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恋闇

LOVE MEDICINE ♪座主さまの恋のお薬♪

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『おまえな。俺は十八歳じゃねーんだ。三十のオヤジなんだ。やりすぎて不能にさせたくねーなら、もうちょっと大事に扱え!』
 それは《新宿頭部切断殺人事件》の渦中、矢吹亨(ル・やぶきとおる)が天如へと叫んだ言葉から、微妙な勘違いを孕みつつ始まった。

           * * *

「はあ、《不能薬》……ですか?」
 天在日輪宗(ル・てんざいにちりんしゅう)本山輪影寺(ル・りんえいじ)に多々ある蔵のひとつの中で、腰を屈めて古びた甕を覗き込んでいた管長の元空が、背後を振り返りながら意味を測りかねるように首を捻る。
 その先でふわりと微笑む、昼間さえあまり日の射し込まない薄闇でもほんのりと輝くような白いおもては、第百五十三世座主(ル・ざす)の天如(ル・てんにょ)のものだ。
 弱冠十八歳の宗門トップは、その腰の位置より長い艶やかな黒髪と、深い闇のような漆黒の瞳、すっきりとした鼻梁に描いたような朱い唇という類まれな美貌と、少々人騒がせなほど無邪気で愛くるしい性格で、側近の僧侶たちには溺愛されていた。
 一方では、生まれてすぐに母親を亡くし、父親の素性もわからない薄幸な生い立ちと、人並はずれた強大な霊力を生まれ持ったことから、《鬼の子》と畏怖され、忌み嫌われてもいたが、天如の天真爛漫な笑顔は、そんな翳りなど微塵も感じさせない。
 標高の高い山頂近くに位置する輪影寺に訪れる冬は早く、すでにいくらか厚めの墨染めの法衣をまとった細身の姿は清麗で、だからこそその唇から「《不能》に効く薬はないか?」とあからさまに訊かれれば、違和感と不審を抱かずにいられない。
「うん。矢吹に飲ませてやりたいのだ」
「さて……」
 狭苦しい棚の間へ潜り込んでいた腰を「よいしょ」と伸ばし、一体また急に何を思いついたのかと、神聖な山寺で生まれ育った世間知らずな青年の澄んだ双眸を窺った。
「しかし、あの男、まだ三十そこそこではありませんか。役に立たなくなるには、いささか早すぎるような気がいたしますが」
 さすがに年の功で、元空は外に洩れればちょっとしたスキャンダルにもなりかねない座主の下半身絡みの話もさらりと流したが、天如の顔つきは真剣そのものだ。
「わたしのせいなのだっ! わたしがねだりすぎるから、矢吹が不能になってしまう!」
「座主さま……」
 せつせつと訴える沈痛な表情から、天如にとってかなり切実な悩みらしいことはわかったが、それにしても矢吹とのいささか濃厚な関係をまったく隠そうとしない屈託のなさを持て余して、その後見役を務める老僧は密かな溜息を吐く。
「お困りなのはよくわかりましたが、そういった話をわたしや元信(ル・げんしん)以外の前ではなさいますなよ」
「いけないのか?」
「快くは思わない者もおります」
 物静かな口調でたしなめると、わずかに考え込むような仕種を見せた天如は、「うん、わかった」とすぐに素直にうなずいた。
「不能に効く薬ということですが……これなどはいかがでしょう?」
 それでも天如の真摯な相談に乗ることはやぶさかではないと、元空は穏やかに笑みを向け、さきほど見ていた茶色い甕の隣にある、幾分小さめの黒い甕を示した。
 そこに蔵のほぼ半分を占領して所狭しと棚に並べられているのが、元空自慢の自家醸造酒のコレクションであることを知っている天如は、興味津々で近づいてきて、甕の前にしゃがみ込む。
「これは、なんだ?」
「赤まむし酒です。しかもこれは、まむしだけではなく数々の薬草を一緒に漬け込んだ特製ブレンドですぞ」
「不能に効くのか?」
 ともかく天如の一番の気がかりはそのことらしいが、元空は胸を張って首を縦に動かした。
「もちろんです。精力増強、滋養強壮、ペニス増大、性欲増強……あ、ゴホン」
 何やら妖しげな効能を連ねすぎたと、慌てた元空は咳払いでごまかそうとしたが、天如はまったく気にする様子もなく、むしろ感心して甕を見つめた。
「おまえは、飲んだのか?」
 好奇心いっぱいで見上げてくる目つきには、多少戸惑って、「それは、その……」と、効用を自慢しすぎただけに逆に苦しげに言葉を濁す。
「最近は、とんと必要もなくなりましたので」
 どんな必要なのだろうと天如は不思議に思ったものの、元空の事情よりは、それを矢吹に飲ませた効果のほうがよほど気になって、「開けてもいいか?」と確かめてから、油紙で念入りに封をされた甕の蓋を丁寧に取った。
「薬みたいな匂いだな」
 甕の縁から熱心に中を覗いて、くんくんと形のいい鼻を鳴らす。元空もその背後から、一緒になって芳醇な琥珀色の液体を見下ろした。
「薬のようなものですが」
「酒なのだろう?」
「左様で」
 生まれた時からおむつの面倒まで見てもらってきたこの老僧と同じく、酒と名のつくものには目のない天如は、清楚な容姿にはまったく不似合いな貪欲さでちらりと真っ赤な舌を覗かせ、薄い唇を舐める。
「美味いのか?」
「飲んでみられますか?」
「いいのか?」
 気前よく勧める元空を振り返った顔が、パッと輝く。ほかのことでは厳しすぎるほど厳格な元空だったが、こと酒に関してだけは恐ろしく甘かったし、コレクションを自慢したくて堪らないらしく、「もちろんです」とにこにこ返事をする。
 そう言われれば、遠慮をするような天如ではなかった。さっそく脇にあった小ぶりの竹のひしゃくを取り上げ、いそいそと上澄みをすくう。透きとおるように白く細い喉が、酒を流し込んでこくりと動いた。
「少し、甘いな」
「薬草の成分です。案外、飲みやすいでしょう?」
 それこそ苦心のブレンドなのだと、元空は身を乗り出してくるが、天如は見向きもせずに再び甕にひしゃくを入れる。
「変わった味だが、けっこういける」
「あまり飲みすぎないでください。強い酒ですから……それに……座主さま?」
 元空が止める隙もなく、しなやかな手がひしゃくにすくった酒を続けざまに口へと運ぶ。
 刻み込まれたような皺の奥の両眼が、呆れてその飲みっぷりを眺めていたが、急にハッとしてから、背後から抱え込んで無理やりひしゃくを取り上げた。
「あんっ、もう少し……」
「いけません! 強い酒だと申し上げたでしょう」
「このくらいで酔ったりしないぞ」
 未成年のくせに、この青年は酒に関してはほとんどうわばみだった。むろん元空も承知の上だが、それだけではないのだとほのかに赤くなった頬を心配げに見つめた。
「酔うほど飲むものではありません。薬のようなものだと言ったはずです。あとでお体がつらくなっても知りませんぞ」
 酒の強力な効能を案じた遠まわしの元空の忠告は、天如には通じなかったようで、きょとんと黒目がちの瞳を瞠る。
「なんで、つらくなるのだ?」
「そのようなこともわからないようでは、まだこの酒を飲むには早すぎます。あの男には、別の器に分けて送って差し上げますゆえ、座主さまは二度と口にされてはいけませんぞ」
 元空は、時々こっそり蔵に入って酒を盗み飲みしているのも知っているのだからと、まなざしも鋭く睨んで念を押した。
「どうして、矢吹はよくて、わたしはダメなのだ?」
 不満をあらわにして責める天如は、やはり酒のせいなのか元々濡れたような目がとろんと滲んで、どこかなまめかしさすら感じさせる。それを認めて、言わんことじゃないと元空は眉間の皺をいっそう深々と刻んだ。
「不能に効く薬なのです。お若い座主さまには必要ありません。もう時間も遅うございます。部屋に戻って、おやすみください。元信に冷たい水を運ばせましょう……間違っても、そんな様子で僧坊の側をうろうろなさらないでください。弟子たちの修行の妨げになります」
「何を怒っているのだ。蔵の酒を盗み飲みしたからか?」
 自分がどういう状態なのか、まるっきり理解できていない天如が無邪気に見上げるから、元空は左右に首を振って嘆息した。
「怒ってはおりません。理由がわからないなら、あの男に教えてもらいなさい」
「うん……」
 元空が気を悪くしているわけではないらしいと、いくらか安心して、天如は大人しく立ち上がる。「おやすみなさい」と優美な仕種で頭を下げて挨拶し、ふらふら廊下へ出て行く華奢な後姿へ、「これ以上艶を増されては、まわりは堪らんな」と愚痴をこぼし、悩み多い管長は、冬に入って痛み始めた腰をとんとん叩いた。

           * * *

「何を送るって……?」
 矢吹亨は、携帯電話の向こうにいる愛しい青年へ、聞き取れなかった言葉を確認した。
 すでに日付が変わっていて、早朝から勤行のある恋人なら、もう眠っていてもおかしくはない時間だ。私室からかけているらしく、背後は物音ひとつ聞こえなくて、やわらかな布団に寝巻き姿でしどけなく横たわっている姿を思うと、妖しく胸がときめいた。
「まむし酒だ。精力増強、滋養強壮、ペニス増大、性欲増強……だそうだ。さっき飲んでみたが、けっこう美味しかったぞ」
「はあ?」
 記憶力はとびきりいい青年は、元空の言った効能を一言洩らさず覚えていたが、いきなりなんだか危険な単語を並べ立てられた矢吹のほうは、面食らうだけで、いっこうになんのことだかわからない。
 しかも、矢吹が現在いるのは、新宿署の『歌舞伎町連続ホステス暴行殺人事件捜査本部』と書かれた紙が張り出されたドアの真ん前で、ついさっき捜査会議が終わったところだった。
 ここ数日、半徹夜状態の地取り捜査が続いていて、頬はげっそりとこけ、剣呑な双眸だけがギラついている。ワイシャツだけはかろうじて毎日着替えているものの、スーツもよれよれだし、埃塗れの靴の踵はなくなりかけている。餓えた野獣そのものの形相が、電話では恋人の目に入らないことには、いくらかホッとした。
「だから、もう心配しなくてもいい。今度逢ったら、いっぱいしような」
「ちょっと待て、天如。いっぱいするのは異議はないが、心配ってのはなんのことだ?」
 一方的に話を進めようとする天如に、矢吹はわけがわからないぞと意味を訊ねた。
「わたしがいっぱいしたがって、矢吹が不能になると困るから、元空に頼んで不能に効く酒を分けてもらったんだ」
 ようやく初心(ル・うぶ)な恋人を誤解させてしまった事情に思い当たって、携帯越しに、「あー、うー……」という獣じみた呻き声を返した。
「……おまえ、それ、じいさんになんて言って頼んだんだ?」
「わたしがねだりすぎるから、矢吹が不能になるって……いけなかったか?」
 ことが下半身に関わるだけに、矢吹は秘密にしておきたかったのだろうかと、今さら気づいたらしく、窺うように声を潜めてくる。
「あのな、それは……いや、いい。で、じいさんは酒を分けてくれたのか。怒ってなかったか?」
 矢吹にしてみれば、天如の激しさに気圧され、際限なく求められるうれしさに照れもあってつい怒鳴ってしまっただけで、本気で不能になるなんて心配しているわけではなかった。むしろ、天如の肌を覚えてからは、無軌道に不特定の女や男とセックスしていた頃よりずっと欲望が強くて、会えない時間が長ければ、餓えた体が十代の盛りの頃みたいに苦しいことさえあった。その焦燥は、近頃どんどんひどくなっていくような気がする。
 まして、今まさにその十代の天如は、いくら色即是空と唱え修行を積んだ僧侶だろうと、狂おしい衝動に駆られることはないんだろうかと、つい電話の向こうの気配に息を潜めてしまう。
「怒ってはいなかったが……」
「どうした?」
 面と向かって付き合いを反対されたことはないとはいえ、大事な座主さまを不能になりそうなほど飽かずに抱き尽くしているのだと知れれば、その後見役であり手塩にかけて育ててきた老人が平気だとも思えない。まむし酒どころか、生きたまむしを送りつけられても仕方ないところだ。
「酒を飲んでいたら、元空に止められて、もう飲んではいけないと言うんだ。わけを訊いたら、矢吹に教えてもらえと、話してくれなかった。どうして、おまえはよくて、わたしは飲んではいけないんだ? そんな様子で僧坊へ行くなとも言われた」
「酒って、そのまむし酒、とかか?」
「うん」
 天如の話はもうひとつ要領を得なかったが、先ほど聞かされたかなり即物的な効能を考えれば、矢吹にも思い当たることがひとつふたつはあった。
「おまえ、その酒、けっこう飲んだのか?」
「四、五杯かな……いや、もう少しか」
 思い出そうとするようにおぼつかなく答え、天如が寝返りを打つ微かな気配がする。さらりと布団の上に広がるしなやかな黒髪が目に浮かんだ。矢吹の指はまだ搦めとったその感触を覚えていて、無意識に掌を握りしめている。
「体、なんともないか? どっか、熱いとか、苦しいとか」
「さっき、水を持ってきた元信にも訊かれたぞ……どうして、わかるんだ?」
「元信には、なんて答えたんだ?」
 つい性急に問い詰めていたのは、多分本人はまったく自覚もなく、かなり色っぽい表情をしているはずの天如を、世話係の元信だろうとほかの男に見られたくはなかったからだ。しかし、それがわからない天如は、矢吹の剣幕に怯むように吐息を震わせた。
「少し苦しい、と。そうしたら、水を飲んで一晩寝れば治るからと言われた」
「水、飲んだのか?」
 怯えさせることはないだろうと反省して、不安がっている天如へ今度はずっとやさしくいたわるみたいに囁くと、緊張が解けるのをわずかな息遣いで感じた。
「うん」
「少しは楽になったか?」
「ならない……矢吹っ、あそこ、苦しい。矢吹にされた時みたいに、熱くて、じんじんする」
 元信の前では、それでもずっと我慢していたらしくて、矢吹が甘やかすように促したとたん、箍がはずれたみたいな悲痛で、そのくせなまめかしい泣き声が上がった。どれだけ耐えていたのかと思うと可哀想になるが、天如がそうして弱みを見せつけるのは、ほかの誰でもなく自分だけだと知って、一方では歓喜が込み上げる。
 天如を苦しめているものの原因は判明したが、元信が一晩寝ていれば治ると言ったのなら、少々興奮する程度のただの酒で、性質の悪いものではないだろう。しかし、こんなふうに天如を身も世もなく泣かせるくらいには、媚薬めいた効果もあるのだろうし、元信はともかく、矢吹にあっさり突き放せるはずもない。
「おまえな……それ、酒のせいだぞ。じいさんから、聞いたんだろう」
「精力増強、滋養強壮、ペニス増大、性欲増強、か?」
「ああっ……もう、それを言うなっ。おまえが言うと、こっちのほうがおかしな気分になるだろうが。一応、まだ仕事中なんだぞ」
 相手が矢吹だから許しきって甘えるようにうっとりと呟く天如には、堪ったものじゃないと唸りつつ苦情を言った。その乱暴な口調に、天如がハッと息を飲み込む。
「仕事なのか? 電話をして迷惑だったか……ごめんなさい」
「ああ、そうじゃねーよ……ちょっと待て、こんなところじゃ、ゆっくり話もできねー」
 悲しげに消沈する声音をなだめておいて、廊下なんかじゃ不味いだろうと、さすがに人目を気にしたのは、本庁から派遣されて来ている一課の刑事に、私用の電話を咎めるみたいにじろじろ見られてしまったからだ。
 邪魔の入りそうにない、空いている取調室を見つけて慌てて駆け込んで、後ろ手にドアを閉ざした。
「おまえからの電話が迷惑なはずねーだろ、天如」
 そうして、耳朶を濡らすような低く婀娜めいた声色で呼んでやれば、「あ、ん……」と細い喘ぎ声が洩れてくる。まむし酒なんか飲まなくても、矢吹のほうはその響きだけでぞくぞくした。
「矢吹ぃ……したい」
「何、したいんだ?」
 素直に欲望を訴えられて、つい意地悪く笑みがこぼれてしまう。すぐにでも抱きしめてやりたかったが、遠く離れた恋人とは声を伝え合うだけが精一杯で、けれどそのせつなささえも悪い気はしなかった。
「矢吹と、セックスしたい」
「どんなふうに?」
 正直すぎる恋人は、電話越しに求めれば、あられもない科白さえ口にしてくれる。可愛らしくて、とびっきり淫らで、輪影寺の広い座主の間に敷かれた布団の上で乱れる天如の姿を想像しながら、矢吹の体も熱く滾った。
「ここ、熱いところ……ぎゅっと握って、ぐちゃぐちゃって動かして」
「自分で触れるだろ……触ってみろよ」
 天如が大好きな少々荒っぽいやり方の愛撫をせがまれ、無理だろうと苦笑して、卑猥な言葉で唆す。
「自分で……するのか?」
 自慰という行為すら知らないらしい天如は、途方に暮れるように訊き返すから、その愛らしい顔や仕種が見えないところで教えてしまうのが少なからず残念だった。とはいえ、それはまた別の楽しみ方もある。
「俺の手だと思え……全部、聴いててやるから」
「あ……」
 そう言われて初めて、自分のしている電話を挟んだ淫蕩な行為に気づいたらしくて、恥じ入るようにわななく息がひどく色っぽかった。
「矢吹……」
「ん?」
「聴いたら嫌」
「じゃあ、電話、切ろうか?」
 睦言にも慣れない幼い拒絶は、凶悪に可愛くて、ひどいことをしているとわかっていて、ついつい苛めるようなことを言ってしまう。
「切っちゃ、嫌ぁっ!」
「おい、じゃあ、どうすりゃいいんだ」
「矢吹、ひどい……意地っ、悪、だ」
 ひっくひっくと痛々しくしゃくり上げられて、実際、熱を持った体も耐えきれないほど苦しいんだろうとわかった。
「ごめん、悪かったよ、天如。恥ずかしくなんかねーから。俺が、うんと気持ちよくしてやるよ、な?」
 真摯な態度で謝って、やさしく誘惑すれば、嗚咽の間で「うん」と返事が聞こえる。そんないじらしい恋人を、抱いてあやしてもやれないことが矢吹だってもどかしい。
「そっち、夜はもう寒いんだろうな」
「うん。どうして?」
「腹出して、風邪ひくなよ。寒かったら、布団の中に潜ってしろ」
 冗談めかした矢吹の気遣いには、天如は小さく声を上げて笑った。けれども、そんな些細なことで、どれだけ恋人に愛され、大切にされているかを確かめて、笑い声さえ甘やかに蕩けていく。
「矢吹……」
「熱いとこ、握ったら、ゆっくり動かしてみろ。いきなり乱暴にするなよ。そっとだ」
「うん……あっ……矢吹っ、あっ、あっ、ああっ、これで、いいっ?」
 見えないから何が「これ」なのかは矢吹には謎でも、上擦って掠れる天如の嬌声だけで感じていることは十分にわかるから、「ああ」と囁いた。
「上手にできてるよ。じゃあ、今度はもうちょっと大きく動かしてみな」
「こうか? あっ、あんっ、ふあっ、ああっ……やっ、矢吹っ!」
「どうした?」
 悲鳴めいた叫びに呼ばれて、何か無茶をして傷ついたのかとうろたえたが、そのまま絶え入りそうな艶やかな音色へと変わっていく。
「あ、ふっ……ああっ、あああぁ――っ……っ、ぅ……んっ、んっ、ぅ」
 荒い呼吸ばかり聞こえてきて、何があったのかはすでに矢吹も察しがついていた。
「……出ちゃった」
 ようやくこぼれた告白に、ひっそりと微笑んで、「早すぎるぞ」とからかった。だが、せつなげな啜り泣きはやむ気配もなくて、いくらか心配になって携帯を握りしめた。
「まだ、苦しいのか?」
「矢吹、止まらな……いっぱい、出ちゃう」
「出していいから、天如……全部、出しちまえ。どっか、痛いところはないか?」
 はぁはぁ……と速い喘ぎはいかにもつらそうに、矢吹の耳へ突き刺さる。そうなってしまえば、恋人といいながらも保護者気分の抜けない男は、色気どころではなくなって、内心はおろおろしながら励ますように声をかけた。
「痛くない……気持ち、い……矢吹、もっとしても、いいのか?」
 どうやら、一回イったくらいでは治まりきらなかったらしい。若い天如なら、それも当然のことだろう。別に痛みを感じている様子もないようだと胸を撫で下ろして、続けていいかと許しを求めてくる天如には、いっそう愛しさを掻き立てられた。
 どこまでも無垢で可憐なこの青年は、身も心も矢吹ただ一人のものだった。そして、それを何よりも望んでいるのが天如自身なのだと教えてくれる。
「ああ……あんまり無理に扱くなよ。やさしくするんだ。いつも俺がしてやってるだろ?」
 繊細な性器を傷めないようにと注意してやれば、「うん」と任せきった甘い声音を返してくる。
「気持ちいい、けど……やっぱり、矢吹がいい。矢吹の大きな手で、いっぱい、されたい」
「してやるよ。すぐに犯人をとっ捕まえて、おまえのところに飛んでいくから、いい子にして待ってろ」
 難航する事件の捜査は、犯人の遺留品も手がかりも目撃者もほとんどなく、今夜の捜査会議でもなんの進展も見られずに、すでに迷宮入りの様相すら呈し始めていたが、そう言った矢吹は本気だった。この愛しい青年のためなら、どんな無理でもしてやりたかった。
「うん、矢吹。待ってる、から……いっぱい、して? ここ、こっちに、矢吹の、挿れて……いっぱい突いてほし……」
「おい……おまえ、どこ弄ってるんだ?」
 呟きは妖しく乱れていって、「ああ――んっ」とか細い高音を奏でる。天如が触れているのが、さっきまでとは違う場所だと気づいて、大丈夫なのかと冷や冷やさせられたが、泣き声の様子ではどうやら楽しんでいるだけらしい。
「矢吹ぃ……欲しい。矢吹の、おっきいの」
「あんまりエロい声出すな。勃っちまうだろ。仕事中だって、言っただろうが」
 舌打ちしたが、急速に凝っていく下腹の熱は自分でも抑制できなくて、形まで凶暴に変わってしまうから、あとで便所に行って抜くしかないかと苦い溜息を吐く。
「矢吹っ……」
「なんだ?」
「もっと、いやらしいこと言って」
 思いもしなかったことをねだられて、ギョッとしてから、どっちがいやらしいんだと、もうすでにテレフォンセックスのコツを心得てしまっている天如の物覚えのよさには、心底舌を巻かされた。
「おまえ、俺の声をオカズにして、尻の穴を弄ってるのか?」
「あ、んっ……オカズって、なんだ?」
「こうやって、恥ずかしいこと言われて、あそこを濡れ濡れにして歓んでることだよ」
 確かに、こういう下品な科白は低くこもった矢吹の声質に恐ろしく似合っていて、天如の息遣いはますます荒く切迫していく。
「う、ん、濡れて……濡れちゃ……ああっ、矢吹っ、矢吹も、濡れるか?」
「ああ、畜生っ! おまえのせいで、ぐっしょりだよ。このあと、まだ聞き込みもあるんだぞ」
 被害者のホステスたちが殺されているのは仕事帰りの明け方がほとんどで、その時間に現場付近で目撃者を捜すのも、矢吹の仕事だった。
「浮気、っ……しちゃ、嫌だぞ」
 ちゃっかり聞き咎めて釘を刺してくるところは、快楽に意識を飛ばしかけていても、いかにも天如らしくて、「バカ、しねーよ」とひっそりと忍び笑う。
「たっぷり溜まったのを、おまえの口の中に突っ込んで、しゃぶらせて、飲ませてやるよ。好きだろう?」
「うん、好き、好きっ……矢吹の、飲ませて。ここ、中に、かけてっ……あっ、あ、あっ、あああ――っ!」
 あられもない悲鳴を上げて天如が達したのを知って、矢吹もまた込み上げてくる下腹のうねりを、奥歯を噛みしめて堪えた。天如に逢ったら、真っ先にあの朱い唇に咥えさせてやるぞと決心したのは人情というものだろうが、案外、突っ込む前に向こうから食いつかれているかもしれなかった。
「天如、腹出したままで寝るんじゃねーぞ」
「うん……おやすみなさい、矢吹」
 恋人の欠伸混じりの平和な囁きに、仕方ねーなと微笑んで、「おやすみ」と携帯へチュッと口づけの音を立ててやる。チュッと可愛く返されて、「好き」と聞こえてきたそれは、もう半分幸福な夢の中へと溶けていた。

           * * *

 後日、輪影寺から矢吹のアパートに送られてきた小ぶりの甕には、熟成された酒と一緒に焼酎に漬け込まれたまむしが入っていた。
『矢吹へ。まむしの皮は、傷口に貼れば回復が早まるそうだ。身も、一年間焼酎に漬けて毒素が消えているから、干して蒲焼にして食べることができる。精がつくぞ。天如』
 幽霊とかお化けといった、足のないやつらが大嫌いな男が、同じように足のない蛇が最も苦手なことを、可愛い恋人はいまだ知らなかった。

end.
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