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ENDRESS TALE

夜を宿す魔性の瞳 2

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           ◆

 教会から出たところで、矢吹と小龍が、ロイとスティーブの米兵二人とともにユリを待っていた。
 過去にも貴臣を芙緋人に奪われかけた経緯があり、ユリはかなり殺気立った雰囲気で教会に入っていったから、締め出された四人はそれぞれに心配してくれていたらしい。
「ユリ……っ!」
 真っ先にユリの腕に飛びついてきた小龍は、その外見どおり幼い六歳の少年のままだった。
 小龍の中には、龍というニューヨークのチャイニーズ・マフィアを統率する男の別人格が存在し、彼ら自身にもコントロールできないタイミングで入れ替わりが起きるそうだ。
 龍のほうは、三十代後半か四十代ぐらいの冷静で思慮深い男のように、ユリはイメージしていた。
「無事だったか。なかなか出てこねーから、あの悪魔みたいな野郎に、頭からばりばり食われちまったんじゃないかって肝を冷やしたぞ」
 胸の辺りが大きく裂けたボロボロのコートを羽織り、小龍の後ろからユリに近づいてきたのは新宿署の刑事、矢吹亨だ。
 ユリと変わらないくらい口は悪いし、とぼけた男だが、矢吹の言うことは時々ひどく鋭い。
(こいつには、芙緋人が悪魔に見えるってことか……)
 貴臣をさらっていった悪魔に、その漆黒の翼のひと撫でで心臓を止められたユリを、どういう方法でか蘇生させてくれたのも矢吹だ。
 こちらの切り札になるかもしれないと、芙緋人にはわざと話さなかったが、この矢吹という刑事は、天在日輪宗の最高位に位置する座主、天如の恋人で、今は、《空海の再来》と言われる天才密教僧と同調状態にあった。
 真言を唱えて空を飛び、この世ならざる異界と行き来して身を隠すこともできる便利な能力を持っている。
 傍目にはとてもそんなふうには見えないのだが、抜け目のない芙緋人の前では、かえってらしくないほうが好都合だ。
「しかし、驚いたな。彼が……」
「ああ、阿部芙緋人。貴臣の異父兄だ」
「兄弟というより……まるで双子みたいだな」
 ロイとスティーブの二人は、まだ芙緋人の外見から受けた衝撃から立ち直れないようだ。
 ハーレムのならず者たちにかしずかれ、サイドカーから降りてきた芙緋人を見た時は、二人ともてっきり彼を貴臣だと思ったらしい。
 芙緋人の実の息子で、貴臣からは甥にあたる小龍はもちろん、外見よりむしろ気配で相手を見分けるらしい矢吹には、混乱した様子はなかったけれど。
「まあな、だから……厄介なんだ」
 貴臣たち兄弟が双子のようだというスティーブの言葉にうなずきながら、ユリはいっそうおもてを曇らせた。
 あれほど鏡に映したみたいにそっくりでなければ、少しはお互いへの執着も薄れたかもしれないのに。互いを互いのものとして惹き合わずにいられないのは、運命のような二人の相似が引き金だったのではないだろうか。
 芙緋人だけではない。ユリがどれだけ熱愛しようと、貴臣の心の中から異父兄への思慕は消せなかった。
 それが歪んだ感情だということは、貴臣にもよくわかっているのだろうけれど。
「貴臣の行方は? 何か、わかったか?」
 ロイから矢継ぎ早に訊かれて、ユリは「ああ」と浮かない顔つきで肯定した。
 その表情を見れば、貴臣の肉親でありながら芙緋人が決して自分たちの味方などではないことは察しがついたのだろう。ロイのまなざしも険しくなる。
「芙緋人は、悪魔が今夜、貴臣を使って《gate》を開くつもりだろうと言った」
「今夜?」
「新月に近いほうがいいらしい」
「しかし、悪魔の居場所がわからなければ……」
「それも、心当たりがあるみたいだ」
 ユリが矢吹や元信たちのことを芙緋人に隠しているように、芙緋人も肝心のところは教えようとはしなかった。
 悪魔は今夜、おそらく遺跡に現れるのだろうが、それがどこにあるのかも、遺跡かどうかも口を割らなかった。
 もっとも、石版が発見されたその場所が本当に遺跡なのかどうかも、確かなわけではない。芙緋人たちは別の呼び方をしているかもしれない。
「遺跡か?」
「ああ」
 スティーブの重々しい問いに、ユリは首を縦に動かした。
 そこがなんにせよ、多分、そこでなければ《gate》を開くことはできないのだろう。
「どうやら、ハーレムに遺跡があるのは確かなようだな」
「だが、芙緋人はぎりぎりまで、俺たちに遺跡の場所を教えるつもりはないらしい」
「なぜだ?」
「さあな。俺は興味もないが、米軍やどこかの刑事に嗅ぎまわられちゃまずいことでもあるんだろう」
 いささか皮肉めかしてロイの質問に答えると、エリート軍人らしい端整で生真面目なおもてが、微かにやましそうに動揺した。
 芙緋人は、ユリが遺跡や悪魔も、ニューヨークに秘められた力も、どうでもいいと思っていることを知っている。
 ユリがここにいるのは、貴臣のため以外になんの目的もない。それを、貴臣を除けば誰よりもよく理解しているはずだ。
 今回の一件に限っては、貴臣に手出しをしない限り、ユリは芙緋人の味方でもないが敵でもない。
 だが、貴臣がニューヨークに秘められた力にかかわる《gate》である以上、芙緋人と敵対しないわけにはいかないようだ。
 少なくとも今は、ロイたちや矢吹の助けなしに、一人で貴臣を悪魔から奪い返すことは難しい。
 真意はわからないものの、貴臣を《gate》として利用しようとしている芙緋人とは手を組めるはずもない。
「やっこさん、夜には俺たちを遺跡に案内すると?」
 矢吹は、どこか疑り深い口調でユリに確かめた。芙緋人の気配を、彼がどんなふうに感じ取っているのかはわからないが、よほど虫が好かないらしい。
「ああ。暗くなってから、ここで落ち合う約束だ」
「じゃあ、それまでどうやって時間を潰すかな。ハーレム観光でもするか?」
 相変わらずやる気があるのかないのかわからないいいかげんな調子で、矢吹は一同を見まわした。
 自分の任務のことしか頭にないロイとスティーブが、それに同調するとは思えなかった。結局、芙緋人から詳しいことは訊き出せなかったが、遺跡のことも気にかかる。
 芙緋人がこの教会に本拠を置いている以上、遺跡はこの近くにあると思って間違いないだろう。
 ただ、勝手に自分たちで遺跡を捜して、ここで芙緋人の機嫌を損ねるのも得策とは言えない。
 それに、もうひとつ気がかりなこともあると、ユリは矢吹の褐色の瞳を見つめた。
「観光も悪くないが……元信たちを捜さなくていいのか?」
 ハーレムの近くで暴動が起こり、日本人の僧侶が数名殺されたという話を、ここへ来る前にチャイナタウンで聞かされた。
 今のニューヨークに、日本人の僧侶がそうそううろついているとは思えない。おそらく、元信たちだと考えて間違いないだろう。
 同じ、天在日輪宗座主の命をおびているとはいえ、矢吹と元信たちはまったく別々に行動しているようだが、気にならないわけではないだろうと、ユリは無精髭の伸びた男の顔を窺った。
「簡単にくたばるようなヤツじゃねー。俺が心配してやる必要もないと思うが……」
「会いたくないのか?」
 どこか気乗りしない矢吹の答えに、あの謹厳実直そうな僧侶とぐうたら刑事がとても気が合いそうにはないと薄々悟っていたユリは、意地悪く追及した。
「まあ、な。俺が天如の頼みでニューヨークに来ていることを、あいつは知らないかもしれないし」
「ずいぶん他人行儀なんだな」
「赤の他人だよっ、それどころか……」
 同じ座主に仕えているのではないかとからかうユリに、矢吹はむきになって言い返す。
「それどころか?」
 言葉尻をとらえられて、矢吹はひどく気まずそうな顔つきになった。
「恋敵(ライバル)……みたいなもんだし」
「はぁ……」
 目をそらした矢吹の頬が照れたみたいにうっすら紅くなっているのを見て、ユリは呆気に取られてから、思わず噴き出した。
 矢吹が真面目な元信を苦手にする気持ちは、ユリにもよくわかる。それに、恋敵と言いたくなる程度には、元信が座主を盲目的に崇拝しているのも間違いないだろう。
 けれど、矢吹が天如を想う気持ちと元信の天如への忠誠は、まったく種類が違うはずだ。
 矢吹に恋敵と言われれば、元信はさぞかし当惑するだろうと、考えただけでもおかしくなる。
「ちくしょうっ……」
「あっはっは……。いや、俺も身に覚えはあるから、笑えないけどな」
「笑ってるじゃねーかっ!」
 恋する男の嫉妬なんてものは、傍目にはずいぶん馬鹿馬鹿しく映るものなのだろうと、他人のことならわかるのだけれど、こと自分自身の恋だと冷静な判断ができなくなるのが人間なのだろう。
「悪かったよ。だけど、俺も元信のことは気になるんだ。観光ついでに捜してもいいだろう?」
 ふて腐れる矢吹をなだめながら、ユリはロイたちを促した。
 有効な打つ手もないまま、ここで夜まで待つのも無駄だと判断したのだろう。ロイとスティーブも、ユリの提案に大人しく従った。
 とりあえず、人のいるほうへ行ってみようと四人揃って歩き出してすぐ、道端にうずくまった薄汚れた白髪の老婆の姿がユリの目に留まった。
(へぇっ……)
 貴臣をさらっていったものが古風な衣装を身につけた端正な悪魔なら、こちらはさしずめ魔女といったところだろうか。
 童話に出てくるそのままの外見は、いかにも異界と化したハーレムには似つかわしく思えた。
「ばあさん、ちょっと訊きたいんだが……」
 迷う前に、何か別の力に衝き動かされたように、ユリは老婆に声をかけてしまっていた。
 ぼさぼさの白髪の下からじろりとユリを見上げた目は、白々と濁り、黒目の部分も灰色がかっている。
 相手が見えているのかどうかもユリには見当がつかなかったけれど、声はちゃんと聞こえているらしい。
「あんたが捜している男には、今夜、逢えるよ。だが……真実には二つの顔がある。あんたが求めようとしない限り、闇に堕ちた闇は見つからない」
 ユリがまだ訊きもしないことを、老婆は勝手に答えた。
 ずいぶんせっかちだなと、皮肉に思ったものの、老婆がここにいたのは偶然ではなかったようだ。彼女は、ユリへのメッセンジャーらしい。
 それにしても、やけに思わせぶりな言葉だった。
 ユリが捜している男というのが、元信ではなく貴臣のことなのは間違いなさそうだ。今夜、貴臣に逢えるというのも、悪魔が今夜《gate》を開くと予想した芙緋人の話と一致する。
 しかし、闇に堕ちた闇とはどういう意味だろう。貴臣には逢える。けれど、貴臣を見つけることはできない。そう言われているみたいだ。
「もっと、わかりやすく説明してくれないか? 俺は、貴臣を取り戻せるのか?」
 無駄だろうと思いつつ、ユリは老婆にヒントぐらいもらえないものかと食い下がった。
 案の定、馬鹿にしたような顔つきを返される。そのどろりと曇った灰色の虹彩は、やはりユリを映してはいないようだ。
「さてね。けど……あんたが役目を果たせなければ、この世界は闇に染まる」
「別に、世界なんて、俺の知ったことじゃねー。悪魔にでもくれてやるっ!」
 貴臣以外はどうでもいいと吐き捨てるようなユリの反論に、老婆は驚いてきょとんとおもてを上げ、ふいに喉の奥でしゃがれた息を洩らした。どうやら、笑っているらしい。
「なるほど、面白い坊やだ。あんたなら、世界も変えられるかもしれないね」
 坊や呼ばわりされても、ユリは気にしなかった。確かに、この数百年も生きていそうな老婆から見れば、ユリなど洟垂れのガキだろう。
 どうでもユリを世界とかかわらせたいらしい老婆の口振りから、貴臣のとんでもない運命に自分も巻き込まれずにはいられないようだと暗鬱な気分にさせられる。
 できることなら、貴臣をこの異世界から日本の自分たちの日常へと連れ帰りたい。
 日本に帰ったところで、『正竜会(しょうりゅうかい)』の跡目争いもいまだ決着がついたとはいえない。ユリがやくざである限り、危険と隣りあわせで生きていくことは免れないだろう。
 それでも、ハーピーが飛び交い、悪魔が人間をさらうような世界にいるよりはずっとましだ。
 問題は、貴臣が芙緋人を残してここから帰ることを承知するかどうかだけれど、その前に悪魔の手から取り返す必要があった。
「世界のことは置いといて……今夜、何が起こる?」
 ひとまず、先の心配よりも貴臣奪還に意識を集中することにした。
 悪魔の目的が貴臣を使って《gate》を解放することなのは芙緋人から聞いたけれど、そもそも《gate》がなんなのかもユリはろくに知らない。
 それが異世界とこの世界を行き来する扉のようなものらしいと、矢吹の話から想像はできても、実際、《gate》が開いた時、貴臣がどうなるのかも予測できなかった。
 ユリの質問に、老婆はどこか邪悪な笑みを皺だらけの顔面に浮かべてみせた。
「今夜、《gate》が開かれる。火炎の翼を持つ魔王が降臨する」
 さっきまでのしわがれた老婆のものとは思えない、重々しく威厳に満ちた声が響いた。
 ――火炎の翼持つ者 黒き門より下る。
 ワシントンで東海岸のチャイニーズ・マフィアを牛耳る李花から託宣を受け、また天如が憑依した矢吹の口からも聞いた言葉だ。
 そして、目の前の老婆は、「火炎の翼持つ者」が「魔王」だと告げた。
「どう思う……?」
 今は天如その人ではないものの、ある程度、彼と意志の疎通があるらしい矢吹に、振り返って意見を求めた。
 もし、《gate》である貴臣の体を通って現れる者が、その「火炎の翼持つ者」ならば、ひょっとしたら貴臣をさらっていった悪魔以上の化け物かもしれない。
 そんなものを相手に、どうやって貴臣を取り戻せるだろう。それ以前に、貴臣が無事でいられるという保障もない。
「なんとなく話は見えてきたが……。嫌な予感がするな」
 ユリに返事をする矢吹の顔色も冴えなかった。おそらく、矢吹はユリ以上に「魔王」とやらの恐ろしさを感じているのだろう。
「できりゃ、《gate》が開くのを阻止したいところだが……」
 低く物騒な声音で呟いた矢吹が何を考えているのか、ユリには察しがついた。
 悪魔が《gate》を開く前に、《gate》そのものを消滅させてしまう。米軍やコスモスウエブは巨大な力を解放するという《gate》を欲しがっているが、この世界のバランスを保ちたい天在日輪宗にとって、《gate》は厄介な存在でしかないはずだ。
 つまり、《gate》が解放される前に貴臣を殺してしまえば、すべての片はつく。いざとなれば、この男は天如のためにそれぐらいのことはやってみせるだろう。
「おいっ……」
 獰猛に威嚇する目つきをユリに向けられて、矢吹はこっそりと肩を竦めた。
「わかってるさ。俺だって、無益な殺生はしたくない」
 貴臣を殺そうと考えたとあっさりばらした男は、口で言うほど悪びれた様子もなかった。
 米軍のロイとスティーブが貴臣を殺そうとすることはないとしても、こいつは警戒しておいたほうがよさそうだと、ユリは内心で溜息をつく。
「ばあさん……っ?」
 ユリが視線を戻した先に、すでに老婆の姿はなかった。
 逃げ出したような気配などいっさい感じなかった。煙のように消えてしまったとしか思えない。
「ばばあ……どうやら、本体じゃなかったらしいな」
「本体じゃないとは?」
 矢吹の忌々しそうな唸り声に、ロイも自分の目を疑うように訊き返す。
「幻を見せられたみたいなもんだろう。何者がなんのためかはわからねーがな……」
 矢吹の懸念には、ユリも同意見だった。悪魔と芙緋人、それ以外にもハーレムには《gate》を狙う者がいるらしい。
 あの老婆が敵であれ、味方であれ、心配の種が増えたことは間違いなかった。
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