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ENDRESS TALE

夜に濡れる罪の翼 2

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           ◆

 四方を水に囲まれたマンハッタンは、おかしな言い方だが隔離するにはお誂え向きの土地だった。アクセスするには、ウィリアムズバーグブリッジやマンハッタンブリッジなどの数本の橋か、リンカーントンネルやホランドトンネルといったいくつかのトンネルを使う。
 だがテロ被害による封鎖以来、より危険を伴うトンネルのほうは、軍が塞いでしまったそうだ。今現在、まともに通れる橋も限られている。
 比較的安全なのは、治安も一応落ち着き、軍の監視下に置かれているローワーマンハッタンに近い橋だったが、ブルックリンブリッジはマンハッタン封鎖後間もなく、暴徒の手で爆破されて、通行不可能のまま放置されている。
 軍の補給部隊も利用しているというマンハッタンブリッジを、ユリたちも侵入経路に選んだ。
 幸い、チャイナタウンは、軍が管理しているシティホール(市庁舎)や警察本部、裁判所といった建物からは目と鼻の先にある。
 北のハーレムに近づくほど治安は悪くなると言われているから、チャイナタウン辺りならまだましなほうだろう。
 もっともワシントンでユリが会った、チャイニーズマフィアの元締め、李花(リーファ)の話では、マンハッタン全体がスラム化しているというから、どこまでが安全かはわかったものではない。せめて芙緋人がチャイナタウンの近くにいてくれることを祈るしかなかった。
 全員が戦闘服に着替え、輸送用のトラックとジープに分乗した。行きは、食糧と燃料を満載した補給部隊と同行することになっていた。
 マンハッタンでは、水道、電気といった最低限のライフラインは確保されているという話だが、その供給もかなり不安定なものらしい。命を繋ぐための水や食糧の携行は欠かせない。
 補給部隊は、しばしばそうした食糧や物資を狙う暴徒たちに襲われることがあり、ユリたちは都合のいいガード役ということらしい。デルタフォースの腕利きが十人もいれば、暴徒相手ならとりあえず役に立つだろう。
 よけいな争いに巻き込まれるのはごめんだったが、これも軍との良好な関係を維持するためだ。貴臣に危険さえ及ばなければ、ユリにとってはすべてがどうでもいいことだった。
 大事なのは貴臣だけだ。『大切なものを見失うよ』とユリに警告した李花の言葉は、胸の奥に不快な棘のように引っかかって、時折無性にせつなく痛んだ。
 カーキ色の戦闘服に身を包んだユリと貴臣は、補給部隊の後方のトラックに乗り込んだ。ほろのかかったトラックの荷台には、積荷を護る米兵たち数人の先客がいた。さらに、ロイとデルタフォースのケビン、スティーブが加わる。
 戦闘服をまとった貴臣の細身の肢体は、どこか倒錯的な色香を生んで、兵士たちの視線を惹きつけた。気づいていたが、ユリはそれを無視した。
 いちいち焼きもちをやいたところで仕方がなかったし、騒ぎ立てれば逆に貴臣を当惑させるだけだろう。いずれにせよ、本人には自覚のないことだし、それが一番の問題でもあった。
 しかし、彼らが目を留めたのは貴臣だけではなく、ユリ自身もじろじろ見られていた。民間人とは言いながら、幾多の修羅場を潜り抜けてきた筋金入りのヤクザ者だ。その肉体は、なまじな軍人より鍛え上げられていたし、ハードな戦闘服はユリのふてぶてしさをよけいに際立たせた。
 漆黒の髪は、やわらかに跳ねながら襟足にかかっている。深海を思わせるダークブルーの瞳は炯りが強く、シャープな頬のラインからその面差しまでが、血の繋がりもないくせにどこか義父のアーサーにも似ていた。
 スティーブが、幾分感嘆したようなまなざしを向けてきた時は、少々気分がよかったが、貴臣に対してはまったく目の色が違ったから、殴りたくなった。
 もっとも、デルタフォースの隊員が貴臣に見惚れるのは、その美貌ではなく、いっさい隙のない身のこなしと、ほとんど周囲に感じさせない気配のせいだろう。
 芙緋人をニューヨークから救い出すために渡米すると決めてから一週間、横浜の『北辰会』の事務所に隣接した道場にこもっていた貴臣には、幹部の三井(みつい)たちどころかユリまで迂闊には近づけなかった。
 貴臣の実家である東堂家で襲ってきた忍者たちを見れば、ニューヨークで待ちかまえている相手が容易ならざる敵であることはわかったのだろう。貴臣はすでに、闘うことが本能であるその本質へと立ち返ってしまった。
 日本古来の武術を遣い、《夜叉(やしゃ)》と呼ばれた貴臣の実力は、戦闘のプロであるデルタフォースの猛者の目にはどんなふうに映っているのだろう。
「どうした?」
 積載量のぎりぎりまで物資を積み込んだ狭苦しいトラックの荷台で、そんな最強兵士たちの羨望の視線をわかってるのかどうか、貴臣はユリへと無防備に微笑みかけてくる。
「不安じゃないか?」
 今まで、貴臣を動揺させたくなかったから、逆にユリがそれを口に出して確かめることもなかった。未知の敵や貴臣自身も関わっているというニューヨークの謎が怖くはないのかと訊くと、赤い唇は甘やかに綻んだ。
「おまえがいるから、不安じゃない」
 ユリにだけ聞こえるような微かな声音で囁いて、温かな上体がそっと凭れかかってくる。甘えるみたいなその仕種は、慎み深い貴臣らしくもなかったけれど、そうしてむしろユリを安心させようとしてくれているのがわかる。
 恋人の無上の信頼をそこに感じれば、胸が熱かった。『正竜会』の跡目をめぐるユリの異母兄弟たちとの抗争、そして貴臣の宿命でもあった芙緋人との闘いを経て、二人の絆は何ものにも揺らがない強固なものになった。それがうれしい。
 ユリの傍らが、貴臣の見つけた居場所だった。だからこそ、この手を絶対に離せない。
 揺れるトラックの上で、その存在を確認するみたいに互いの体温と鼓動だけを感じていた。
 ふいに、向かい合って座っていたロイが前方を指差して合図を送ってくる。ユリの肩に頭を預けていた貴臣が、ゆっくりと体を起こした。
「マンハッタンだ」
 連なった八台のジープとトラックは、すでに先頭車両がマンハッタンブリッジを渡り始めていた。
 ほろのかかっていないトラックの後部から、やがて平行してかかっている、今は通行できないブルックリンブリッジが見えてくる。
 かつてニューヨーク証券取引所や連邦準備銀行のあるウォール街を中心に、名だたる大手銀行の本店が立ち並び、世界経済を動かしてきたローワーマンハッタンも、今は打ち捨てられた廃墟と化し、立ち並ぶ高層ビルがまるで街そのものの墓標のように寒々しく目に映った。
 ユリたちばかりか、スティーブやケビンの顔つきさえ緊張を孕んで見えるのは、現在のマンハッタンがどれほどの危険地帯なのかを物語っている。
 マンハッタンブリッジを渡り、まっすぐ行けば、そこはもうチャイナタウンだ。だが、ユリたちは補給部隊とともに、いったんマンハッタン側での軍の拠点であるシティホールへと向かった。
 かつてはビルや店舗が建ち並んでいた通りの両側は、略奪と破壊のあとをまざまざと残す瓦礫がいたるところに転がり、時にはジープの通行の邪魔をした。
 今も、前を行く車両が何か障害物にぶつかったらしく、トラックがスピードを落とし、ついには停車してしまう。
 ロイがスティーブたちに目配せしたのは、周囲に警戒しろということらしい。あるいは、補給部隊に足止めを食わせているのは、物資を狙った暴徒たちかもしれない。
 案の定、通りの両側からわらわらと人影が現れ、手にした銃で威嚇射撃を加えてくる。軍隊とは違い、統率も結束もない無頼の集団だったが、その凶暴さは危険であることに変わりない。
 ロイが、トラックの運転手と荷台の窓越しに何か話し合っている。すぐに身を翻し、戻ってきた。
「どうするんだ?」
「先頭が、コンクリートの瓦礫に道を塞がれているらしい。瓦礫を撤去して、すぐに出発する」
「どうやって?」
 訊いたとたんに、ガーン! ――と派手な爆発音が響いた。どうやら、邪魔になった瓦礫を爆薬でふっ飛ばしたらしい。
 軍隊らしい荒っぽさだと、ユリは苦笑する。とはいえ、このままでは暴徒の餌食だ。時間が経てば、彼らの数は増えるばかりだろうが、こちらの援軍はいつ来てくれるかもわからない。
 どれだけ武器を持っていても、多勢に無勢だ。それに、むざむざ物資を奪われるわけにはいかなかった。
 トラックが動き出したと同時に、逃げられると焦ったらしく、暴徒たちがいっせいに襲いかかってくる。
 上官の指示を受け、補給部隊の兵士たちが応戦した。銃撃戦が始まれば、威嚇どころではなく、頭上を弾丸が飛び交い始める。
 前方のジープやトラックは、スピードを上げて暴徒を引き離しにかかる。それを見た残りの暴徒たちは、ユリたちの乗る後方のトラックへと殺到した。
「まずいな……」
 ロイの呟きに、スティーブとケビンが敏感に反応した。銃をかまえ、執拗な銃撃に阻まれてのろのろしか走れないトラックにつかまろうとする男や女へ、容赦なく銃弾を浴びせる。
 銃を持って攻撃を仕掛けてきたのは向こうのほうだ。これは止むを得ない判断だろう。なまじな情けは、ここでは自分の命を縮めることに繋がる。
 さらにトラックを追ってくる一団をとらえたスティーブの銃口を、いきなりユリの傍らから貴臣の手が遮った。
「邪魔をするなっ!」
「よせっ、子供がいる」
 貴臣に制されて、冷酷に睨み返したスティーブも、その言葉に暴徒の群れへと目を凝らした。
 この混乱の中で、よくも冷静に見ているものだと感心したが、確かに、五、六歳ぐらいの黒髪の男の子が走ってくる集団に混じっている。
 貴臣は突然トラックを飛び降り、暴徒の中へと飛び込んだ。多分、そのスピードでは、何が起きたのかわかった者はどれほどもいなかったに違いない。
 集団の中の何人かの武器を奪い取り、その内の数人を叩き伏せて、貴臣が子供を抱き上げて保護したのは、ほんの一瞬の出来事だった。
 さすがに茫然と立ち尽くす暴徒たちの間をすり抜け、再び走りだした貴臣は、子供を抱えたまま軽がるとトラックの荷台に飛び乗る。
「何が望みだ?」
 荷台に下ろした少年へと、貴臣は跪きながら問いかけた。息も切らしていないその様子には、スティーブでなくとも舌を巻く。
 暴徒の仲間にしては、妙に小ぎれいな格好をした少年は、怯える気配もなくまっすぐに貴臣を見つめていた。
「水と、食糧を……」
 答える口調も、やけにはっきりしていると、ユリは訝しむように少年を観察した。そして、奇妙な偶然に気づく。
(似てる……な)
 少年の面差しは、どこか貴臣に似ていた。日本人だろうかと、そのさらさらした黒髪に漆黒の瞳を、いっそうまじまじと凝視する。
 トラックには、シティホールへ届ける武器や燃料と一緒に、水も食糧も豊富に積まれていた。
 貴臣の指示で、トラックを停め、スティーブとケビンが手伝って、食糧と水だけをその場へ降ろす。
 それを見た暴徒たちは、急に大人しくなり、降ろされた荷物へと群がった。何人かで箱を担ぎ、運び始める。あの少年も、彼らと一緒に戻っていくようだった。
 とりあえず攻撃が収まったところで、トラックが先行車両を追って走り始める。
「無駄なことだ」
 スティーブの低い声音は、貴臣に向けられたものだった。暴徒に食糧を渡したところで、焼け石に水だと言いたいのだろう。
「それでも、見ないふりなんかできない」
 静かな貴臣の返事に、スティーブもケビンも、ロイまでが呑まれたように沈黙する。ユリだけが、ひっそりと笑っていた。
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