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ENDRESS TALE

夜に濡れる罪の翼 9

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           ◆

 シティホールに連れ帰った矢吹は、「アサヒはないのか?」と文句を言っていたものの、出されたバドワイザーを遠慮なしに飲んだ。
 一週間飲まず食わずだったという話が、まんざら誇張ではなさそうな飲みっぷりだけれど、食事のほうはそれほど食べない。
 もっとも、ユリが自分で作りたがるほど大味なチキンやヌードルは、塩コショウやタバスコをかけて無理やり飲み込みたくなるような代物だったから、このがさつそうな男の口にも合わないのかもしれない。
「もう少しまともな食べ物を調達してこようか?」
 助けてもらったお礼がこれでは申し訳ないような気がして、親切に申し出たユリに、矢吹はバドワイザーの瓶を銜えたまま、首を左右へ振った。
「いや、食い物はもういい。……もともと、天如と同調(シンクロ)している間は、物を食べる必要もないらしいんだが、胃袋が空なのも、どうも気味が悪くてな」
「天如と、同調?」
「ああ」
 どうにか人心地ついた様子で、矢吹はふーっと酒臭い大きな息を吐き出すと、ぎしぎしいうパイプ椅子の上で食事を終えた肉食獣みたいに背伸びをした。
「訊いていいか? どうして、あんたは空を飛べるんだ? いったい、天在日輪宗の座主さまってのは、何者なんだ?」
「さあな。俺も、天如は天如だとしか言いようがねーが……俗な言い方をすりゃ、一種の超能力者なんだろうと思う。桁外れの……」
 今度は矢吹は、意外と真面目な顔つきで答えた。一週間髭も剃っていないらしい顎を、またぼりぼりと掻き、日本にいる天如を想うような遠い目をする。
「坊主ってのは、厳しい修行で法力(ほうりき)を身につけるもんらしいが、あいつのは生まれつきだ。そういう者がいるのか、それとも、菩薩(ぼさつ)様だか如来(にょらい)様だかの生まれ変わりかなんか知らねーが。……その上、山で修行を積んだおかげで、とてつもない力を持っているらしい」
「なるほどな。……で、その超能力者の座主さまの力のせいで、あんたは空を飛べるようになったってわけか?」
 疑っていることがあからさまなユリの問いに、矢吹は気を悪くした様子もなくニヤニヤ笑う。
「ま、あいつは俺に惚れてるからな」
 よほど自信があるらしい矢吹の口振りには、ユリのほうが眉を顰めた。だが、どれだけ嘘だろうと否定したところで、矢吹が空を飛んでいたのは事実だ。それに、忍者も。
「今の俺は、自分の体を天如に貸してやっている状態なんだ。だから、飯を食う必要もねーし、空を飛んだり、人間離れした力も使える」
 矢吹は、なんとかユリたちにもわかるように、言葉を選びながら説明する。とはいえ、聞けば聞くほど、逆に疑問は増すばかりだ。
「どうやって……?」
「それは、よくわかんねーんだが。……俺は、あいつと時々寝てるから、あいつの意識と同調しやすい状態になってるんだそうだ」
 わかったような、わからないような話だった。しかし、矢吹というこの刑事は、確かに天如の恋人で、だから精神が繋がりやすいということなのだろう。
「つまり、あんたの体の中に、座主さまの意識があって、だからそのとんでもない力を使えるってことか?」
「まあ……そんなところかな」
 矢吹は、かなりいい加減にうなずいた。もとから、大雑把(おおざっぱ)な性格なのだろう。そうでなければ、こんな状況で平然としてもいられないだろう。
「じゃあ、今、俺と話しているのは、座主さま、ってことか?」
「いや、今は俺の意識が残ってる。完全に乗っ取られちまうこともあるんだが、それだと向こうもえらく疲れるらしい」
 矢吹の言うとおり、その話し方はどう聞いても中年刑事のものだ。《平成の天海》といわれる宗教界の大物にしちゃ、品がなさすぎる。
 これこそ、まるで解離性同一性障害のようだと、奇妙な思いにとらわれた。一人の体の中に、複数の人格があり、それぞれが別の名前、別の生育歴、別の能力を持つ。これは果たして、ただの偶然なのだろうかと、ユリの心を重苦しい疑惑がとらえた。
「座主さまは、どうしてあんたの体を使ったりするんだ? さっき、輪影寺を動けないとか言っていたな?」
「このマンハッタンには、なんだか知らねーが、凄まじい力の源があるんだそうだ」
 おそらく、芙緋人たちやチャイニーズマフィア、コスモスウエブのシーザー・ゴア、そして米軍が求めているのも、矢吹が言うその力の源なのだろう。
「地球上には、そういういくつかの聖地というか、力場があって、お互いに影響し合いながらバランスを保っているらしい。だが、天如がニューヨークへ来ると、力が傾きすぎて、そのバランスが崩れるって話だ」
 矢吹は話しながら、残っていた缶ビールへと手を伸ばし、プルトップを引いた。「飲むか?」と誘われて、ユリも別の缶へと手を伸ばし、もうひとつを神妙な態度で聞いている貴臣に向かって投げる。
「……まあ、いずれあいつも、なんとかしてこっちへ来たいとは思っているらしいんだが、とりあえず俺が力場を守るようにって、頼まれたわけだ」
「力場を守る?」
「ああ、ここの力場は、今、ひどく不安定な状態にあるそうだ。そのせいで、さっきの忍者みたいな連中が湧いて出てくる。このまま力場を暴走させちまうと、地球上のバランスも崩れかねないらしい」
「バランスが崩れると、どうなるんだ?」
 坊主や神主なら、この世の終わりが来るとでも言いそうなところだ。けれども、矢吹は素っ気なく分厚い肩を竦めた。
「別に……」
「別に?」
 よぼど大変なことが起こると言われると思っていたから、拍子抜けした。面白くもなさそうに、矢吹は顔を顰める。
「『人間には暮らしにくい世界になるかもしれない』……そう言って、あいつは笑ってた」
「人間には……か」
 自分は人間じゃないように聞こえると、ユリは陰鬱に呟いた。とはいえ、矢吹から聞く天如の力は、とても人間のものとは思えない。
「力場が不安定なせいで、忍者が出てくるとか言ったな?」
「ああ。あいつらは……」
 矢吹が何か答えかけた時、ふいに大音響のサイレンが鳴り渡った。何事かと、窓の外へ目を向ければ、サーチライトがめまぐるしく夜空を照らしている。
「来やがったな」
 呑気に嘯(うそぶ)いた矢吹には、何が起きているのか、もうわかっているらしい。ユリが椅子から立ち上がる前に、貴臣はすでに用心深く窓の脇に立ち、外の様子を窺っていた。
 そのおもてが、サーチライトの向こうに信じられないものを目にしたように硬直する。振り向いた貴臣は、矢吹のほうを見た。
「あれは、なんだ?」
「羽がある奴らか? なら、ハーピー(女面鳥獣)だ」
 淡々とした矢吹の返事に、ユリは窓へと走り寄り、貴臣の傍らからその視線の先を追う。
 大きな黒い鳥が、サーチライトの交錯する夜空を舞っていた。だが、その頭から胸にかけては、ギリシャ神話のとおりに禍々しい女の姿をしているのが見て取れる。
 ここがハリウッドなら、映画の特撮かと訊きたいところだったが、紛れもなく化け物が、マンハッタンの夜を飛び交っていた。
「忍者どもは、まだ人の形を保っちゃいるが、あれはもうこの世界のものじゃねー」
 ユリたちの後ろに立った矢吹が、低い声音を洩らす。自分の正気を疑いたくなったが、窓の下では米兵たちが襲ってくる化け物へと攻撃をしかけている。彼らが夜に怯えていたわけが、これで理解できた。
「あれは、力場の歪みから現れるんだ。異次元か異空間、どこだか知らねーが、ああいう化け物のいる世界へ、空間が繋がっちまう」
「ちくしょうっ!」
 米軍がマンハッタンを封鎖したのは、ウィルスのせいなんかじゃない。道理で、ウィルスの正体が、一年以上かけてもまったくつかめなかったはずだ。すべては、あの化け物のせいだ。
「だが、まだこの程度の歪みでは、ハーピーくらいの小物しか出てこられない。もっと力を持つものを出現させるためには、《黒き門》が必要なのだ」
「やぶ、き……?」
 さっきまで聞いていた無頼の刑事の言葉ではなかった。声も、男の体から感じる気配さえ違う。
「天如……なの、か?」
「《火炎の翼持つ者 黒き門より下る》――正しき運命のために闘え」
 わずかに微笑んだ矢吹から、温かさを持つ圧倒的な気配がすーっと消えていくのがわかる。その刹那(せつな)、部屋の明かりが消えた。
「天如――っ!」
 ユリの叫び声が、漆黒を貫いた。ガシャン――とガラスが割れ、巨大な鳥の羽ばたきが空気を震わせる。
 風と一緒に、ムッとするような異臭が漂ってきた。腐肉の臭いだと気づき、ハーピーが屍肉を食らうと言われることを思い出す。
「貴臣っ!」
 部屋の中を駆ける動きを察して、気をつけろと声を上げた。そうして、運命を懸けた闇との闘いが始まった。



end.
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