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ENDRESS TALE

夜に濡れる罪の翼 6

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           ◆

 李花に言われて、龍のために持ってきた酒のことを思い出し、ユリは亜煉へとボトルを差し出した。
「バランタインの十七年か……?」
「龍は、酒好きな男だと聞かされたぞ」
 酒を受け取り、不審そうに見下ろす亜煉にそう言うと、「ああ……」とどこかあやふやな返事をされた。酒が好きなのは龍ではなかったのだろうかと、疑うように亜煉を見ると、「いただこう」と窓際にいたシャオを呼んでそれを手渡す。
 ボトルを大事そうに抱えたシャオは、奥にある棚へとそれを収め、また中庭の見える窓のほうへと戻っていった。
 トレーを持った楊が部屋へ入ってきて、テーブルに不思議な甘い香りの中国茶を配ってまわる。
 蓋で茶葉を押さえながら飲む中国茶を飲み慣れないらしく、グレッグが大量の茶葉を飲み込んで顔を顰めた。ロイとスティーブは、器用に蓋を使いながら飲んでいる。
 貴臣は、茶器さえ手に取らず落ち着かない様子だったが、「飲めよ」とユリが勧めて、ようやく自分の状態に気づいたのか、愁いをおびた瞳をそっと伏せて、温かなお茶に口をつけた。
 貴臣が、ハーレムにいるという芙緋人のことを心配するのは当然だったが、それで気もそぞろになるのがいいこととは決して思えない。その様子を見れば、異父兄への強い執着が今も断ち切れてはいないことは明らかだった。
 どちらにとっても自分の分身みたいな存在は、多かれ少なかれ、互いに影響を及ぼし合う。恋人のユリにだって、無理に引き離すことができないのはわかっていた。どれほど忘れようと苦しんだところで、忘れられる相手でもないだろう。
 貴臣にとって、芙緋人がそういう相手であることはもちろん、芙緋人にとってはなおさら、憎くて愛しくて夢にも忘れはしないはずだ。
 だが、その執着は、時として互いを追いつめる。貴臣に、芙緋人のことはあまり気に病むなと言ってやりたかったが、今は口でどう言ったところで無駄だろう。
 ハーレムにいることが、芙緋人の意志であれ、何者かにとらわれているのであれ、あの男が大人しく他人の言いなりになる玉とは思えない。いずれにせよ、芙緋人は何か考えがあって、マンハッタンで最も危険な場所に身を潜めているのだろう。
 もっと気がかりなのは、「あれが芙緋人と言えるかどうか」と言った亜煉の言葉だ。第一、芙緋人の命が危険に曝されていて、それを放置している亜煉ではないだろう。貴臣をそこへ巻き込みたくはなかったが、よほど込み入った事情があるはずだ。
 お茶を飲みながら、まずユリたちが、ニューヨークへ来ることになった経緯を亜煉に一通り説明した。
 貴臣の実家で、忍者に襲われたこと。そして、その時出会った元信という僧に、貴臣は《gate》だと言われ、ニューヨークへ来いと誘われたこと。横浜の中華街で、王老から芙緋人がニューヨークにいることを聞かされ、ウィルスに侵された彼を、日本へ連れ帰ってほしいと頼まれたこと。
 もしも芙緋人のことがなければ、元信にいくら挑発されようが、むざむざ貴臣をこんなところへ来させるユリではない。しかし、こと芙緋人か関わっているとなれば、貴臣は一人ででもマンハッタンに乗り込んだだろう。
 そのぐらいなら、側にいて見守っているほうが、まだ安心できた。多分、そうしたユリがあえて口には出さない部分まで、亜煉には伝わったはずだ。
「そういうことか。横浜の王老人が芙緋人を……。できれば、わたしも日本へ連れて帰ってやりたいと思うが、芙緋人が大人しくここを離れるかどうか」
「ウィルスに感染していると?」
 マンハッタンが封鎖され、東海岸一帯の出入りが軍の監視下に置かれているせいで、ウィルスの詳しい情報すらも手に入らない。死人が大勢出ているのは確からしいが、それがどういう症状から死に至るのかも、さまざまな流言が乱れ飛んでいた。
 芙緋人の病状が重く、マンハッタンから離れることが困難なのかと案じる貴臣に、亜煉は複雑な顔つきで、曖昧に首を揺らした。
「おそらく……しかし、問題はそのことではない。芙緋人は……」
 何か言いかけて、その舌先で消え入ってしまう。芙緋人と貴臣の叔父だけあって、亜煉も一筋縄ではいかない男だが、何か思うところがあるにしてもらしくなかった。
「おまえは、どうしてニューヨークへ来たんだ?」
 芙緋人のことをこれ以上追及したところで、亜煉の口は重くなるばかりだろう。ユリはそう判断して、話題を変えてみた。
 香港で芙緋人が姿を消し、それを追うように亜煉がいなくなって、すでに三年が過ぎる。その間、彼らの消息を、ユリも貴臣もまったく知らなかった。
「芙緋人を追って……と言いたいところだが、訳ありでね」
 どこか遠い目をした亜煉は、優雅な手つきで茶器を取って喉を潤し、口元へ微かに苦い笑みを浮かべた。
「あの子か?」
「ああ。おいで、シャオ……」
 亜煉に訳ありと言われて、ユリは、窓から中庭を覗いているシャオのほうへ視線を向ける。
 昨日、トラックが襲われ、最初にシャオを目にした時から、妙に貴臣に似ているその面立ちが気になっていた。
 亜煉に呼ばれて、くるりと振り向いて走ってきたシャオは、豪奢な振袖に包まれた男の膝に上がってきた。まるで親子みたいに、亜煉に懐いているみたいだ。
 芙緋人みたいに瓜二つというわけではなくても、亜煉にもわずかに貴臣との血の繋がりを感じさせるところがある。とはいえ、そのゴージャスな金髪や、明るいブルーの瞳、おまけに突拍子もない衣装のせいで、印象はまったく違って見えるが。
「おまえの子……って、わけじゃないよな」
 シャオは、貴臣と同じ黒髪に黒い瞳だった。亜煉の血が混じっているとは思えないがと訊ねると、男の苦笑が深くなる。
「そうじゃないが……」
 呟いてから急に真顔になり、貴臣のほうを気遣うように流し見た。気づいた貴臣も、おもてを緊張させる。
「この子は、芙緋人の子だ。芙緋人と、姉、の……」
 瞬間、貴臣の顔色が見る見る青ざめていくのがわかった。亜煉が姉と言うのは、貴臣と芙緋人の母親の華火(かほ)のことだ。
 貴臣の生まれた東堂家は、その武道家としての特異な才能を維持するために、何代もに渡って近親相姦を繰り返してきた家柄らしい。貴臣自身も、華火と異母弟の間に生まれた子供だった。
 父を死に追いやった自らの血を呪い続けていた貴臣に、ユリは何度も「殺して」と哀願されたことがある。ベッドの中で、貴臣には夢うつつのことだったとしても、その罪悪感と死への切望は貴臣の意識の底に澱(おり)のように留まっている。
 ただユリの情熱だけが、闇に堕ちようとする貴臣を繋ぎ止めていた。逆に、貴臣を闇へ突き落とそうとするのが、芙緋人への執着なのかもしれない。
「子供は……死産だったんじゃ……?」
「そのはずだった。だが……姉と芙緋人の弱みを握るために、死産と偽って生まれた子を隠していたんだ」
 事実を確かめる貴臣へと、亜煉は暗い声音を返した。だがそれなら、貴臣の母と異父兄の間に生まれた子供であるシャオが、貴臣と似ていても不思議はない。
 しかし、自らの存在を憎み、死にたいとさえ思いつめていた貴臣に出会い、ユリはその人を何よりも愛し、長い孤独から救われた。シャオがそうして生まれてきたことにだって、意味はあるはずだ。
「誰が、そんな……」
「そんなことをやりそうなのは……無間(むけん)、か」
 忌まわしい血を利用される哀しみは、貴臣が一番よく知っている。憤りに唇を震わせる貴臣へ、亜煉の代わりに、ユリが冷静に答えた。
「ああ。姉が亡くなったどさくさに、香港を脱出した無間が、ニューヨークのチャイナタウンで、この子をこっそり育てさせていることを知った。芙緋人がそれを知れば、この子を生かしておくはずがない。できれば、助けてやりたいと思ったんだが……」
 芙緋人が亜煉とほぼ時を同じくしてシャオの存在を知ったのなら、ニューヨークへ来たのは、亜煉が言うとおり、自分の血を分けた子供を殺すためだろう。華火が産んだシャオは、芙緋人にとって憎悪以外の何者でもないはずだ。
 だとすれば、芙緋人がマンハッタンに眠る秘密のことを知ったのは、ニューヨークへ着いたあとのことかもしれない。それにしても、亜煉の言い方は妙に引っかかった。
「おまえが、シャオを助けたわけじゃないのか?」
「この子を守ったのは……チャイナタウンだ」
「街が……守った?」
 よけいにわからないと、ユリは首を捻った。街ぐるみで、芙緋人からシャオの命を守ったのだとしても、芙緋人の組織も崩壊した今、シャオにどれほどの価値があるとも思えない。利益にならないものを守るほど、この街は甘くはないはずだ。
「ああ……この街に入って、何か気づかなかったか?」
 何か理由があるのかと問いかけたユリに、亜煉は反対にわからないかと見つめ返してくる。言われてみれば、おかしいところはいくつかあった。
「俺はニューヨークへ来たのは初めてで、テロ以前のチャイナタウンも知らない。だが、ロウアーマンハッタンと比べれば、ここは別世界だ」
 シティホールの軍人たちは、控えめに治安がいいと言っていたが、チャイナタウンを囲むバリケードの内側は、老人がのんびり外で日光浴をしているほどのどかそのものだった。略奪や暴行が、日常茶飯事で行われている様子もない。見たところ、水や食糧にも事欠いているふうには思えなかったが、それは昨日のように米軍の補給部隊を襲って調達しているのかもしれない。
 だとしても、ここは平和そのものと言ってもいい。さっきの小競り合いぐらいなら、日本の繁華街でだってあってもおかしくはない程度のものだった。
 感心するよりも、不審のこもったユリの口調に、亜煉は同意するように首を縦に動かす。
「その通りだ。テロでニューヨークが封鎖される前もあとも、チャイナタウンは何も変わっていない。チャイナタウンが秩序を保っているのは、この子がいるからだ」
 亜煉の膝に乗っているのは、あどけない顔をした五、六歳にしか見えない少年だった。この少年が、チャイナタウンの秩序の要だと言われて、ユリは恋人の面影が重なるおもてへ、鋭い眼光を当てた。
「まさか……龍ってのは、おまえじゃなく、この子のことか?」
「相変わらず、いい勘だな。……そうだ。ニューヨークチャイナタウンの元締め、龍は、この子の中にいる」
 なんとなく、亜煉が言おうとすることがわかってきた。話には聞いたことがある。だとしても、自分の目で確認するまでは、とても信じられないが。
「解離(かいり)性同一性障害、か?」
 かつては多重人格障害と言われていた精神疾患のひとつだ。なんらかの強い心的外傷から逃れようとした結果、自我の同一性が失われ、一人の人間の中にいくつもの異なる人格が生まれる。
 つまり、少年のシャオの中に、龍と呼ばれるチャイナタウンの指導者である別の人格が存在するということだろう。李花が言っていた酒好きなのも、多分、その龍のほうだ。
 貴臣は、まだ十四歳の頃、芙緋人の父親である阿部蓮晟(れんじょう)の組織に拉致監禁されていたことがある。その時、芙緋人にも、その部下である無間たちにも無理やり犯され、ひどい暴行を受けていた。
 無間にニューヨークへ連れ去られたというシャオが、どんな虐待を受けていたとしてもおかしくはない。そうした虐待は、解離性同一性障害の引き金になりえた。
 シャオが、無間か、あるいは実際に彼をここで育てていた人間の虐待から逃れるために、無力な子供である自分よりずっと強力な存在である龍という別の人格を生み出したとしても、話の辻褄(つじつま)は合う。そんなことが、本当に可能かどうかはともかく。
 だが、チャイナタウンの住人たちをまとめ上げ、しかもテロと暴動から街を守るとなれば、龍という人格が持つ能力や知識は並の人間のものではない。
「そう言えるなら、な。……だが、わたしは精神科医でも、心理学者でもない。ひとつ言えるのは、今、芙緋人の中にも、この子と同じように別の人格が存在するということだ」
「芙緋人が?」
 当惑を隠せないように、貴臣はユリを振り返る。そのすがるような目に、今は何も答えてやることはできなかった。
 亜煉が、「あれが芙緋人と言えるかどうか」と言ったのは、おそらくその別人格とやらのせいだろう。けれども、ユリが知る限り、かつての芙緋人からは解離性同一性障害の兆候は見られなかった。貴臣だって知らないだろう。
 何もかも、ニューヨークが発端になっているのかもしれない。この街には、とんでもない謎が眠っているのだろうか。
 そして、元信が《gate》と呼んだ貴臣の役割は、いったいなんなのか。芙緋人もシャオも、貴臣と最も濃い血の繋がりを持つ人間だ。
「ユリ、そろそろ時間が……」
 時計を見ながらロイに呼ばれ、シティホールに戻る時間が迫っていることを知らされた。予定どおりに戻らなければ、救援部隊が送られる。チャイナタウンと、今ここで騒ぎを起こすわけにはいかなかった。
「今日のところは戻るか」
 貴臣は、一人でもここへ残って亜煉の話をもっと聞きたいようだったが、ユリはチャイナタウンも亜煉も、まだ心から信用はしていなかった。話がしたければ、また訪ねてくればいい。
 強引なそのまなざしに屈するように、貴臣はそっと瞼を伏せる。拗ねているのかと微かに笑って、ユリはロイたちと一緒に席を立った。
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