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ENDRESS TALE

夜に濡れる罪の翼 7

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           ◆

「貴臣……」
 部屋を出ようとした貴臣を呼び止めたのは、それまでずっと大人しかったシャオだった。亜煉から、シャオはまた龍でもあるのだと聞かされても、外見だけならやはり無邪気な子供にしか見えない。
 追いかけてきたシャオへと身を屈めた貴臣のしなやかな首へ、小さな手がするりと何かを掛ける。
「これは、《ankh(アンク)》?」
 ペンダントのようなそれに目を落とした貴臣の呟きに、ユリは思わず息を呑んだ。隣に立っていたロイも顔色を変える。
 一年半前、マンハッタンで起きたテロに巻き込まれ、長い間意識を失っていたユリの異父妹のアリスは、発見された時に《命の鍵》と言われる古代エジプトの護符、《ankh》を握りしめていたという。
 アリスが持っていた《ankh》は、今もワシントンのアーサーが保管しているはずだから、まったく別のものだろうが、偶然とは思えない。
 近づいてきた亜煉も、驚いたように貴臣の首に掛けられた《ankh》を覗き込む。
「これは、芙緋人がここへ置いていったものだ。わたしが、シャオに渡したんだが……」
「芙緋人が?」
 芙緋人が、シャオを息子として愛せなくても無理はない。貴臣にしたところで、異父兄と母の子供を見るのは、呪い続けた自分の過去を見るようで複雑だろう。
 亜煉が、せめて父親の身代わりに、芙緋人が置いていったという《ankh》をシャオに渡した気持ちもわかる。
 幼いシャオが、自分の両親のことをどう理解しているかは、ユリに測り知ることはできなかったが、それを貴臣に渡す理由となると、なおさら予想もつかない。
 貴臣もまた、シャオに《ankh》を返すべきか、迷っている顔つきだった。その貴臣へ、シャオが静かに微笑んだ。
「これが、貴臣を守ってくれる……」
「シャ、オ……?」
 シャオの表情と声に、ぞくりと背中へ戦慄が走る。五つ、六つの子供のものでは、到底なかった。まるで亜煉か、それよりもっと年上の成熟した男のもののようで、これがニューヨークのチャイナタウンを統べる龍なのかと、茫然と目を瞠る。
 しかし、シャオのその変化は、すぐに元のあどけない少年のものへと戻ってしまった。
 だが、少なくとも龍は、元信が言っていた《命の鍵》と《黒き門》の秘密について、何か知っているのだろう。だから、貴臣に《ankh》を託したのだとしか思えない。
 シャオの中から龍を引きずり出して、その意味を問い質したかったが、ここで子供に乱暴を振るうことはできないだろう。
 そもそも、芙緋人がどうして《ankh》を持っていて、ここに置いていったのかさえ、わからない。
「芙緋人は、この《ankh》のことを、何か言っていたか?」
「いや……」
 亜煉なら何か聞いているだろうかと直截に訊いてみたものの、ユリの望んだ答えは返ってこなかった。亜煉が嘘をついているようには見えない。
 亜煉には「また来る」と告げて、楊に見送られ、ロイたちと龍の屋敷を出た。すでに黄昏が街を覆っている。
 ビルに囲まれた狭い通りには、黒々とした影が落ちていた。亜煉がハーレムとの間のgateが開くと言った新月にはまだ間があるはずだけれど、曇り空なのか月明かりも見えない。
 龍は、味方なのか、敵なのか。そして芙緋人は、ハーレムで何をしているのか。亜煉からは日を改めて、もっと詳しい話を聞く必要があるだろう。それに、そのすべてを鵜呑みにできるとも限らない。
「ユリ……」
 ぼんやり考えながら歩いていて、ふいに傍らから貴臣に腕をつかまれる。気づいた時には、すでにケビンもグレッグもスティーブも戦闘態勢に入っていた。
「忍者か?」
 黒い染みのような姿が、闇の中に浮かび上がる。見えたと思った瞬間には、それは右側にいたケビンに襲いかかった。
 二度、三度と銃声が聞こえたが、弾はそれたのか忍者の勢いは止まらなかった。振り下ろされた白刃が、ケビンの胸へと吸い込まれる。
 アーミージャケットの下には、ユリたちもボディアーマーを着けている。弾丸や爆発物の破片だけでなく、刃も弾き返すはずだった。デルタフォースのケビンが、その着用を怠っているとは思えない。
 それに、グレッグへと跳躍した忍者の動きも、日本やワシントンで襲ってきた連中とはどこか違っていた。
 シティホールに駐留する米兵たちが、マンハッタンの夜に跳梁する化け物と恐れていたのは、これなのかと気づかされる。
「貴臣……」
「逃げろ、ユリ。彼らじゃ、あれは止められない。おまえだけでも……」
 背中に庇うようにして貴臣に囁かれ、「馬鹿言え」と反論した。たとえ足手まといだろうと、ニューヨークへ来たのは貴臣の側にいるためだ。
「おまえを残して逃げられるか」
 生きるのも、死ぬのも一緒だ。二度と、この手を離すつもりはなかった。貴臣を危険の中に一人残して、死ぬほど後悔するのは一度だけでもうたくさんだ。
 本気で抗議するユリが何を思ったのかは、貴臣にもすぐにわかったのだろう。薄闇の中で、白いおもてがひどく幸せそうに微笑んだ。
「うん、ユリ。……こっちへ」
 貴臣に手を取られ、通りの左側にあるビルの非常階段の下へと身を潜めた。頭上には階段があるから、上方と背後、そして階段が下りてくる左側の敵は防げる。だがそれは、自分自身を逃れられない場所へ追い込む危険もあった。
 とはいえ、予測のつかない動きをする忍者相手には止むを得ない。あっけなくケビンをやられ、ロイたちも苦戦を強いられている。
「ロイっ!」
 ユリの叫び声を聞いて、ロイとスティーブが同時にその避難場所へと駆け込んできた。
「くそっ、ケビンとグレッグは殺られた。なんなんだ、あいつら……化け物か? 銃も効かない」
 アリスが入院していた病院で、ロイも忍者と遭遇しているはずだった。だがマンハッタンの連中は、やはり勝手が違うらしい。
 銃が通用しない。しかも、こちらのボディアーマーは役に立たないとなれば、いくらデルタフォースの猛者だろうとなすすべもないだろう。
 こんな時でも、貴臣の横顔は奇妙なほど静かだ。いっそ凄絶なほどのその美しさに、悠長に見惚れそうになる。
 貴臣と一緒なら、どこで死んでも後悔はなかった。だが、この絶望的な状況でも、貴臣が諦めていないことは、その炎を宿した双眸を見ればわかる。
(すげーな……)
 デルタフォースの隊員が化け物と恐れる相手と、一人でぶつかるつもりだろう。それで勝算があるのだとすれば、貴臣の実力はいったいどれほどのものなのだろう。
「苦戦してるらしいな……」
 突然、頭上から、この緊迫した場面にはありえないようなのんびりした声音が降ってくる。それがネイティブな日本語だったから、ユリは耳を疑った。
 非常階段の上に人影があった。さっきまでは、なんの気配もなかった場所だ。コート姿の日本人らしいその男は、先程からの忍者との死闘に怯える様子もなく、ユリたちのほうを見下ろした。
「手を貸そうか?」
「あんた、なんだ?」
 問い返したユリも、呑気な男の口調についつられてしまっていた。いつの間にか雲間から現れた月明かりに、無精(ぶしょう)髭(ひげ)をたくわえた野性味の強い男の顔が浮かぶ。
「俺もちょっと、あいつらとは因縁があるらしいんだ」
 なんだかいい加減なことを言って、男は忍者のほうへとにっと笑う。闇に潜むその影が、どこかたじろぐようにも見えた。
 天の助けか、それとも死神の先触れか。どっちにしろ、目の前に迫るのも化け物じみた忍者だ。これ以上の最悪などないだろうと、ユリは身を乗り出して男を仰いだ。
「なんとかしてくれっ。礼はする」
「よっしゃ」
 あまり頼りになりそうには聞こえない返事と同時に、コートが翻った。ビルの三階分はあろうかという高みから飛んだ男は、まるで重力など無視するようにふわりと、ユリたちと忍者との間へ舞い降りてきた。
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