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恋闇

LOVE MEDICINE ♪座主さまの恋のお薬♪ その後

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           ☆

「矢吹、雪だ……」
 開け放たれた窓の向こうには、深夜になっても明かりの絶えることのない灰色の闇が広がっていた。その墨色にくすんだ空から、ちらちらと真っ白な氷の欠片が落ちてくる。
 部屋の中を振り返った天如(てんにょ)がはしゃいだ声を上げたのは、何も雪が珍しかったわけではない。年の暮れも押し迫ったこの時期、天如が暮らす天在日輪宗(てんざいにちりんしゅう)の総本山である輪影寺(りんえいじ)は、既に深い雪に呑み込まれて、外界と行き来をすることも容易には叶わない。
 特に、地形のせいかそれとも寺に封じ込められている種々の力の影響なのか、輪影寺のある山のまわりは天候が荒れやすく、徒歩以外では唯一の交通手段と言ってもいいヘリコプターも近づくことすらできなくなる。
 年の瀬の殺人的なスケジュールともいえる座主(ざす)の法務を、すっかり慣れきった態度で難なくこなし、周囲が音を上げるほどのハイスピードで終わらせた天如が、東京に行きたいと言いだした時も、寺の総務のいっさいを取り仕切り、また未成年の座主の後見役でもある管長の元空(げんくう)は決していい顔をしなかった。
 寺の周囲はここ三日間も吹雪が続いていて、視界すらおぼつかない。いかに山道に慣れた天如でも、途中で方向を見失ったりしないかと、心配したらしい。とはいえ、直線距離でさえかなりある峻険な山道を、猛吹雪の中、踏破しようなどという命知らずは、いくら山岳修行を極めた高僧の数多い輪影寺にも、天如以外にはいなかった。少なくとも、生身の人間では、雪混じりの強風に煽られてまっすぐに歩くことすらできないだろう。
 供を付ければ、逆に天如の足手まといにしかならないことは、考えるまでもなく明白で、溜息をつきつつ天如を山門から見送ってくれた元空は、それでも弱冠十八歳の座主が持つ桁外れの験力を、誰よりも信奉しているらしい。
 雪も凍える風にもうんざるするほど馴染んでいる天如が、やわらかな声音を弾ませたのは、そこが東京の片隅にある恋人のささやかなアパートで、雪など滅多に見ることもできない場所だからだ。
「どうりで、底冷えするはずだな。……おい、天如。いつまでもそんな格好でいると、風邪ひくぞ」
 窓から吹き込んでくる冷たい空気に、迷惑そうに顔を顰めた男が、もぞもぞと潜り込んだ毛布の中から、天如の様子を窺って気遣う。
 言われたとおり、天如は肩からしどけなく羽織っただけの淡い水色の長襦袢の下は、雪よりも純白の素肌のままで、今は先刻までの狂おしい情事の余韻を残して、ほんのりと薄紅に上気している。それで外の風に当たりたくなり、窓を開いて、夜になり知らない間に降り始めていた雪を見つけたのだった。
 けれど、もっと厳しい寒さの中で過酷な修行を積んできた天如とは違い、東京生まれで東京育ちの恋人には、あまり心地よいものではなかったのかと、小さく首を傾げる。
 さらさらと肩をすべった艶やかな闇色の髪は、長く素足の上まで落ちてしなやかに撓んだ。瞳の色は、さらに底知れない暗闇を凝らせたような漆黒だった。なめらかな頬はその若さを誇るみたいに瑞々しく、神秘的な白玉を思わせる光を内に湛えている。四肢は華奢で、指先まで繊細な形を持つそれが、時に驚異的な力を生み出すことを知る者は少なかった。
 代々の天在日輪宗の座主は『闇喰い』と呼ばれ、人の世に溜まった汚れをその身に呑み込み、世界を浄化する役割を担う。そうして汚れを受ける者は、自らも闇に染まってしまう。わずかな身のまわりの世話をする僧侶以外、俗人との交わりをほとんど絶ち、孤独のままに生涯を終えるのがその宿命だった。
 幼い天如に人並はずれた霊力を見出し、まだ恋も人として生まれた歓びすら知らないまま、重い責務を押しつけた者たちは、今の光景を想像もしなかっただろう。
 細い指で歪んで軋む古ぼけた窓を閉めた天如へ、「来いよ」とベッドの男が呼ぶ。差し延べられた逞しい腕の中に、天如はまっすぐに飛び込んでいった。
「ん、んっ、ん……あっ、は……ん――っ」
「こら、食いつくな。……舌、出してみろ。吸ってやるから」
 重ね合わせた唇を勢いあまって噛みつかれた男が、痛いと眉根を寄せて苦笑しながら誘う。
 素直に欲しがって差し出した甘い舌先を、口腔の内側であやすみたいに吸い取って舐めてくれる。くちゃくちゃと湿った音色が感じ合う場所から直に響いて、うれしいともっと深みにまで天如はなまめかしく動く緋色を突き出した。
「んふっ……っ、あ!」
 そうしながら、冷えた肩を温かな毛布の中へと引っ張り込まれ、薄い絹を剥ぎ取られた肌へと巧妙な指先が彷徨ってくる。ふっくらと尖ったままの微かな突起を探り当てられ、親指と人差し指にきゅっと摘ままれると、そこから鋭い痺れが走って、びくんとたおやかな背中を反り返らせた。
「やぶ、き……」
「うん?」
「そこ……噛んでっ」
 ひとまわりも年上の恋人は、余裕のある態度でいつも天如を甘やかしてくれる。誰にも触れられたことのなかった無垢な肉体に、濃密なキスやセックスを教え込んだのもこの男だから、剥き出しの自分の欲情を恥じることもなくせがんだ。
 ふっと鋭利な頬に淫蕩な笑みを浮かべた男は、薔薇色に染まったそこを天如の望みどおりにきつく噛んで、強い刺激を与えてくれる。
「あんっ、い……」
 気持ちいいと甘やかな泣き声を上げて、白い指が胸元に擦りつけられている男の顎をまさぐった。
 さっきからちくちくと敏感な皮膚にもどかしいようなむず痒さを加えるそこには、夜勤明けに帰宅したばかりで、顔を見るなり天如と抱き合ってしまったから、剃る暇さえなかった髭が半端に伸びている。
 元々野性味の強い男の精悍な容姿にどこか崩れた印象をさらに濃くするそれは、ひどく似合っていて、時間さえあれば天如の柔肌が痛まないようにといつも丁寧に剃ってくれるんだけど、本当はそのわずかな痛みさえ嫌いではない。
 指に触れるとざらざらするそれを無意識になぞっていると、気がついたらしい男が、ひょいと顔を上げる。
「髭……剃ってなかったな。痛いのか?」
「ううん……気持ちいいから」
 とろりとしたまなざしで偽りのない言葉を囁くと、天如自身も自覚のないあまりにも淫靡なその表情に男は短く息を呑み、「まったく」と困ったみたいに呟く。
「あんまり煽ると、また手加減できなくなるぞ」
 例によって予告もなく男の部屋を訪れた天如と、数カ月ぶりに交わしたついさっきまでの行為だって、大概しつこくしてしまったからと、なんだか後ろめたさでも感じているみたいに、男は薄茶の目を眇めてみせた。
 日本でも最も凶悪犯罪の多い新宿署の強行犯係の刑事という職業柄、目つきの悪さばかりが目立つ男のその虹彩が、実はやさしく温かな澄んだ薄茶色をしていることを、知っているのはほんの一握りの人間だけだろう。
 外見よりも人をその本質で感知する天如が、真夏の新宿の雑踏でこの男と一番最初に出会った時、照りつける陽光よりも眩しいその内なる光に見惚れた。汚れきって澱んだ空気の中で、この男のまわりだけがどこまでも清浄だった。
 だから最初は、この男のことを人間だと思えなくて、精霊か、何かの気の塊か、それとも神仏の化身かと戸惑った。人の魂がそれほど汚れなくこの世に存在できるものだと知ったのは、矢吹亨(やぶきとおる)というこの男に興味を惹かれてつきまとい、近くで触れ合えるようになってからのことだ。
 男は背が高く、自己流の格闘技が得意だというだけにその四肢も強健だった。身も心もタフで、どんなに凶暴な事件の渦中でも自らが傷つくことを恐れない。服装や行動はルーズで、一見するとちゃらんぽらんにも見えるけれど、仕事に対する真摯な情熱には天如も敬意を抱いていた。そして今は、何よりも激しい情熱で天如を愛してくれている。
 座主という立場上、輪影寺の僧侶たちは皆、天如を敬愛し大切にしてくれる。裏でどんな悪口雑言やその力を畏怖するがゆえの怪しげな噂を囁かれようと、表立って天如を傷つけようとする者はいなかった。
 側近である元空や身のまわりの世話を焼いてくれる元信(げんしん)は、深い情を天如に向けてくれたけれど、それも自らの立場をわきまえた控えめなものでしかない。まして、天如の持つ凄まじい霊力を間近に知る彼らは、どれほど敬い丁重に仕えていても、対等な愛情を注いでくれることは決してなかった。
 生まれた時からそれが当たり前の環境で育った天如は、別に淋しいこととも思わなかったし、淋しいという感情自体をよく理解できていなかったのかもしれない。
 矢吹に愛されて初めて、天如は誰かを愛しいと思う気持ちを知り、恋しい相手に逢えないことの淋しさを知った。
 輪影寺の座主であり、天在日輪宗の頂点に立つ天如には、国家元首並みの多種多様な仕事や重責があり、勝手に寺を離れることもできない。自由に使える時間さえほんのわずかで、それは新宿署の刑事であり、連日のように起こる事件に忙殺されている矢吹にしても大差はない。
 山深い寺と新宿に離れて暮らす二人には、こうして触れ合うことのできる機会すら滅多になく、たまに逢えれば過ぎるほどに相手を求めてしまうのは当然のことだった。
 きっと矢吹は、恋にもセックスにも今だ慣れない天如のことを気遣ってくれているんだろう。そう思えばうれしいくもあるけれど、今はもっと理性も及ばないほどに求められたい。
「だめ……なのか?」
 これ以上欲しがってはいけないのかと、まっすぐに男の双眸を覗き込み、ふと気になってその下腹へとほっそらとした指先を伸ばした。
「おいっ、天如?」
 いっそう困惑した男がなおも声音を荒げるのもかまわずに、先程の行為なんかなかったことのように強張り反り返った性器を上下に撫でまわす。無心なくせにかえって卑猥なその手つきには堪らずに、正直な部分がびくんびくんと反応を示し、猛々しい鎌首をもたげて尽きない欲望を主張した。
「よかった……」
「……何が?」
 心底ホッとしたようにふわりとした笑みをこぼす天如の美貌に、わけがわからずに男が首を捻る。
「不能にはなっていないな? 元空の送ってくれた酒は効いたのか?」
 前回矢吹に会ったのは、二人が偶然に同じ政治家絡みの呪詛事件に巻き込まれた時で、天如はその時も依頼主である参議院事務局が手配してくれるというホテルを断り、このアパートに入り浸っていた。
 遠く離れた輪影寺で恋焦がれた男の側にいられれば、ただその熱や口づけが欲しくて、つい夢中でせがみ過ぎてしまったらしい。
『おまえな。俺は十八歳じゃねーんだ。三十のオヤジなんだ。やりすぎて不能にさせたくねーなら、もうちょっと大事に扱え!』
 矢吹にそう怒鳴られて、お互いの年齢の差は自覚していたものの、身体能力にそれがどれほどの影響を与えるものかなど考えたこともなかったから戸惑った。
 もちろん、十八歳といういまだ思春期にいる天如に、男の体の衰えなどわかるはずもない。それほど大変なことなのかと貪欲すぎた自分を反省して、管長の元空に矢吹を不能にさせない方法を相談した。
 回数が多いのがだめだというなら、減らせばいいだけのことだけれど、天如としては矢吹にいっぱいしてほしい。矢吹に教えられたその行為は、天如の心にも体にも何よりも心地よいものだった。それでなくとも、男に逢える機会は年に数えられるほどしかない。我慢しろといわれるのはつらいし、矢吹の顔を見れば肉欲を知った体の疼きを隠せない。
 仏教の教えには禁じられる場合が多いものの、こと天如自身は色欲に関して特別なタブーを感じることはなかった。奔放に生きてきた天如の感性を第一に重んじる元空は、今のところ矢吹との関係も静観するつもりらしい。天如が欲望に染まることと、無理やり矢吹から引き離すことと、どちらが危険が少ないかを、まだ判じかねているのかもしれない。
 実際、矢吹への恋に溺れている天如は、今目の前でこの男を奪われたら自分がどうなってしまうか想像もできなかった。
 真っ正直に打ち明けた天如の悩みにも、元空は動じずに、不能に効くという秘蔵のまむし酒を矢吹宛てに送ってくれた。天如がほんの少し味見をしただけで、体が火照って苦しくて堪らなくなったほどの催淫効果のある酒を飲ませれば、矢吹の精力の衰えを少しは先に延ばせるかと期待したのだけれど。
 溜息をついて、「あのなあ……」と肩を落とす男には、あの強力な酒でもあまり効果はなかったのかと不安になった。
「まだよくないのか? 元空に、もっとよく効く薬を訊いてみるか? でも……」
 天如の華奢な掌にあまる大きさで、どくどくと脈打つそれは熱くて雄々しくて、思わず淫らにごくりと喉が鳴る。とても不能になりそうには見えないけれどと、濁りのない赤子の瞳で、じっと恋人のおもてに見入った。
「いや……心配するな。じいさんにもらった酒が効いて、すっかり元気になったから……」
「そうか。じゃあまた、元空に頼んで送ってもらうから」
「あっ? ……ああ」
 口元を多少引き攣らせながら微笑んだ矢吹が、実はまむしに限らず足のないものは大の苦手で、焼酎漬けのまむしが入った甕ごと即座に呼びつけた後輩の片山刑事に引き取らせたことなど、天如は知るはずもない。単純に男が元気になってくれたことを喜んで、再びしげしげと掌の中へ視線を落とす。
「じゃあ、これ……」
 緩やかに男を見上げた瞼が薄っすらと紅潮して、ぞくりとするほど妖しい艶を滲ませる。
「舐めても、いいか?」
「ああ……」
 男のそれを口の中に含み、その灼けつく熱と激情を感じるのが、天如はとても好きだった。矢吹から、《フェラチオ》というのだと教えられたそれは、もうひとつの場所へ男を受け入れるのと同じくらい天如に歓喜を与えてくれる。感じやすい粘膜と舌を絡め、膨れ上がっていく性器にいっぱいに満たされると、頭の中と体の芯が真っ白に溶けてしまう。
 喉の奥へと放たれる青臭い体液さえ、天如にとっては慕わしく、飲み干すのも肌で受け止めるのも心地よさしか感じない。
 仕事からアパートへ帰ってきた男と性急に抱き合った時には、そんな余裕さえなく前戯もそこそこに開かされた両足の間を貫かれ、延々揺さぶられ続けたから、唇での愛撫は一度もしていなかった。
 淡く口元を綻ばせる男に許されて、いそいそとその下腹へ顔を伏せ、ためらいもなくぱくりと咥え込む。既に昂ぶって大きな強直は、どうしてもすべては頬張りきれなくて、根元のほうへは指を使って刺激した。
「美味いのか?」
「……うん」
 餓えたような天如の仕種に、微かに忍び笑った男に訊かれ、強張りを含んだままくぐもった音色で返事をする。男の手が、愛しげに天如の後ろ髪を梳き、何度も撫でてくれるから、ますます熱心に食らいついた。
 ぴくぴくとその脈動を口内に感じる。間近で聞こえる男の息遣いがだんだん荒くなっていき、時々引き締まった腹筋が攣られるように動いた。舌触りはなめらかで、凄く気持ちいい。ちろちろと敏感な裏側を舐めて、先端の鈴口をくすぐった。
「天如……」
 掠れた響きで男に呼ばれて、潤みきったまなざしを上げると、そこにも光を増した薄茶の虹彩を見つけだす。
「出して、いいか?」
「……んっ、ん」
 うれしいと、咥えたままわずかに首を縦に振って、上下のストロークを速めながらきつく吸い上げた。
 すぐに口の中で飛び散ったものが、とろりとあふれてくる。こくりと喉を鳴らして嚥下し、こぼれたものをまといつけてぬるぬるになった指で、絞るみたいに扱けば、またどくんと新たな熱が吹き上げた。
「おい、全部食っちまうつもりか?」
 いい加減にしろと矢吹に腕を取られ、強引に引き起こされて、腹の上に乗せられた。
「う、ふっ……はっ……」
 愛らしい口元を、男の精液でどろどろに汚したおもては恐ろしく淫蕩で、矢吹が熱しきった目つきを彷徨わせる。
「今度は、おまえを食わせろよ」
「うん」
 その挑発には素直にうなずいて、さらりと長い髪を揺らして男に覆い被さった。まだ少し男の残した苦味の残っている舌先を絡め合わせ、ちゅっと濡れた音を奏でて唇を押しつける。誘うように舌先を閃かせれば、男のそれが追いかけてくる。奪い合うような痴戯を繰り返しながら、背中をすべり下りてきた男の手が、なめらかな丸みを包んできつく揉んだ。
「あんっ! あっ、あ……」
 上擦った声音が洩れて、男の腹に擦れる下肢がなまめかしく蠢く。押し潰されるみたいに刺激される天如の弱みも、もう一方の指が締めつけた。
「あっ、いいっ……もっと、強く」
「どっちがいい? 前と後ろと……」
「どっちも……」
 意地悪く問う男に、欲深く答えると「よかったな」と笑われた。熱の点った目線に晒されると、体の芯のじんじんする疼きがいっそう強くなる。
「じゃあ、舐めるのと、入れるのと、どっちがいい?」
 もう一度どっちもと言いたかったけれど、同時にそれをするのは無理で、天如は小さく首を傾けた。
「あのね……入れながら、手でして。それで、いっぱい突いて……」
「おまえ、やっぱり、頭いいな」
 卑猥な望みを恥じらいもなく口にする天如を、矢吹は淫靡に笑いながら褒めて、抱え寄せた細い肢体を乱れたシーツへと緩やかに組み敷く。
「膝、抱えて開いてみろ」
 あられもない格好を強制されても、もう男が欲しいばかりになっている天如は抵抗もなくそれに従った。
 男に向けて突き出した尻の狭間で、やわらかな襞がひくひくと震えている。慎重に潤滑用のゼリーをまとった指が入り口をなぞり、一度開かれているその場所はずるずると長いそれを根元まで呑み込んだ。
「すげーな、ここ……ぴったり吸いついてくる」
「やぶき……」
「うん?」
「擦って、奥っ! ……動かして」
 自分自身の蠢動だけではもう物足りなくて、「早く……」と甘いねだり声を上げていた。
 片頬に苦い笑みを刻んだ男が、「これで、イくなよ」と念を押して、望みどおりに中の指を軽く曲げ、天如の快楽のポイントを揉み込むように動かしてくれる。
「あんっ、あ、あ……いいっ、そこ、気持ちいいぃ、矢吹っ」
「これ、好きか?」
「うんっ、好き、好きっ……ああんっ、いっ、お尻、いいっ!」
 白い素足をばたつかせて、湿ったシーツの上で身悶えると、男の腕に強く押さえ込まれた。
「力、抜いてろよ、天如……」
 無邪気な誘惑に我慢できなくなったらしい男が上体を倒してくると、ぷちゅんと粘い音を立てて指が抜き取られたところへ、待つこともなく荒々しい剛直があてがわれ、一息に入ってくる。
「ああ――っ、あ――っ! あんっ、ああっ、ああぁ――」
 過激なほどの衝撃に、一瞬視界と頭の中が真っ白に溶けた。ぐーっと腹の奥でせり上がってきたそれはあまりにも大きくて熱くて、反射的な涙があふれ出す。
 ひっくひっくと泣きじゃくれば、逆に中の灼熱をよけいに締めつけてしまって、自分自身に与える悦楽に、天如はまた高い泣き声を放った。
「はっ、あんっ、ああんっ……や、あっ……」
「そんな、締めるな。保たなくなるぞ……天如、息、吐け!」
 やさしく頬を叩いて促され、ほーっと長い息を吐き出すと、いっそう深みにまでその先端が届いた。
「やんっ! 大きいっ……」
「仕方ねーだろ。そんな色っぽい顔で、散々煽られたら……手加減できねーって、言っただろうが」
 自業自得だと咎められ、でもぽろぽろ涙のこぼれ落ちる頬を甘やかなキスで拭われた。乱暴なことを言いながらも、男の仕種はどこまでも天如に献身的で、あやされると内側からとろりと蕩けていく。
「ふっ……あんっ、動くっ、矢吹っ」
「動いてるの、おまえだろ……ったく、やらしー腰使い覚えやがって」
 我慢できないと、ずんと貫かれ、瞼の裏でぱちぱち火花が散る。でも、そこから広がる熱は信じられないほど気持ちよくて、もっとほしいとしなやかな腰つきが夢中で躍った。
「あっ、あっ、あ……すご……やん、や……これ、なんだ?」
「いいんだろ?」
「うんっ、いっ、すごく、いいっ」
「なら、好きに腰振ってろっ!」
 楽しそうに叫んだ男に速い律動で揺さぶられると、指先にまで痺れるような愉悦が走り抜け、びくびくわななきながら、獰猛に前後する男の腰を素足にきつく挟み込んだ。一緒になってどこかへ駆け上っていくみたいな感覚に、置いていかれまいと広い背中に必死にしがみつく。
「あっ、はあっ、やぶきっ、やぶき……」
「ああ、ここにいる。抱いててやるから……大丈夫だ」
 泣き濡れた目にはぼやけた光しか映らなくて、頼りなく確かめるように男の名前を呼ぶと、ぎゅっと抱きしめられ、耳朶へ口づけを繰り返し、熱い吐息で囁いてくれる。
「やぶき……」
 男に「天如」と声をかけられると、胸がきゅんと痛い。せつないような想いは、繋がっている部分の熱をさらに上昇させていくようで、燃えるみたいな呼吸を洩らして、乾いた唇を舐めた。
 無言の要求をちゃんと感じ取ってくれて、男は上下の唇を交互にいたわるように啄ばんだ。
「好き……やぶき……」
 キスの間にこぼれた言葉は、無意識の天如の真実だった。軽く息を呑む気配がして、「俺もだ……」と敬虔に潜めた声音が聞こえ、誓うようにそっと唇が触れ合う。
 薄く瞼を開くと、そこに真摯に潤んだまなざしの男の姿が滲み、天如は微かに口元で笑った。
「イっちゃう……」
「ああ。イっていいから、天如っ」
「ああっ、やぶ、き、やぶきっ……」
 汗の光る男の肩口に顔を埋めて、何度も爪先を痙攣させた。迸ったものが男を濡らし、シーツに染みを広げていく。そこに、天如の中からこぼれ出した男のものが混じり合い、滴り落ちた。


           ☆

 窓からは、明るい陽光が射し込んでいた。けれども天如が目を覚ましたのは、開いた窓から流れ込んでくる澄んだ冷たい朝の空気のせいだった。
 素肌のままの肩から毛布がずれ落ちかけていて、くしゃんと小さなくしゃみをする。
「すまん、寒かったか?」
 窓を開けて、熱心に何かしていたらしい男が、振り返ってから後ろ手に慌ててガラス戸を閉ざす。
 寒がりのくせに一体何をしていたんだろうと、そちらへ視線を動かすと、上半身にはぬくぬくとした綿入れ半纏を着込んでいるものの、下はまだパジャマ姿のままだ。
「わたしは平気だが……どうかしたのか?」
 問いかけた声は、まだ昨夜の余韻に甘く掠れていて、だるい下肢を庇いながら起き上がる所作も色っぽい。
「ああ、無理しねーで寝てろ」
 慌てて戻ってきた男が、天如の肩を抱いて温かな毛布の中へと押し返す。その触れた指先がひやりと冷たくて、天如は驚いて伸ばした掌に包み込んだ。
「どうしたんだ、こんなに冷えて?」
「ん、いや……ゆうべの雪が、まだちょっとだけ残っててな。珍しいから、つい悪戯を……」
 答える男は、本当に照れたガキ大将みたいな表情をしていて、ふーんとまた不思議そうに見上げる。どうしても気になっているような天如の目つきに、矢吹は「見てみるか」と、どこか恥ずかしげに誘った。
「うん」
 勢いよくうなずくと、「別に、面白いもんでもねーぞ」と念を押される。そうして、毛布に包み込むようにして、矢吹は天如を横抱きに抱え上げた。
「自分で歩けるぞ」
「いいから、甘えてろ」
 抱いていたいんだと言外に教えられて、冷えかけていた肩も胸の中も熱くなり、するりと伸ばした両腕で、外まわりの仕事が多く冬にも日に焼けた逞しい男の首を抱いた。
 窓際に近づくと、建てつけの悪い窓枠の辺りから冷たい隙間風を感じる。もちろん、古い寺に住む天如にはそんなことは日常茶飯事で、どうというものでもない。
 窓の傍らに下ろされて、矢吹がぎしぎしいうそれをもう一度開けると、そこは三十センチほど外へ張り出していて、言われたとおり昨夜の名残の雪が薄っすらと積もっている。
 けれど天如が目を丸くしたのは、その雪の上にちんまりと乗っている丸い雪の塊を二つ乗せた縦長の鏡餅みたいなものだった。よく見れば、丸めた雪の玉に、もう少し小さめの雪玉を乗せて、そこに目玉のような黒い丸が二つ、ちょんちょんと並んでいる。大きいほうの雪玉には、手みたいな棒が二本、両側から突き出していた。
「これは、なんだ?」
「なんだって……」
 温かい腕の中に包み込んでくれるように寄り添った矢吹へと質問すると、戸惑った男は、「雪だるまに見えないか?」と訊き返してくる。
「雪だるま? 確かに、だるまのような形だな」
 言われてみると、政治家の選挙事務所で何度か見たことのある赤い張り子の目無しだるまによく似ている。そう呟いた天如を、今度は矢吹がきょとんと見つめ返した。
「おまえ……ひょっとして、雪だるまを知らないのか?」
「うん……それは、誰でも知っているものなのか?」
 素直にこくりと首を縦に振ってから、いくらか自分の世間知らずが恥ずかしくなる。
 山深い寺で生まれ、同じ年頃の友達もなく育ったから、天如には時々普通なら子供でも知っている常識がすっぽりと抜け落ちている部分がある。
 十八歳になり、座主としての仕事で少しずつ外界との関わりが増えてくると、突然そういう場面に出くわすことも多くなった。その都度、天如は丁寧に教えを請うのだが、天在日輪宗最高位の高僧がと珍奇の目で見られてしまうこともよくある。それでも自分を恥じたことは一度もなかったのだけど、相手が恋人となると勝手も違うようだ。
「まあ、な。……俺は東京生まれだから、滅多に雪も積もらないし、そうそう作れる機会もなかったが、大抵のガキは、子供の頃に一度や二度は作るもんじゃないかな」
「そう、か……」
 子供の遊びだと言われると、天如にはほとんどのことがわからない。一年ほど前には、《じゃんけん》を知らずに教えてもらい、一日中元信とじゃんけんをしたこともあった。その時に、《かくれんぼ》とか《鬼ごっこ》というのも教えてもらったが、《雪だるま》は聞いていない。
「そうだな。元空のじいさんたちに育てられたんじゃ、雪だるまも作ったりしねーか」
 淋しげな天如の横顔を見下ろしながら、矢吹に納得したように言われるとよけいに哀しいような気分になった。
 自分の命と引き換えに母親を亡くし、父親の素性も知れない天如を、先代の座主や元空たちはそれでもわが子のように可愛がって、何不自由なく育ててくれた。その出生やずば抜けた霊力のことを《鬼の子》や《呪われた子供》だと口さがなく言うものもいたけれど、輪影寺での暮らしは天如にとって決してつらいものではなかった。むしろ、恵まれた生活だと思っている。
 なのにどこかで寂寥としたものを感じてしまうのは、きっとこの男の温もりに触れてしまったからだ。淋しさや孤独という言葉の本当の意味を知らなかった天如に、触れ合う肌からそれを教え込んでしまった。
「作ってみるか?」
「え?」
「雪だるま……」
「わたしに……作れるのか?」
 すっかり自信を失ったようならしくもない天如の気弱な様子がおかしかったのか、矢吹はくったくなく笑い、「簡単だよ」と言ってくれる。
「うん、作りたいっ」
 すぐに毛布の中から窓の雪に手を伸ばそうとすると、慌てた矢吹に止められた。
「こら待て。そんな格好じゃ風邪をひくぞ。着物を……」
「いい。平気だから……」
 囲い込まれた腕の中から強引に身を乗り出して、手にすくった雪をおにぎりみたいに丸く固めようとすると、「そうじゃない。先に雪玉の芯になる部分を作って、それを雪の上で転がすんだ」と教えてくれた。
 教えられたとおりに小さな雪の塊を転がすと、丸い形になって膨れ上がっていく。それを矢吹の作った雪だるまの隣に並べ、今度は頭の部分を作った。体の上に小さめの雪玉を乗せると、ちゃんと雪だるまらしい形になる。
「ちょっと待ってろ」
 そう言ってリビングのほうへ足早に出て行った矢吹が、どれほどもせずに掌に納まるほどの小箱を持って戻ってきた。
 カラフルなパッケージを開けると、ざらりと出てきたのも、大き目の水滴みたいな色とりどりの楕円の粒だった。
「これはなんだ?」
「ゼリービーンズ。駄菓子だよ。ほら……」
 黄色いそれを摘み上げて、口の中に押し込まれると微かに甘い味がする。そっと噛んでみるとぐしゃりとやわらかく潰れて、甘酸っぱい匂いが広がった。
「甘い……」
「ほとんどは砂糖だからな。……おまえ、お供えの饅頭ぐらいで、こういう菓子もあんまり食べたことがねーんだな。そういや、前にパチンコで取ってきたチョコレート、美味そうに食ってたっけ」
「うん。チョコレートは好きだぞ。甘くて、口の中で蕩ける……これも、不思議な味がする」
 色が違うと味も違うのかなと興味がわいて、もうひとつ摘もうとすると、「食うのはあとにしろ」と止められた。
「食べるのじゃないのか?」
「これは、雪だるまの目玉にするんだ。ほら……」
 形も大きさもけっこういい加減な中から、手頃な一個を選び出し、天如が作った雪だるまの顔のところにはめ込んでやる。天如が同じ赤い色のもうひとつを選び、左目の部分に埋め込んだ。
「笑ってるみたいだな」
 弓なりの形になったゼリービーンズは、まるで目を細めてにこにこ笑っているように見えて、天如もうれしくなる。今度は胸元へ、緑色のそれを縦に取り付けた。
「それはなんだ?」
「ネクタイ……へんか?」
 おずおずと訊いた天如に、矢吹は「よく似合ってるよ」と微笑んでくれた。そうして並んだ雪だるまも、ひとつだった時より楽しそうに見えて、冷えた体を男の胸に毛布ごと埋めると、強く抱きしめられた。
「ほら、もうベッドに戻れ。座主さまに風邪なんかひかせたら、俺がじいさんに叱られる」
 矢吹が曇りガラスの窓を閉めてしまうと、雪だるまは見えなくなった。再び抱え上げられてベッドに戻され、乱れたシーツの中からじっと男を見上げる。
「昼になったら、きっと雪も溶けてしまうな」
「ああ……冷蔵庫にでも入れとくか?」
 淋しがる天如に、矢吹はどこまでもやさしい言葉をくれる。けれど、「ううん」と首を揺らした。
「あのままでいい……でも」
「うん?」
「御山(おやま)の雪が溶けてしまう前に、もう一度矢吹と雪だるまを作りたい」
 冬が終わる前に、また会いたいと求めると、「ああ」と答えた男は約束のキスをくれた。求め合い、しばらくはじっくりと互いの舌と粘膜を舐め合って、しっとりとした余韻を残して離す。
「じいさんと元信にも手伝ってもらって、特大のやつを作るか?」
「うん」
 甘やかな笑みを潜めて誘う視線に、男がまた唇を寄せてくる。今度のキスは、熱っぽい行為の始まりを告げるように激しく長かった。


           ☆

「あっ……そこっ!」
「ここか?」
 天如が響かせた高い音色に、低く掠れて確かめる男の声が重なった。さらにぎしぎしとベッドの軋みが間断なく続く。
「んっ、そこ、いいっ、それっ……あんっ、あっ、あっ、あ」
 あられもなく身悶えた拍子に、勢いあまって剥がれたシーツと一緒にベッドからすべり落ちそうになった肩先を、矢吹がとっさに抱き留める。
「ああんっ! ひっ……」
 その一連の手荒な動きにも狂おしく泣いて、乱れるままに天如は皺だらけのシーツを掻き毟った。
「はっ、あんっ……イっちゃう。また、イく……」
「何度でもイっていい。……ほら、イけよ」
 横向きに捻った腰へ荒々しくぶつかる男の下腹との間で、ぱんぱんと淫らな音が鳴り渡る。
「あんっ、あっ、やぶきっ、やぶきもっ……」
 一緒にイってと背後を見上げる目でねだっても、男は追い上げるペースを緩めない。「いやっ」とか細く息を啜って訴えた。
「中に、ほしい……ね、奥、かけて?」
「さっきイっただろ。おまえの中、ぐちゃぐちゃだぞ」
「だって……やっ」
 一人でイかされるのは嫌だと泣いて求めて、中で弾ける男の熱がほしくて堪らない。うねるような内部も強い収縮と弛緩を繰り返し、強引に男をさらおうと蠢動した。
「ちっくしょ……可愛くて、いやらしい尻だなっ」
 その誘惑には抗しきれずに、崩落に引きずり込まれた男が潤んだ息を吐きながら、奥深くを抉っては引く。
「あっ、あっ、いいっ、いい……それ、もっと、もっと」
 天如は男を絞る双丘を前後に振り、自分でも知らないあさましい動きを、灼けつく男の視線に見せつける。
「天如っ、天如っ!」
 背後から伸し掛かり、長いストロークで突き上げて、天如が握りしめたシーツに白濁を散らすのと同時に、その爛れきった内壁へと熱い精液のシャワーを浴びせた。
 長い間、鼓動も四肢の震えも治まらず、ひくひくとしゃくり上げる肩を、男は不安定な姿勢を変えないまま抱いていてくれる。引きつけたようなその痙攣が落ち着くのを待って、ごろりと身を投げ出した腕に、天如も崩れ落ちた。
「大丈夫か? 痛いところ、ねーか?」
「うん……」
 流れる汗で頬に貼りついた髪を梳かれ、慈しむその所作が心地よくて、男の胸に凭れてうっとりと目を閉じた。
「こら、天如……このまま寝るなよ。中、洗ってやるから」
「んー……」
 うとうとしながら生返事をすると、「腹、痛くなるぞ」とひっそりと笑われた。面倒見のいい男は半分眠っている天如をバスルームへ運んでくれる。
 古風な浴室は、ユニット式ではなく鮮やかなブルーのタイル貼りの洗い場があった。そこで天如を膝に抱えた男が、湯温を調節したシャワーをかけて汗と精液にまみれた体を丁寧に洗い流した。
「あんっ……」
「熱いか?」
「くすぐったい」
 敏感な場所へシャワーヘッドを向けられて、甘えた声を上げると気遣われた。クスクスと笑いながら男の肩へ齧りつくと、「こらふざけるな」と叱って、開かせた奥のほうまでわざと強めの水流を当てる。
「やっ、いやんっ、だめっ……」
 お湯に混じって、大量に注ぎ込まれた男のものがだらだらとあふれ出すのを感じて、その感触のせつなさと羞恥に逃れようとする下肢を、たやすく引き戻される。
「ちゃんと洗わねーと、あとでつらいのはおまえだぞ」
「やんっ、やっ、意地悪っ……あんっ」
 指で中のものを掻き出すような動きを加えられると、さらに甲高い悲鳴が上がった。危ういようなその抽送に、慣らされた体はゆらゆらと揺れて、男の指をやわらかく食んだ。
「何が嫌だ。指、食ってるぞ」
「矢吹のばかっ!」
 爪を立てて嫌だと抵抗する両手首も、あっさりと片手で握り取られる。そうして奥を掻きまわされれば、それを貪るようにしなやかな腰もまわってしまう。
「ああんっ、あっ、あっ……」
「後ろ、いいのか?」
「いいっ、いっ……やぶきっ、ああんっ」
「すっかり、ここで感じるようになっちまったな」
 感慨深げに呟かれても、蕩けてしまった頭に、その意味はよく理解できなくて、「だめか?」と訊いた。
 照れたような男に、「うれしいんだよ」と教え込むみたいにこめかみにキスされて、それならよかったと甘く微笑んだ。
「矢吹?」
「なんだ?」
「離れていても、淋しくなくなる方法を教えてもらった」
 慎重に中を洗ってくれる指に、時々息を尖らせながら、「へえ……どうするんだ?」興味を引かれたように覗き込んでくる男を仰ぐ。
「《テレフォンセックス》というんだそうだ。どうやるかわかるか?」
 覚えたばかりの単語を口にすると、矢吹の目が丸くなった。「おまえな」と呻くような声音が、男の唇から洩れてくる。
「この間、やっただろうが?」
「このあいだ?」
 呆れたように言われても、天如にはまったく心当たりもなかった。きょとんと見つめると、「わかってねーのか」とぼやかれる。
「じいさんの酒を飲んだ時、体が熱くなって、俺のところに電話をかけてきただろ?」
「うん」
 それならちゃんと覚えているぞと、こくりとうなずいてみせた。矢吹の不能を治せるという元空のまむし酒を味見した時だ。体がじんじん痺れるみたいに熱くなって、苦しくて、電話をした矢吹に泣きつくと、男は天如にどうすればいいかを電話越しに教えてくれた。
 男の指の代わりに自分の指で疼く場所を慰めて、「天如」と呼んでくれる低いその声に煽られながら歓喜を極めた。
 そのこととテレフォンセックスが何か関係があるのだろうかと、男のおもてを覗くと、「それだ」と素っ気なく教えられた。
「え?」
「あの時、俺の声を聞きながら、自分で弄っただろうが」
「うん」
「それが、テレフォンセックスだ」
「それが?」
 もうひとつよくわからなくて、男に言われたことをゆっくりと反芻した。「声を聞きながら、自分で弄る?」呟いてから、なるほどそういうことかとようやく納得がいった。
「そうだったのか」
「ああ……中、きれいになったぞ。ついでに髪も洗うか?」
「うん」
 石鹸で泡立てた下半身をすっきり洗い流してくれて、今度はシャンプーを取って長い髪と地肌をマッサージするように器用に指を絡めてくる。大きな男の掌は気持ちよくて、元信に洗ってもらうのとはまた別の情事の余韻をくすぐられるような少し淫靡な快感があった。
「あれも、気持ちよかった……」
「うん? シャンプーか?」
「違う。テレフォンセックスだ」
 ううんと首を横に振った天如に、「ああ、そうか」と矢吹はなぜか困ったような顔をする。
「おまえ、あれから、自分で弄ったか?」
「どうしてだ?」
 そんな理由がないだろうと、不思議に思って問い返すと、矢吹のほうも疑うみたいに天如を見た。
「離れてる間、俺とやりたくなったりしねーのか?」
「それなら、いつもやりたいぞ」
「なら、弄りたくならねーか?」
 真っ正直にストレートな欲望を口にした天如に、矢吹はいっそう不審そうに問い質す。
「矢吹としたいのに、どうして自分で弄るんだ?」
 そんなことをして何か意味があるのかと訊ねると、ふいにぎゅーっと背中から抱き竦められていた。
「矢吹?」
「いい。今言ったことは気にするな。自分でしなくても、俺としたくなったら、いつでも弄ってやるから」
「うん」
 いっぱい弄ってほしいと、ついさっきまでの行為も忘れたみたいに天如は欲深い視線を男に絡ませ、ふっと首を傾げてみせる。
「どうした?」
「でも、テレフォンセックスの時は、自分で弄ってもいいか?」
「そうだな……」
 幾分難しそうな目つきで、「それぐらいはいいか」と許してくれるから、「またしてくれるか?」と甘えてねだった。
「ああ、だけど……ここにいる間は、俺の声だけでイくのはなしだぞ」
「うん。矢吹をいっぱい入れてほしい」
 にっこりと迷いのない笑みを浮かべた無邪気な誘惑に、息を呑んだ男の下腹で跳ね上がったものが、膝に座っている天如の内腿を掠める。
「矢吹……?」
 手を伸ばして触れればそれはびくびくと反応するから、うれしさにごくりと喉を鳴らした。
「なあ、舐めていいか?」
「おまえ……ちょっと、待て」
 うろたえたように引こうとする男の引き締まったウエストへ、天如は夢中でしがみついた。
「不能は治ったんだろう?」
「治ったけど……ちょっとぐらい休ませろ」
「だって、もう大きいのに……」
 ちろりと出した赤い舌が不穏に蠢き、止める間もなくぱくりとそれを呑み込むから、男は上擦った悲鳴を上げた。
「天如っ! だから、ちょっと待てっ。それは、条件反射ってやつで……こら、袋、揉むなっ。いやらしく舌を動かすんじゃないっ」
 呼べど叫べど、もう天如の情熱を阻むものはない。御山に吹雪が降り続く間は、元信も迎えにくることはできないだろう。つかの間の逢瀬を思う存分味わおうと、天如はぬめぬめと這う舌を、愛しい男の変わらぬ欲望へと絡みつけた。
 タフな男がその日どこまで持ちこたえられたかを、愛らしく淫らな恋人以外に知る者はいない。



end.
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