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ENDRESS TALE

闇へ開く宿命(さだめ)の扉 1

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           ◆

 闇の中に、巨大な翼の羽ばたきが聞こえる。時々窓の外を掠めるサーチライトの明かりに、禍々しい怪鳥の影が浮かび上がるものの、ユリの目はその実体をとらえることはできなかった。
 ただ視覚に頼るよりもずっとはっきりと、吐き気をもよおしたくなる死臭や荒い息遣いのようなもの、甲高く鳴き交わす声が張りつめた感覚を刺激する。
 二年前、未知の生物兵器による連続テロ事件により、ニューヨークは未曾有の大打撃を受けた。
 現在マンハッタンは一般人の出入りをすべて禁止され、米軍の厳重な監視下に置かれている。
 日本人である正木(まさき)由里(ゆり)と東堂(とうどう)貴(たか)臣(おみ)が、テロによるウィルスに侵され、チャイナタウンに取り残されているという、貴臣の異父兄、芙緋人(ふひと)を救い出すために、そのマンハッタンへと潜入したのはつい二日前のことだった。
 街全体がウィルスに汚染されてしまったために、封鎖されたマンハッタンから脱出することも叶わず、閉じ込められた市民たちのほとんどは暴徒と化している。
 彼らと、治安を維持しようとする軍が一進一退の攻防を繰り返し、かつては世界に冠たる隆盛を誇ったニューヨークは、わずか二年で瓦礫に埋もれた凄惨な廃墟へと変貌していた。
 そう聞かされ、危険を承知の上でマンハッタンへ乗り込んできたユリたちではあったけれど、現実のニューヨークはさらにおぞましい魔界だった。
 チャイナタウンで貴臣の叔父、亜煉(あれん)と芙緋人の息子だという小龍(シャオ)に会った帰路、超人的な力を持つ忍者の集団に襲われたユリたちの危機を救ってくれたのは、天在(てんざい)日輪宗(にちりんしゅう)の座主(ざす)、天如(てんにょ)の恋人で新宿署の刑事、矢吹(やぶき)亨(とおる)だった。
 その矢吹の話では、このニューヨークのどこかに膨大なエネルギーの源が眠っているらしい。そして、不安定な状態にあるエネルギーは時空に歪みを起こし、異次元から現れた怪物がニューヨークの夜を跳梁しているというのだ。
 とても正気とは思えない言葉だったが、では現に目の前で飛び交っているハーピー(女面鳥獣)たちがなんなのか、ユリには説明もできない。
 矢吹の話を信じるかどうかはともかく、ニューヨークに神話の世界の化け物が実在していることは紛れもない事実だった。
 米軍がマンハッタンを封鎖したのは、ウィルスや市民の暴動などではなく、おそらくこの化け物たちが原因だろう。
 だが忍者はともかく、翼があり自由に大空を行き交えるはずの化け物たちは、なぜマンハッタンから出て行こうとしないのだろうか。ニューヨーク以外で化け物が目撃されたという情報など、ユリはまったく知らない。
 いくら米軍の圧力があろうと、そこまでマスメディアを抑え込むことは不可能だろう。マンハッタンには、まだはかり知れない謎がありそうだった。
 しかし、ユリにとってはそんな謎解きなど、実際はどうでもいいことだ。大切なのは、恋人と、行きがかり上でも仲間になった米軍のロイやスティーブたちの身の安全だった。
 その恋人の貴臣は、ハーピーが窓を破って部屋に飛び込んできた時、真っ先に化け物との戦いを始めていた。
 日本での貴臣は、横浜きっての広域暴力団『北辰会(ほくしんかい)』の組長であるユリの愛情を一身に受ける恋人でありながら、また組長の身辺を護衛する最も有能なボディガードでもある。
 甲賀忍の流れを汲む古武道とは名ばかりの暗殺術『東條(とうじょう)陰流(かげりゅう)』の正統な後継者である貴臣は、魔都と変貌したニューヨークにあっても、化け物じみた忍者相手にも対等以上の力を発揮していた。
 だが、その貴臣にしても、まさか翼を持つ女面鳥身の化け物と戦う破目になるとは予想もしなかっただろう。
 暗闇の中で、いったい貴臣がどうやってハーピーと戦闘しているのか、ユリには想像もつかなかった。
 しかし、聞こえてくる荒々しい羽音や、怪鳥の悲鳴のようにも響く獰猛な鳴き声、争いの気配は奇妙なほど明確に感じることができた。
 だからこそ、恋人の安否が心配で堪らない。それに室内にはもう一人、男がいるはずだった。
 自ら新宿署の刑事だと名乗った矢吹亨は、密教集団である天在日輪宗の頂点に立つ座主、天如の恋人であり、今はその天如と同調(シンクロ)した状態にあるらしい。
 天如に体を貸して間は、その真言の力で空を飛ぶこともでき、食事をする必要さえないと語った矢吹は、ここでユリたちと話をしている途中、いきなり天如の人格と入れ替わった。
 外見は矢吹のまま、中身がまるで別の存在に変わったことは、ユリにも確かに感じ取ることができた。
 矢吹であった時とは、周囲へ発する気配の力強さが明らかに違う。温かく包み込まれるようでありながら、その内には矢吹本人のような人間くささはいっさい感じなかった。
 天如とは何者かとユリが問いかけた時、矢吹は如来か菩薩の生まれ変わりかもしれないと答えたが、まさにそんな人を超越した存在ならば、ああいう空気を纏っていても不思議はないだろうという気がする。
 のみならず、さらに解離性(かいりせい)同一性(どういつせい)障害への疑惑も深まった。チャイナタウンで会った、芙緋人とその実の母親である華火(かほ)との間に生まれた小龍は、わずか六歳の少年でありながら、内に龍(ロン)というチャイナタウンの指導者の別人格を持つと聞かされた。
 事実、ユリたちとの別れ際に貴臣へと《ankh》を差し出した小龍は、あどけない幼子とは異質な成熟した口調とまなざしで語りかけてきた。
 矢吹と天如の場合ほど顕著な変化ではなかったものの、別人と確信させるには十分な豹変だ。その上、小龍の父親である芙緋人もまた現在、異なる人格に支配されているという。
 古来より、近親相姦を繰り返してまで一族の血を守ろうとしてきた東堂家にも、おそらく大きな秘密がある。
 芙緋人と小龍に現れた解離性同一性障害の兆候は、それに密接にかかわっているのではないだろうか。だとすれば、同じ血を受け継ぐ貴臣にも、別人格が出現する可能性があった。
 ただ、矢吹の言葉を信用するならば、東堂家の血筋が示す解離性同一性障害にはもうひとつの憶測が成り立つ。
 同調(シンクロナイズ)――外部の何者かの意識をその身に取り込むのだとすれば、ある種、神懸り(シャーマン)的な体質を持つのかもしれない。
 話に聞くだけでもずば抜けた超能力を持つ天如でさえ、同調するには近しい恋人である矢吹の肉体を必要とするのだから、誰でもいいというわけにはいかないはずだ。
 とはいえ、いずれにせよそれは確かめるすべのない仮説にすぎない。信じるかどうかも自分次第だ。そしてユリという男は、柔軟な精神こそ持つものの、どこまでも現実的で自分の目的にのみ忠実なヤクザだった。
 天如の気配が消えたあと、矢吹のそれが戻ってきた様子はなかった。あるいは意識を失っているのかもしれないが、わざと気を絶っていることも考えられる。
 チャイナタウンからの帰路には忍者から助けてもらったが、矢吹が本当に味方かどうかすらわからない。ユリたちを信用させるために、ひと芝居打つことだってあり得るだろう。
 警戒は解かないまま、闇の中に貴臣の気配を捜した。いつの間にか、ハーピーの羽音も静かになっている。
 意識を凝らしたとたん、驚くようなタイミングのよさで恋人の温かな手に腕をつかまれていた。それが貴臣のものだと触れた瞬間にわかり、ほっとしてしなやかな手首を逆に引き寄せる。
「貴臣……無事か?」
「ああ。……始末できたかどうかはわからないが、ともかく黙らせた」
 どこかよそよそしさのある冷たい声音は、いつもユリの腕の中で甘える恋人のものとは違う。貴臣の持つ東堂家の血に眠る《夜叉》の本質が目覚めているのだとわかる。
 これも一種の解離性同一性障害ではないだろうかと疑いながら、手を取り合って廊下へ出るドアへと近づいた。
 貴臣の言うとおりなら、ハーピーに致命傷を与えることはできなかったのだろう。大体、神話に棲む化け物を殺すことなど、可能かどうかすらわからない。
 ここが安心できるような場所ではないことは明白だった。かといって、迂闊に部屋から出れば新たな敵に遭遇するかもしれない。
「矢吹は?」
「ユリ。彼は……」
 貴臣も自分と同じ疑問を感じているのだろう。気配が途切れる瞬間の矢吹は、天如と完全に同化していた。
「ああ。あれは天如だった」
 見た目はどうあれ間違いないとうなずいてみせると、貴臣から張りつめたものがわずかに解けていく。ユリの体温を直に感じて、いくらか普段の貴臣に戻りつつあるようだ。
「ハーピーが入ってきた時、彼は俺たちの後ろにいた。そして、俺がハーピーと戦い始めた時には、完全にいなくなった」
「おまえでも感じ取れないのか?」
 いくら息を殺し気を消し去っても、生身の人間ならなんらかの反応があるはずだ。
 ユリはともかく、貴臣がそれを見逃すはずはなかった。現に、あの忍者の気配だって、貴臣は掌を指すように読み取ってきた。
 ドアや窓から外へ出て行ったのなら、いくらユリだってわかる。これでは部屋の中の闇に消え去ったとしか思えない。
 当惑したまま暗闇で貴臣と顔を見合わせた刹那、「畜生っ、化け物鳥どもめ。焼き鳥にして食っちまうぞ」と唐突に部屋の隅から下品な罵声が聞こえ、あまつさえこちらへ歩み寄る足音まで響いてくる。
「よぉ、無事だったか? さすがに《gate》だな。並みの力じゃねー」
「おい、今までどこにいた?」
 何事もなかったみたいに陽気に安否を尋ねてくる男に、ユリは険しい声色で応じた。《gate》と呼ばれて、胸元の貴臣がびくんと強張ったのがわかるから、よけい不機嫌さが全身から滲み出す。
「う~ん? ……異界だ」
 曖昧な調子で答える矢吹には、ますます不審がつのった。大体、消えるのも現れるのも唐突すぎる。
「異界って……この化け物どもの棲家か?」
「そういうところもあるんだろうが……ともかく俺には異界としか言いようがねー。詳しく知りたきゃ、天如か元信にでも訊いてくれ」
「さっき、『《火炎の翼持つ者 黒き門より下る》――正しき運命のために闘え』と言ったのは、その天如なのか?」
 ユリの傍らから、珍しく熱心に貴臣が質問した。ユリも矢吹の口から、まったく別人の声で同じ言葉を聞いている。
「あ……ぁ? あいつ、そんなこと言ったのか? 悪いっ。あいつが出てきてる間は、俺はぼんやりした夢の中にいるような状態で、よく覚えてねーことも多いんだ」
 ――《火炎の翼持つ者 黒き門より下る》。それは、ワシントンで東海岸のチャイニーズマフィアのボス、李花(リーファ)から、貴臣に告げられた卜占の結果だった。
 占いなど大して信用してもいないユリだけれど、天如にまで同じ科白を言われれば、それ自体に何か意味があるのかと気に掛かった。
 しかし、どうやら今ここで矢吹に確かめたところで無駄らしい。もう一度天如が現れるまで待つしかなさそうだが、それも矢吹自身にコントロールできるわけではないようだ。
「異界には、どうやったら行けるんだ?」
 今度は、貴臣はらしくもない奇妙なことを訊いた。暗闇に、突然ぽっと火が点る。それは矢吹が煙草に点けるライターの炎だった。
 部屋の床の上に、貴臣に倒されたハーピーたちの無残な屍骸でも転がっているのではないかと思ったけれど、ユリが見る限りそれらしい痕跡などどこにも残っていなかった。
 では、あの怪鳥たちはどこへ消え失せてしまったのだろう。矢吹の言う異界へでも戻ったのか。
「《九字》ってのを、知っているか?」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前って、あれか?」
 それにはユリが返事をした。確か、陰陽師だか坊主だかが悪霊から身を護るためのまじないのようなものだと覚えている。
「そうそう。そいつを唱えながら、人差し指と中指を使って、六列五行の格子を描く……いわゆる早九字っていうやつらしいんだが、それで異界への入り口を開く」
「そんなことで……自由に異界と行き来できるのか?」
 ユリの腕の中から、再び貴臣が問いかける。煙草の火を口元に張りつけた矢吹が、闇の中でうなずいた。
「まあ、自由にってのは無理かもしれないが、ちょっとの間、連中から身を隠すぐらいのことはできる」
「誰にでも、できるのか?」
「誰にでもってのは難しいだろうが……あんたなら、多分できるんじゃねーのかな」
「俺……?」
「ああ。天如みたいに修行で法力を高めるのも、あんたみたいに武術の腕を高めるのも、根本は似たものらしい。それに、あんたなら……」
 何か言いかけて、矢吹はふいに喋り過ぎたというように口を噤んだ。どうもこの男は飄々とした態度と裏腹に、貴臣に関する重要な秘密を知っているのではないかと、ユリは疑念を抱いた。
「俺が、なに……?」
 貴臣のほうは、よけい不安そうな様子になる。当然、矢吹が正直に隠し事を明かすはずはなかった。
「……武術と同じように、呪術も肝心なのはイメージらしいから、まっ、何度か試してみるといい」
「矢吹……?」
「それより、やけに静かになったが米軍の連中、大丈夫なのか?」
 矢吹がそう言って貴臣の追及をごまかしているのは明らかだったが、ロイたちの状況はユリも気になるところだった。
「ああ。ロイとスティーブは向かいの部屋にいるはずだ」
 耳を澄ましても、廊下には物音ひとつ聞こえない。ハーピーが建物の中に侵入しているのは、この部屋ばかりでないだろう。
 外から建物を照らして警戒していたはずのサーチライトの光も、先刻から窓に映ることはない。 漆黒の中で、ユリに合図した貴臣が外の気配を窺うように細くドアを開ける。廊下から、それだけは消え残っていた非常灯のほのかに青い光が射し込んできた。
 ほぼ同時に、かなり荒っぽく向かい側の扉が開き、銃を構えたロイとスティーブが飛び出してくる。
「ロイっ!」
「貴臣っ、ユリ、無事か……」
 貴臣が迎え入れるように開いたドアの内側へ、ロイとスティーブが勢いよくすべり込んだ。
「なんなんだ、あの化け物は?」
 想像をはるかに超えた空飛ぶ忍者の襲撃の次が、神話の化け物の襲来だ。いかに精神も肉体も強靭に鍛え上げられたエリート軍人をはいえ、ロイも自分の正気を信じかねるような気弱な呻き声を洩らす。
「ってことは、あんたも化け物のことは知らされていなかったわけか」
「知るはずがない……第一、あれは……」
 本物なのかと確かめるロイは、ハーピーが人工的に造られたものではないかとでも考えているらしい。
 だが、わざわざ神話の化け物を再現するような物好きがいるだろうか。あれだけの労力をかけるぐらいなら、もっと効率のいい兵器をずっと簡単に造れるはずだ。
「スティーブ、あんたはどうだ?」
 ユリの質問に、デルタフォースの猛者は一瞬迷うみたいに黙り込み、ようやく重い口を開いた。
「ほかの部隊から噂には聞いたことがある。もっとも、俺たちは誰も信用しなかったがな」
「噂か……だが、マンハッタンの実態は、軍内でもかなり厳しいかん口令が敷かれているとみて間違いなさそうだな」
「ああ」
 ユリの意見に、スティーブが控えめだが重々しく同意を示した。ひょっとしたら、自分たちはアーサーの策略に嵌められたのかもしれない。おそらくスティーブも、ユリと同じことを思っているはずだ。
 ペンタゴンの中枢でUSアーミーを掌握するアーサー・キング陸軍大将は、ユリの母親の再婚相手であり義父にも等しい存在だ。
 だが、野心家で抜け目のない男はまた、誰よりもこのニューヨークに隠された秘密を知り、時空を歪めるというほどの力を手に入れたがっているはずだった。
 そしてアーサーは、貴臣がニューヨークの謎を解く鍵のひとつであることも知っていた。
 その情報と交換に米軍の協力を取り付けたことを、ユリは今になって幾分後悔しかけたものの、こうなればアーサーの権力も道連れになったロイたちも、貴臣のためにとことん利用するしかない。
「ハーピーは、どうした?」
「チャイナタウンで忍者に襲われた時にその男から教えられたとおり、頭を狙って銃で攻撃した。かなりしぶとかったが、上手く急所に当たれば動きは止められるようだ。そして……暗くてよく確認できなかったが、俺が倒したやつらは消えた」
「消えた?」
 スティーブもまた、常識の通用しない戦闘にどこか半信半疑のような答えを返す。いくら冷静な人間だろうと、無理もない話だろう。
「いきなり消えていなくなるんだ。……矢吹が言っていた、異界にでも引き込まれたみたいに」
 スティーブの言葉を、貴臣が継いだ。どうやらそれで貴臣は異界にこだわっていたのだろうと、ユリにも察しがついた。
「もともとこの世界にいるはずもない連中だ。バランスを失って消え失せちまうのかもしれないな」
 感慨深そうに呟いたのは矢吹だった。いずれにせよ、異界か異次元かに呑み込まれたハーピーが二度とここへは戻ってこないことを祈るばかりだ。
「米軍の兵士たちはどうなったんだろう?」
「わからない。だが、今、ここから出ていくことはかえって危険だ」
「ああ。俺もそう思う」
 スティーブにうなずいて、ユリは銜え煙草の矢吹のほうを見た。ニューヨークに来て一週間程だと聞いているが、このメンバーの中では、とりあえず矢吹が一番化け物たちについては詳しいはずだ。
「朝までここで持ち堪えれば、なんとかなりそうか?」
「ああ。そいつが利口だろうな。大体、闇を好む生き物は、日の光は苦手なもんだ」
「よし……」
 ユリが指示する前に、貴臣は室内にあったテーブルを手早く横倒しにして、窓際へと運んでいく。ハーピーに破られた窓を、テーブルを使って塞ぐつもりらしい。
 たちまち全員が貴臣に倣(なら)い手分けをして、わずかばかりのソファや椅子を窓とドアの前に積み上げて即席のバリケードを作った。
「武器は?」
「M16とMP5が一丁ずつ。それに俺のコルト・ガバメントとロイのベレッタM9……」
「それと俺と貴臣のワルサーP99か……」
 実際のところ、貴臣は闇の中の混戦ではほとんど銃を使わない。味方と同士討ちになる危険もあるからだろうが、ナイフや素手で銃と互角の殺傷力を持っていることは周知の事実だ。
 天如と同調している矢吹のことは、案じるまでもないだろう。このメンバーでは、ユリは自分の身さえ守っていれば事足りる。
「日の出まで、あと五時間少々ってところだろう。それまでの辛抱だ」
「相手がハーピーだけならな……」
 懐疑的に首を捻った矢吹へ、どういう意味かと問おうとした時、ドアの向こうで凄まじい爆発音が響き、建物全体が大きく揺れ動いた。
 ハーピーなら爆発物など使わないだろう。米軍の反撃なのかと訝しむユリに、矢吹の銜えた煙草の火が近づいてくる。
「来やがった……」
「なんだ?」
「忍者だよ」
 ユリの不吉な予感は、最悪の危機となって返ってきた。なぜ、忍者がこれほどまでに執拗に襲ってくるのか。ハーピーがシティホールを来襲したのか。
「くそっ、狙いは貴臣か……」
 ほかに理由などあるはずはない。彼らの目的は、秘められた力を解放するという《gate》しかあり得ない。絶望的な呻きが、それでもなお闘志を失わないユリの唇からこぼれた。
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