スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←闇扉 最終章までアップしました →夜を宿す魔性の瞳 2
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png 近況
もくじ  3kaku_s_L.png WORK
もくじ  3kaku_s_L.png イベント
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ENDRESS TALE
もくじ  3kaku_s_L.png ●恋
もくじ  3kaku_s_L.png 花と牙
もくじ  3kaku_s_L.png 恋闇
もくじ  3kaku_s_L.png NOVEL
もくじ  3kaku_s_L.png アニパロ
【闇扉 最終章までアップしました】へ  【夜を宿す魔性の瞳 2】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

ENDRESS TALE

夜を宿す魔性の瞳 1

 ←闇扉 最終章までアップしました →夜を宿す魔性の瞳 2

           ◆

「貴臣(たかおみ)は、どうした?」
 阿部(あべ)芙緋人(ふひと)のニューヨークでの住まいは、ハーレムにある古い教会だった。
 雑居ビルの中にある、外見からはとても教会とは思えない教会も多い街だったが、ここはゴシック様式のような凝った装飾の高い尖塔がそびえ、その先端に歪んだ十字架の名残がかろうじて見てとれた。
 内部には略奪のあとも生々しい祭壇を祀った広い聖堂もあり、ひび割れたステンドグラス越しにきらきらと眩しい陽光が射し込んでくる。
 足元まで長い裾を引き、襟の高い真っ白なチャイナ服をまとった美貌の芙緋人は、あたかもこの教会の清廉な神父か、あるいは妖しい儀式の生け贄のようにも見えた。
 ユリを振り返った男の目には、かつてのようなぎらついた憎悪や怨念の色はない。
 いっそ静謐にも感じられる冷ややかな漆黒が、よけい彼を俗世とはかけ離れた存在と思わせるのかもしれない。
 芙緋人と実の母親である華火(かほ)との間に生まれた小龍(シャオ)と、ひとつの肉体を共有しているチャイナタウンの指導者の龍(ロン)は、芙緋人が「身内も含めて人間そのものに興味を失ったようだ」と言ったけれど、その言葉は事実らしいとユリにも思えた。
(悪魔にでも憑かれたか……)
 だが、ユリにとって、芙緋人はもともと悪魔のような男だった。今さら、その中身が別の悪魔に替わったところで大差はない。
 質問に答えようとはせず、ただ彼を見つめ続けるユリに、芙緋人は苛立った気配もなくひっそりと笑った。
「やはり、貴臣を捜しにここへ来たか?」
「なぜ……そう思う?」
 自分たちの事情を、芙緋人にどこまで話していいものか、ユリはまだ量りかねていた。
 かつて、日本と香港で芙緋人と戦ったことはあるが、その時の彼と目の前の男は、おそらくまったくの別人だ。
 しかも、このニューヨークは今や神話に棲むハーピー(女面鳥獣)や《地獄の諸侯》と呼ばれる悪魔が跳梁する魔界とも言うべき異世界と化し、さらにハーレムは何者かが結界を張った異界そのものらしい。
 常識的な判断などここでは無意味だし、現状に適応したくても手持ちの情報量が少なすぎた。
 できれば、こちらの手の内は極力知られずに、芙緋人から彼の持つ情報だけを引き出したかったが、それの叶う相手ではなさそうだ。
 小さく口元を綻ばせたおもては、血の気を感じさせないほど白い。どこまでも整ったシンメトリーな造作は、神が創りたもうた奇跡のような芸術作品だ。
 虚無をたたえた闇色の双眸に淡い陰影を落とす繊細な睫。ほっそりと通った鼻梁。甘い笑みを形づくる薄く紅い唇。
 やわらかく額に乱れかかる髪は微かに栗色をおびている。艶々としたその髪を、芙緋人は華奢な肩先あたりで切りそろえていた。
 今、異父弟である貴臣がその横に並べば、きっと二人の見分けがつく者は肉親の亜煉(あれん)と小龍、そしてユリぐらいのものだろう。
「横浜の王を利用して、俺はおまえが貴臣を連れてニューヨークに来るのを待った」
「最初から、目的は貴臣か?」
 知っていやがったのかと、ユリは憎しみを込めて芙緋人を睨みつけた。
 とっくに、予想していたことだ。貴臣がニューヨークに秘められた力を解き放つ《gate(門)》だと、天在日輪宗(てんざいにちりんしゅう)の僧、元信(げんしん)に教えられた時から。
 これが、貴臣を手に入れようとする芙緋人の罠ではないのかと、ユリはずっと不安を抱いていた。
「だが、おまえが決してその腕から離さないはずの貴臣は、傍らにいなかった。一緒にいたのは米軍の軍人二人と、小龍、そして、妙な日本人が一人。……貴臣はどうした?」
「おまえは、それを知っているんじゃないのか?」
 芙緋人が「妙な日本人」と言った新宿署の刑事、矢吹(やぶき)亨(とおる)は、貴臣を略奪した《地獄の諸侯》とハーレムに結界を張った者とは無関係だろうと話したけれど、ユリはその疑いを完全に消したわけではなかった。
 ハーレムに結界を張り、ここにある《何か》を隠しているのは、芙緋人自身か、あるいは芙緋人の近くにいる者だと、ユリは読んでいる。
 彼らと悪魔の間には、なんらかの接点があるのではないかと、そこに貴臣を取り戻すすべはないかと、一縷の望みを懸けていた。
 射るように鋭いユリのまなざしに、祭壇の前に佇む芙緋人は上体を捻って振り返ったまま、馬鹿にしたように唇を歪めた。
「貴臣を奪われたな。役立たずめっ……」
 吐き捨てるような罵倒にはカチンときたけれど、芙緋人の怒りはユリの怒りそのものでもある。
(ああ。俺は役立たずだ。何もできずに、目の前から貴臣を……奪われた)
 何より腹が立つのは、自分たちを罠に嵌めておびき寄せようとした芙緋人ではなく、ニューヨークに来てからほとんど役に立たない自身に対してだ。
 けれど、このまま終わるつもりはない。それが、どんな悪魔の手からだろうと、貴臣は必ず取り戻す。
「それは、おまえと貴臣を奪い去った相手が無関係だということか?」
 もしも、芙緋人があの悪魔となんらかの関係があるのなら、わざわざユリに貴臣の所在を確かめる必要もないはずだ。
 芙緋人が貴臣を奪われたとユリを罵るのは、悪魔と彼らが決して仲間ではないということだろうと、冷たい横顔に追及した。
「おまえに答える必要はない」
「芙緋人っ!」
 ユリの問いに、なんの手がかりも与えるつもりはないと素っ気なく吐き捨てる芙緋人の手首を、強引に握り取った。
 力ずくで引き寄せる腕に、抗うかと思った芙緋人は意外なほどたやすくユリの胸に転がり込み、忌々しそうな目つきで見上げてくる。
(悪魔憑きにしちゃ、どうも手ごたえがないな……?)
 シティ・ホールから貴臣を連れ去った悪魔は、その黒い翼に軽く触れただけでユリの心臓の鼓動を止めた。
 龍が案じていたとおり、芙緋人に人ならざる者が憑依しているなら、同等ぐらいの力は持っているのではないかと疑っていた。
 また息の根を止められるのではないかと思っていたにしては、ユリの芙緋人への態度も無防備すぎたけれど、それにしても少々拍子抜けだと、内心で首を捻る。
「答えろよ。おまえは、貴臣を奪い去った者の正体を知っているのか?」
 調子に乗って腕の中の芙緋人を脅したのは、本当の力を出し惜しみしているのかもしれない彼への挑発だった。
「傲慢なところは、少しも変わらないな。人にものを訊ねる態度とも思えない」
 ユリの腕から不本意そうに体を離した芙緋人は、まるで不浄の者にでも触れられたみたいに白い衣装をしなやかな指で払う。
 ずいぶんな仕打ちだなと、ユリは悪びれもせず、恋人と瓜二つの顔を見つめた。
 自分のことを傲慢だと責められるほど、芙緋人の口調も謙虚には聞こえない。視線をそらさないまま、皮肉に唇を歪めた。
 もっとも、このハーレムでは、新参者の自分よりも、芙緋人のほうがはるかに力も情報も持っている。
 彼がどんなに気に食わない相手でも、正面から反抗するのが得策ではないことは、ユリにもわかっていた。
「なら、礼を尽くして頼めば、おまえの持つ情報を話してもらえるのか?」
 揚げ足を取るようなユリの言葉に、芙緋人は氷のような瞳を眇め、陰気な笑い声を立てた。
「不遜な態度も、駆け引きのうちか。……だから、おまえは油断できない。だが……」
 ひび割れた祭壇に手をついた芙緋人は、そこに背中を預けるように、ゆるやかにユリのほうへと体ごと向き直った。
「いいだろう。取引に応じよう。おまえが、何者に貴臣を奪われたかを話せば、こちらも、おまえの欲しい情報を与えよう」
「気前がいいな」
 ここで圧倒的に有利なのは、芙緋人だ。いかに超常的な力を持つ矢吹やデルタ・フォースの精鋭であるスティーブがユリに味方するといっても、ハーレムの住人全員を敵にまわせば多勢に無勢だった。
 フィフティフィフティで取引しようという芙緋人の提案は、ユリには好都合すぎて、かえって警戒心を掻き立てた。
 けれど、有利な取引を拒む理由はなかったし、芙緋人に下心があることは最初からわかりきっている。
「OK。……一昨日の夜だ。米軍と一緒にシティ・ホールにいた俺と貴臣はハーピーの襲撃を受けた」
「ああ」
 貴臣が悪魔に連れ去られた経緯を話し始めたユリに、芙緋人は真剣な表情でうなずいた。
 彼が貴臣をなんとしてでも欲しがっていることは、その顔色からも間違いない。
 ただ、芙緋人はニューヨークに来て人格が変わる以前から、たった一人の血を分けた兄弟である貴臣に異常な執着を抱いていた。
 芙緋人が今でも異父弟である貴臣を求めているのか、それとも、血の絆よりも《gate》としての貴臣が必要なのか、ユリには判断がつかなかった。
「貴臣のおかげでハーピーはあらかた始末できたんだが、そこに忍者が乱入してきて、混戦状態になった。ヤツが現れたのは、その時だ」
 思わせぶりに「ヤツ」とユリが呼んだ相手に、芙緋人は明らかな興味を示した。
 体はしどけなく祭壇に凭れかかり、反応らしい反応を見せなくても、わずかな目の光だけで、ユリがそうと気づくには十分だった。
「背の高い、古風な男の格好をしていた。だが、ヤツの背中には真っ黒な翼があった。そいつが現れると、みんな気圧されたみたいに動けなくなった。ヤツは、その場からあっさりと貴臣を奪って飛び去った」
 内心の煮えたぎるような想いは表に出さず、ユリは自分が見たままを淡々と芙緋人に聞かせた。
「あっさりと……?」
「ああ。誰も、指一本出せなかったよ」
 確かめるような芙緋人の問いには、ユリの答えにもいくらか口惜しさが滲んだ。とはいえ、悪魔への恨み言を芙緋人に打ち明けたところで意味はない。
「無様だな」
「……悪かったな」
 芙緋人の率直な評価にも、腹が立つというよりは虚しさのほうが強く、反論は力なく響いた。
「おまえが、止めようともしなかったのか?」
 なんの抵抗もせずにユリが貴臣を渡したとは、どこか信じられないように確かめた芙緋人は、その程度には自分を信頼しているのかもしれない。
「止めるつもりだったさ。だが、ヤツの翼に軽く払われただけで、俺の心臓は止まっちまったらしい」
 そこから先は意識すらなかったと、ユリは肩を竦めてみせた。
「心臓が、止まった?」
「ああ」
「それで……。おまえは、なぜ生きているんだ?」
 芙緋人の質問はもっともだった。ユリ自身も、心臓が止まり、米軍の軍医にも見放された自分を、矢吹がどうやって生き返らせたのか見当もつかない。
 しかし、天在日輪宗の座主(ざす)である天如(てんにょ)が同調(シンクロ)しているという矢吹の能力を、ここで芙緋人に明かすつもりはなかった。
 芙緋人が知りたがっているのは、あくまでも貴臣をさらっていった者の正体だ。矢吹とは関係ない。
「さあな。よっぽど悪運が強いんだろう」
「運だけで、あれに触れた人間が生き返るものか……」
 芙緋人が不用意に洩らした呟きに、ユリは耳をそばだてた。つまり、黒い翼を持つ偉丈夫の化け物を、芙緋人は知っていると考えて間違いなさそうだ。
「あれ、ってのはなんだ?」
「おまえは、どうやって生き返ったんだ?」
 互いに、自分の知っていることは隠しながら、相手の知識を引き出そうと芙緋人と睨み合う。
「俺は、貴臣を奪ったヤツのことを話したぞ。今度はおまえの番だ」
 礼を尽くすと言いながら、ユリは相変わらず遠慮のない口調で芙緋人に問い質した。
 芙緋人は、余裕を示すように凭れかかっていた祭壇から苦々しげに身を起こし、背後の鮮やかに陽光を透かすステンドグラスを見上げた。
「あれは、悪魔だ」
「そのぐらい、見りゃわかる。俺が訊きたいのは、おまえは悪魔のなんなのかってことだ」
 実際には、貴臣をさらったあれが本物の悪魔なのか、ユリにはなんの確証もなかったし、どうでもいいことだった。
 ただ、相手が何者かわからないことには、貴臣を取り戻す対策の立てようがないというだけだ。
 芙緋人から知りたいのも、あれを見つけ出し、できれば倒すか、せめて手傷を負わせる方法だった。
「別に……、俺はあれの仲間ではない。むしろ、貴臣をめぐるライバルと言うべきかもしれないな」
「あれは、今、どこにいる?」
「さあ、な。だが……新月の力で結界が開いた以上、ヤツも貴臣もこのハーレムのどこかにいるはずだ」
「《gate》を開くためか?」
 悪魔がシティ・ホールから貴臣を連れ去ったのは、その場で《gate》の力を解放することができないからではないかと、ユリは考えていた。
 でなければ、圧倒的な力を持つ悪魔が、あそこですぐに《gate》を開いてもなんの不都合もなかったはずだ。ユリたちや米軍に遠慮したわけではないだろう。
 おそらく、《gate》を開くためには、なんらかの条件が必要で、そのひとつがハーレムに隠されたもの、多分、遺跡だろうと予想はついた。
 ユリの切り込むような問いに、芙緋人はわずかにためらい、しかし、ゆっくりとうなずいてみせた。
「そうだ。まだ新月の力が残る今夜のうちに、悪魔は《gate》を解放しようとするだろう。貴臣を取り戻すために、おまえも手を貸せ」
「当然だ。だが、悪魔から貴臣を取り戻すのはおまえのためじゃない。俺は、貴臣を俺の手に取り戻す」
 悪魔に呆気なく心臓を止められた非力な自分に、芙緋人がなぜ協力を求めるのか、ユリにはわからなかった。
 けれど、芙緋人には、ユリ自身も知らない奥の手でもあるのかもしれない。少なくとも、なんの勝算もなしに、強大な力を持つ悪魔に挑むほど、芙緋人は無謀でも無能でもないはずだ。
 芙緋人が何に憑かれていようと、ユリにはどうでもよかった。少なくとも、目の前で元気に策を弄している異父兄の姿を見せれば、貴臣は納得するだろう。
 あとは、貴臣さえ無事に自分の腕に戻ればいい。もし、貴臣が嫌だと言っても、引きずってでもこんな奇怪な世界から日本へ連れ戻す。
 もともと、芙緋人を捜しにいくという貴臣に同行してユリがニューヨークへ来たのも、それだけが目的だった。
(貴臣……)
 もうすぐ、取り戻すから。せめて自分が悪魔のもとにたどり着くまで無事でいてくれと、ユリは幼いイエスを抱いた聖母が微笑むステンドグラスを、じっと睨み上げた。
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 近況
もくじ  3kaku_s_L.png WORK
もくじ  3kaku_s_L.png イベント
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ENDRESS TALE
もくじ  3kaku_s_L.png ●恋
もくじ  3kaku_s_L.png 花と牙
もくじ  3kaku_s_L.png 恋闇
もくじ  3kaku_s_L.png NOVEL
もくじ  3kaku_s_L.png アニパロ
【闇扉 最終章までアップしました】へ  【夜を宿す魔性の瞳 2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【闇扉 最終章までアップしました】へ
  • 【夜を宿す魔性の瞳 2】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。