貴臣とロイを促し立ち上がった。いつの間にか外には暗い雲が垂れ込め、今にも大粒の雨が落ちてきそうな気配だ。
 急ぎ足に李花の家を出て、戸口から見送る小柄な陰に手を振った。とたんに、ぽつぽつと冷たい雫が落ちてくる。
 通りに出てもまばらにあった人の姿も、急な雨のせいでみんな周囲の店にでも引っ込んでしまったのか、人っ子一人見当たらない。薄暗い空のせいばかりではなく、なんだか嫌な感じがした。
「車まで走るぞ」
 貴臣たちを振り返ってそう声をかけた時、「ユリっ!」としなやかな腕に胸元を遮られた。
 とっさに足を止めた鼻先を、何かが掠める。ぞっと肌を粟立ててその先を窺った視界に、朱塗りの柱に突き刺さった手裏剣が映った。
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