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ENDRESS TALE

闇へ開く宿命(さだめ)の扉 3

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           ◆

「貴臣っ……!」
 また引き裂かれてしまう。恐れにも似た動揺に駆り立てられるまま走りだそうとして、ユリががばっと起き上がったのはぼろ布みたいな毛布のかかった錆だらけのベッドの上だった。
「よう、気がついたか?」
 おそらく自ら重傷を負いながら、真っ先に警告の声を上げて忍者を蹴散らし、部屋から逃げだした矢吹が、ベッドの傍らに立って、案じるみたいにユリを覗き込んでくる。
 半分瓦礫のように壁の崩れかけた部屋は、まだシティホールの内部なのだろう。ハーピーと忍者の襲撃は、いったん収まったらしい。
 それも、あの桁外れの鬼気を持つ化け物に彼らの目的の貴臣を奪われてしまったからなのかどうか、ユリに知るすべはない。
 だが、忍者があの化け物と仲間とは思えなかった。あれが窓を破って室内に入ってきた時、凄まじい破壊力に命を落とした忍者もいるはすだ。命なんてものがあれば、だが。
 しかし矢吹にしても、自分の身が一番大事とばかりに化け物に狙われている貴臣を見捨ててさっさと逃げたのだだから、信頼できる仲間とはとても言い難い。
「あんたは……怪我、してたんじゃないのか?」
 矢吹が致命傷にも近い傷を受けたのでなければ、なぜ《gate》をむざむざ化け物に奪われてしまったのかと、自分の失態を棚に上げて厚顔な男を責めずにはいられなかっただろう。
「ああ……まさか、いきなりあ~んなものが出てきやがるとは思わなくて、ちっと油断してた」
 ずたぼろになったコートを開いてみせた矢吹の胸には、はだけたシャツの間から思った以上に生々しい傷跡が見えた。
 まるで胸に大穴でも開いたような傷は、ケロイドみたいな状態ではあるが、かなり塞がりかけている。今さっき負った怪我だと言われても、まともならとても信じられない治癒能力だった。
「あいつめ、俺が一番手強いとわかっていたんだろうな。真っ先に狙ってやがった。……まあ、直前でもなんとか逃げて、この程度の傷ですんだが」
「この程度?」
「今の俺は、天如と同程度の回復力があるからな。生身の人間で、《地獄の諸侯》の気に触れて生きているなんてのは、あんたぐらいなもんだ」
 面白そうに矢吹にくすくす笑われて、翼ではたかれたぐらいで失神した自分の不甲斐なさを思えばよけい腸が煮えた。
 だが、矢吹の言葉のほうが気に掛かり、拗ねるのはあとまわしにして険しい目つきを男に当てる。
「《地獄の諸侯》だと?」
「ああ。本名なんて気の利いたものがあるのか、訊いてみたこともねーが……ローマ法王庁あたりじゃ、あいつらのことをそう呼んでるらしい」
「法王庁? ……待てよ。じゃあ、天在日輪宗ばかりじゃなく、カトリック教会もこの一件に噛んでるっていうのか?」
 いったいニューヨークに眠る《永遠の力》とはなんなのだろう。米軍やIT企業のコスモスウェブばかりでなく、宗教界がかかわっているというのも、むしろ似つかわしいからこそ逆に胡散くさい。
「ああ。多分、米軍の協力を得て、何人かの神父がマンハッタンに入り込んでいるはずだ。カトリックは、《うち》と違って、アメリカの政界にも顔が利くからな」
「軍と法王庁が持ちつ持たれつってわけか」
 気に入らないと、ユリは端整なおもてを顰めた。どちらも現世では最高の力を持つ組織が手を携えているとなれば、誰にも勝ち目があるとは思えない。
 さらに彼らが、本当にそんなものがあるなら《永遠の力》とかを手に入れたら、どれほどの脅威になるかは計り知れない。
「まっ……そういうもんでもねーさ。米軍はニューヨークのお宝を一人占めしたがってる」
 ユリの懸念を読み取ったみたいに、矢吹はニヤニヤと笑う。品のない中年刑事の顔の向こうで密やかに微笑む、ユリは見たこともない美貌の座主が目に浮かぶようだった。
 お膝元のニューヨークに眠る宝なら、宗教的な遺物であろうと、たとえ神そのものだとしても、所有の権利は合衆国にあると主張することはたやすい。もちろん米軍はそうするだろう。
 ともかくお宝よりも、ユリにとって大切なのは化け物に連れ去られた貴臣の安否だけだ。たとえ《地獄の諸侯》相手だろうと、取り戻さずにはおかない。
「その《地獄の諸侯》ってのの棲み家はどこだ? ……異界なんて、ことはないよな」
 この世に貴臣がいるならば、それがどこだろうと助けに行ける。だが化け物の住まいとなると、ユリには見当もつかないと、矢吹を鋭く追及した。
 その気迫に押されたように、戸惑った視線をうろたえて彷徨わせ、矢吹は無精髭のまばらな顎を指先で掻く。
「いや、もともとはあっちの世界の住人でも、今はこっちにいるはずなんだが……」
 ちらりとベッドのユリを窺って、侮るわけではなく心配する視線を向けられるとなおさら、恋人を奪われてこんなところで寝ている自分の無力さを痛感させられる。
 だとしても、貴臣をさらわれたまま、相手に怯えて手をこまねいているようなユリではなかった。
「気持ちはわかるが……貴臣を救い出すとなれば、相当ことだぞ」
「覚悟の上だ」
「……と言われてもなあ」
 どうすると意見を求めるみたいに、矢吹は部屋の入り口近くに佇んでいるロイのほうを伺う。
 矢吹の目線を辿ってから、そこにロイの姿しかなくスティーブが見えないことに、今頃気づかされた。まさかと、おもてが強張っていく。
「スティーブは?」
「忍者との戦闘で怪我をして、別の部屋で治療を受けている」
「ひどいのか?」
 沈痛な面持ちで答えるロイに、ユリが貴臣のことを第一に考えるのは当然とはいえ、やはり疾しさも覚えた。
 矢吹が《地獄の諸侯》と呼んだ化け物は論外としても、それまでの忍者との暗闇での戦いだって、決して安楽なものではなかった。貴臣とスティーブだからこそ、ユリたちが無事でいられたことは明らかだ。
「いや。本人はいたって元気だし、戦意も失ってはいない。だが、出血が多すぎた。輸血したが、しばらくは安静にさせろと、軍医から指示された」
 ロイの説明だけで、ユリには見ることもできなかった戦闘がどれほど苛烈なものだったか、改めて考えさせられた。
 その中で乱れひとつ見せなかった貴臣の実力は、やはりあまりにも常人とはかけ離れたものだ。矢吹が《gate》の力だというのも、あながち嫌みばかりではないのだろう。
 そして、その貴臣さえもあっさり連れ去った翼のある美男の化け物がどれほどの力を持つのかと想像すれば、救い出すという自分の台詞すら空々しく響いた。
「だが、スティーブよりもおまえのほうが重傷だったんだ。ここへ運んだ時には、呼吸も心臓も止まり、軍医も手の施しようがなかった。生き返れたのは、矢吹のおかげだ」
 まだ悪夢から醒めやらないようなロイに、初めて自分の容体を知らされて、死にかけた自覚もなかったユリは当惑しつつ、ベッドの傍らの飄々とした男を見上げた。
「俺に感謝する必要はねーよ。どうせ天如の力だ。あいつは人間なんてどうでもいいと思ってるくせに、変なところで坊主だから、死にかけている者を放ってはおけない……それに、あんたに死なれちゃ不味いこともあるみてーだし」
 天如の側の事情もあってユリを助けたのだと言われ、少々鼻白みもしたが、借りは借りだった。
 それに、《gate》である貴臣はともかく、自分に死なれて不味いこととはいったい何かと首を傾げたくなる。しかし、まず貴臣の居場所を確認するのが先決だ。
 スティーブも動けない。天如が絶対の矢吹は、肝心なところでは頼りにならない。いざとなれば、自分一人ででもあの化け物の巣に乗り込むしかないと覚悟を決めた。
「わかった。だけど、俺にとって一番大切なのは貴臣だ」
 思い詰めたユリの返事には、いかにも自分は気が進まないという様子で、矢吹は肩を竦めてみせた。
 もちろん、どんな怪我でもすぐ治癒するとはいえ、胸に大穴を開けられたあとで尻込みするのは当然だろう。
 ユリだって、さらわれたのが貴臣でなければ、二度と顔を会わせたくはない相手だった。
「そう言うだろうとは思ったよ。仕方ねー。いずれ決着をつけなきゃならねーし、相手が一人で、天如と《gate》の力があれば、なんとかなるかもしれない」
「おい、一人ならって……あんな化け物がうじゃうじゃいるのか?」
 矢吹の話を聞き咎め、ユリは信じたくないという気持ちがありありとわかる顔色で、眉を寄せた。
「そりゃ《諸侯》ってぐらいだから、一人や二人じゃねーだろう。イスラエルのソロモン王が書いたと言われる『レメゲトン』にゃ、七十二の悪魔が出てくるらしい。だが、まさかそいつらが大挙してこっちに出張ってきたりはするめーよ。……まっ、《gate》が開いちまえば、それもわからねーが」
 一人でもあの力だ。そんなのが百も二百も現れたら、米軍どころか世界中の軍隊を掻き集めても太刀打ちできるとは思えない。
「《gate》って、貴臣のことだよな。開くとはどういう意味だ……」
「文字どおり、異界へ向けて門が開くんだ。……《gate》の体を通して異空間が繋がるんじゃないかと、天如が言ってた」
「貴臣の体の中から、あんな化け物が百匹も出てくるってことか?」
 恋人の白い肢体は、ユリが誰よりも慈しみ、知り尽くしたものだった。それだけにうっかりシュールな想像をしてしまい、ぞっと背筋が凍りつく。
「じゃあ、開いた《gate》はどうなるんだ? まさか死んだり……」
 どうしても貴臣のやわらかな四肢が化け物たちに蹂躙される様ばかりが瞼に浮かんで、ユリはベッドから矢吹へと食って掛かった。
「《gate》が死んだら、困るのは異界へ戻れなくなるヤツらのほうだ」
 矢吹のもっともらしい返答には幾分ほっとしたものの、それで納得がいくわけでもない。
 貴臣を連れ去った化け物が、その《gate》を開こうとしていることは、ほぼ間違いないだろう。貴臣の体をあんな巨人たちに出入り口代わりに使われては堪らない。
「で、その《gate》ってのは、いったいどうやって開くんだ?」
 手に馴染んだなめらかな肌を引き裂かれるのではないかと、密かな恐れのこもった声で確かめるユリに、矢吹はいかにも頼りない顔つきで左右へ首を振った。
「わからねー。黒魔術の呪文を使うとか、魔法陣を使うとか、いろいろ聞いたが、どうも定まった方法ってのはないんじゃねーかと思う。要は、使う者と《gate》自身の資質だと天如はいうんだが……」
 自分にはなんのことだかさっぱりわからないと、矢吹はよれよれのコートの下では貧相に見えるくせに意外に逞しい肩で、せつなげな溜息をついた。
 天在日輪宗の貴い座主を自分のものだと自信たっぷりな言葉を吐くものの、案外この男の内心は不可思議な超能力を持つ恋人を崇拝し、こっそりコンプレックスめいたものまで抱いているのかもしれない。
「貴臣の、資質、か……」
 デルタフォースきっての精鋭が大怪我を負うような戦闘の中でも、あの時、青い月光を浴びた貴臣の体には擦り傷ひとつ見当たらなかった。
 資質なら十分あるだろう。ましてそれを使うのが、《地獄の諸侯》と言われるあの男なら、なんであろうと不可能とは思えない。
「あいつは、何者なんだ?」
「カトリックで言う悪魔……仏教ならナントカ魔王とか言ってたが、悪魔のほうが通りはいいわな」
 何しろハーピーもいるぐらいだ。化け物の黒い翼という外見から、ユリもそういったものじゃないかとは疑っていたけれど、かといって当たってうれしいわけでもなかった。
「ずいぶんと古風な格好をした悪魔だな。それに、カトリックの悪魔だろうと、もっと毛むくじゃらのケダモノじみた姿じゃなかったか」
「ああいうのは、人間の精神を投影した鏡に映ったイメージみたいなものなんだそうだ。実体はこの世のものじゃないんだからな」
「ふ~ん……」
 わかったようなわからないような矢吹の薀蓄(うんちく)を聞きながら、ユリはゆっくりとシーツの上の手足を動かした。
 痛みを感じるようなところはどこにもない。外傷も見当たらない。あの翼の一撃で、直接心臓を止められたとしか思えなかった。どうやったらそんな芸当ができるのかは、予測もつかない。
「おい……」
「ユリっ!」
 ベッドから床へ下りたユリに、ロイと矢吹の二人が同時に声を上げる。それには心配いらないと身振りで応じて、正面から矢吹を見据えた。
「悪魔は、どこにいる?」
「ハーレムだよ。次の新月の夜には《gate》が開く」
 淡々とした矢吹の答えが、ハーレムの入り口の《gate》のことなのか、貴臣のことなのか、ユリには判別できなかった。
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