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ENDRESS TALE

夜に濡れる罪の翼 8

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           ◆

 がしっと、何か重い音が空気を伝わった。それが、男へ襲いかかった忍者の刃を、十字に組んだ両腕が受け止めた衝撃だとわかる。
(素手で……?)
 確か、貴臣の実家である東堂家の道場で、初めて元信と対峙(たいじ)した時、元信とどう闘うかと質問した五代老に、「素手で」と答えたのは貴臣だった。
 しかし、現代技術の結晶であるボディアーマーさえあっさりと切り裂く忍者の凶刃(きょうじん)を、どうやって持ち堪えているのかまではわからない。
 男は刃を弾き飛ばし、後ろへ跳躍した忍者へと凄まじいスピードとパワーの拳で殴りかかる。どう見てもその形は、正式な武道を極めたものとは思えない雑なところがある。貴臣の洗練された無駄のない動きとは、まるで別ものだった。
 なのに、超人的な身体能力で、男は小手先の技術などあっさりと捻り潰し、忍者の首を獰猛にへし折り、その後頭部や顔面へと容赦なく拳や蹴りを叩き込んだ。
(頭……か?)
 どうやら、男は忍者の頭だけに狙いをつけているようだ。おそらく、銃弾も通用しないという忍者の弱点なのだろう。
「貴臣っ!」
 いつの間にか、乱闘の中へ飛び込んでいる貴臣のしなやかな肢体を見つけて、思わず声を上げていた。
 自信はあったのだろう。貴臣の動きは、忍者とも互角だった。ただ素早いだけの男とは違い、微妙な緩急の差が、敵の目を幻惑するようだ。
「頭を狙えっ! こいつらの息の根を止めるには、頭を潰すしかない」
 その貴臣へ向けて、男がユリの予想どおりの言葉を発した。ただ鍛えられて、人間離れしたスピードと強靭な体を手に入れたわけではないのだろう。
(ドラッグ……みたいなものか)
 かつて、芙緋人の組織がクスリを使い、恐怖心も痛みも感じなくなった者たちを武器として操っていたことがあった。だが、一度そのクスリに侵されてしまった人間は、二度と正気を取り戻すことはできない。この忍者たちもそうだろうかと思えば、ぞっとした。
 まして、クスリを使って強化した相手と、互角どころか優位に闘っている男と貴臣には驚異を覚えずにはいられない。貴臣に関しては、ある程度わかっていたことだけど。
 男のアドバイスどおりに、貴臣は忍者の後頭部へと拳を振り下ろした。やはり、貴臣もナイフ一本持たない素手だった。ぐしゃりと、胸の悪くなりそうな嫌な音が響く。
「東堂貴臣、か……いったい、何者だ」
 実際にこの場で闘ったロイだから、ケビンとグレッグを一瞬の内に倒した忍者の不気味な力は、身に染みているだろう。だからこそ、そいつらと平然と渡り合う貴臣に、ユリ以上に畏怖を感じるのは当然だった。
「忍者だとさ。あいつも……」
「忍者?」
 貴臣からは、東堂の家が代々引き継いできたのは甲賀忍者の技だと言われた。だが、近親相姦を繰り返してまで守ろうとしてきた能力は、人が編み出してきた技術とはまったくの別物だろう。一種の超能力とも言っていいかもしれない。
 そう考えると、さっきの亜煉との話が脳裏に蘇った。もうひとつの人格を生み出す解離性同一性障害――芙緋人と華火の血を引くシャオ、そして芙緋人自身もそうなのだとしたら、ひょっとしたら東堂家の特殊能力の謎がそこに隠されているのかもしれない。
(貴臣の中の、もう一人の貴臣、か……)
 もしもそんなことがあるのだとして、自分はもう一人の貴臣を愛せるのだろうかという疑惑まで湧く。
 深い想いに沈み込もうとしたユリの目の前で、さらに信じられないことが起きた。
「飛んだっ? まさか……?」
 軽々と数メートルの距離を跳ね上がった忍者は、その何もないはずの中空で動きを止める。目に見えないガラスの板か、ロープでも張ったトリックかとも疑った。
 呻き声を上げたロイも、さすがにありえないと言いたそうに首を振り、食い入るように宙に浮く忍者の足元を凝視する。
「貴臣っ……!」
 それがトリックにしろ、自然の法則に反した力にしろ、上空から狙われることは、貴臣には圧倒的に不利になる。
 急降下して貴臣へ襲いかかる忍者の前へと、コートを翻してあの男が飛翔した。最初に非常階段の上から飛び降りてきたのは、やはり錯覚なんかではなかったらしい。
「あいつも、飛べるのか? ……ったく、どうなってんだ?」
 化け物じみているどころか、これでは本物の化け物だ。少なくとも、人間の体は自由に空を飛ぶようにはできていない。いかに貴臣でも、そんな真似まではできないだろう。
 悠然と舞い上がった男は、忍者をハエみたいに叩き落して、貴臣のもとへとゆっくりと降下してきた。
 すでに地上には、ユリたちのほかに動くものの姿はなかった。貴臣も、混乱を抑えきれないように男を睨む。
「大丈夫か?」
「おまえは……何だ?」
 とても生身の人間とは思えないと、硬い声音で問う貴臣に、男はコートに包まれた分厚い肩をそっと竦めた。
「人間だよ。……ま、少々まともじゃねーがな」
「貴臣っ!」
 ユリはようやくその側へ駆け寄って、男から守るように貴臣を背中へ庇った。もっとも、実力からすれば、男にも貴臣にも敵うはずはなかったが、恋人を守ろうとする行為は本能みたいなものだろう。
「おい、睨むなよ。おっかねーな」
 ユリの剣幕に、男は「助けてやったのに、なんだよ」とぼやきながら、逞しい首を縮めた。言われてみれば、助けを求めたのはユリのほうだったと、幾分気配を和らげ、しかし警戒は消さないまま「何者だ?」と問い詰める。
「矢吹(やぶき)亨(とおる)……新宿署の刑事(デカ)だ。と言っても、今は上司公認の有給休暇中だが」
「刑事?」
 思いがけない返事には、ユリもどう応じていいのかと戸惑った。警官とヤクザは天敵みたいなものだったが、ここではそんなことは意味もないだろう。
「いつから、日本の刑事は、空を飛ぶようになったんだ?」
 警視庁が特殊技術でも開発したのかと、面白くもない冗談混じりに質問すると、男は子供みたいに悪戯っぽい目をして笑った。険のある顔つきが、笑みを浮かべるといくらかやわらなくなる。
 年は、三十歳半ばくらいだろうか。いかにも凶悪事件の多い新宿署の刑事らしく目つきは鋭い。無精髭に、よれよれのコート。だらしなく襟元を開いた紫のシャツは派手だが、スーツも靴も安っぽい。
 だが、その下にある強靭な四肢は、忍者を一撃で倒す人間離れした強烈なパワーと瞬発力を秘めている。
 短く切った髪の毛は幾分茶色がかり、同じ色の瞳は、第一印象からは意外なほどきれいに澄んでいた。
「ああ、あれはちょっとしたコツがあるんだ」
「コツ?」
「おかしな呪文を唱える」
 自分から「おかしな呪文」なんていうから、「からかってるのか?」とまなざしを尖らせた。
「そうじゃない。本当だって……天如(てんにょ)から教わったんだ」
 なだめるように矢吹が告げた名前に、聞き覚えがある。印象的すぎて、忘れもしない名前だった。
「天如……だと?」
 ユリよりもさらに三つ年下だという、天在日輪宗の天才密教僧。《空海の再来》《平成の天海(てんかい)》と呼ばれる、宗教界の大物だった。そして、あの元信が仕える美貌の座主(ざす)さまだ。
 とはいえユリは、弁天(べんてん)様のように美しいと噂に聞く天如の容姿を知らなかった。地元の者も足を踏み入れないような山奥の本山に住み、滅多に下界に降りてくることはなく、写真を撮られることも嫌うらしい。
 その謎だらけの座主さまを、新宿署のいかにもガラの悪そうな刑事が親しげに呼ぶから、人間が空を飛ぶこと以上に違和感を覚えた。
「知ってるのか?」
「本人は知らないが、元信という坊主とは知り合いだ」
 気軽な口調で訊く矢吹に、元信のことを話すと、「ああ……なるほど」と皮肉っぽく呟く。どうやら、矢吹とは対照的に見える真面目な僧侶のことも、よく知っているようだった。
 そしてクスクスと忍び笑って、少々いやらしいぐらい執拗な視線で貴臣をじろじろ見る。
「じゃあ、天如が言ってた美人ってのは、あんたのことか」
 元信からは、座主さまに「最も強く、そして美しいものを探せ」と言われ、貴臣を探し当てたことは聞かされていた。
 矢吹の馴れ馴れしい言い方は気に食わなかったが、言っていることはちゃんと辻褄が合っている。もちろん、貴臣が《門》だということも知っているのだろう。
「《門》ってのは、いったいなんのことだ?」
 わざと、矢吹に鎌をかけてみた。目を丸くした男は、いかにも愉快そうに小さく噴き出した。
「ヤクザにしちゃ、面白い奴だな。それに、頭もいい。だが、残念だが、俺にはなんのことかさっぱりわからねーよ。あんまり利口なほうじゃなくてな。天如なら、何か知っているかもしれないが……」
「刑事だって話だが、天在日輪宗の門徒(もんと)なのか?」
 それにしては、座主さまを呼び捨てにするのもおかしかったが、一介の刑事のくせに内情を知りすぎている。元信と同じように、天如の命令で動いていると疑問を口にすると、矢吹はいかにも嫌そうに眉を顰めた。
「よせよ。俺が信じているのは、神様でも仏様でもねー。天如だけだ」
「え?」
 その言葉には自分自身もどこかで身に覚えがあって、まさかと呆気にとられかけたユリへ、「へへっ……」と照れたような笑い声が返ってきた。
「まあその……天如とは、いい仲ってーか……だから、輪(りん)影寺(えいじ)を動けないあいつの代わりに、ニューヨークくんだりまで、俺が来てるわけだが」
「輪影寺を動けない?」
 髭が半端に伸びた顎を掻きながら話す中年刑事の矢吹と、弁天様に見紛う美貌の座主さまが、どういういい仲なのかはともかく、この男が天在日輪宗の裏に深く関わっていることは間違いなさそうだ。僧侶である元信とは、また違った情報が得られるかもしれない。
 座主さまが本山を動けないというのはどういうことだと、なおも説明を求めたユリを、「おっと……」と何かの気配を感じたように、矢吹が制した。
「夜のマンハッタンは、とかく物騒だ。こんなところで立ち話するより、なんか食わせてくれねーか? こっちへ着いてから一週間ばかり、飲まず食わずなんだ。いくらこんな体でも、ビールの一杯ぐらい飲まなきゃやってられねー」
 どういう体なのかと追及したいところだったが、矢吹の言うことももっともだった。あの忍者の仲間がまたうじゃうじゃ湧いて出たりしたら、今度こそ助かった命も危うい。
「わかった」
 矢吹には、助けてもらった礼もしなければならない。食事と酒ぐらいで済むなら安いものだと、ユリは気やすく承知した。
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