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ENDRESS TALE

夜を宿す魔性の瞳 3

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           ◆

 昨夜と同じ、闇の色が濃い夜が訪れた。
 結界が布かれているというハーレムの上空には、常に薄い霧のようなものが立ち込めているらしい。そのためか、地上からは星の光さえ見つけられなかった。
 昼間、あの老婆が煙のように消え去ったあと、元信たちの消息を訊いて歩いたのだが、はかばかしい成果もなかった。
 ハーレムの住人たちがユリたちに決して協力的ではないばかりでなく、どうやら結界の外の世界について、彼らはほとんど現状を知らないらしい。
 もともとのハーレムの住人ならともかく、外の世界で散々略奪の限りを尽くしてきたならず者たちが、いくら結界に阻まれているとはいえ狭いハーレムの中だけで大人しくしているのも妙な話だった。
 それほど、ここに彼らにとって美味しい話があるのか、あるいはもっと強い恐怖のようなものに縛られているのか。
 ユリには、なんとなく後者のように思えて仕方がない。しかし、彼らを縛っているものが芙緋人なのか、ほかの何かなのかも、まったく予想がつかなかった。
 だが、とりあえず今夜、悪魔から貴臣を取り戻すという首尾次第では、芙緋人の正体か、その実力くらいはわかりそうだ。貴臣さえ無事に自分の腕に帰ってくれば、それもどうでもいいことだったけれど。
(ともかく、貴臣を奪い返すのが先決だ……)
 芙緋人は、まだ聖堂に姿を見せなかった。暗くなったら案内すると言った芙緋人の時間感覚もいいかげんなものだったが、矢吹に言わせれば結界の中では常に外と同じ時間が流れているわけではないらしい。
 ユリには、矢吹と小龍、ロイとスティーブたちも同行していた。連れてくるなとは言われなかったが、芙緋人と揉めても強引に押しとおすつもりだった。
 誰一人、必ずしも味方とは言えなかったが、あの悪魔の前ではいないよりはましだろう。
 いまだに龍と人格が入れ替わる気配もない小龍だけは、連れてくるべきか迷ったけれど、六歳の子供をハーレムの中に一人で置き去りにもできなかった。
 すっかり痺れをきらし、捜しに行こうかと思った時、聖堂の奥の扉が開き、白いチャイナ服の芙緋人が現れた。
 同じ白でも今朝とは違うものらしく、裾には日本の着物みたいな淡いピンクの花びらが散る優雅なものだ。
 こういう衣装が、この男にはなやましいほどよく似合った。もちろん、瓜二つの貴臣にも似合うだろうと、ユリの口元がゆるむ。
「遅いぞ」
 ユリの抗議は、優美な男の横顔にあっさり無視された。冷ややかなまなざしが、ユリの背後に立つロイたちを見渡す。
「ついてくるのか?」
「ああ」
 文句を言われても言いくるめる自信はあったけれど、芙緋人は確認しただけで咎めるつもりはないようだった。
 実の息子である小龍にも特に興味を示さないのは、やはり芙緋人の肉体を別の人格が支配しているからかもしれない。人格と言っても、人かどうかもさだかではなかったけれど。
 なんの前触れもなく芙緋人が歩きだしたのは、教会の外ではなく、壊れかけた祭壇のほうだった。
 胸元から取り出したマッチ箱ほどの大きさの何かを、祭壇の正面に開いた同じくらいの穴に押し込む。
 おそらく、鍵のようなものらしい。ことりと小さな音がユリの耳にも聞こえ、祭壇の上部が三カ所、十センチほどの高さにせり上がった。
 祭壇自体は、教会と同じくらい古いもののようだった。芙緋人が作った仕掛けというわけではなさそうだ。
 ここに教会が建てられた時に、祭壇の仕掛けも作られたと考えるべきだろう。少なくとも、芙緋人がニューヨークに来る以前から存在していたはずだ。
 芙緋人が三カ所のうちの右端を押し込むと、今度は別の部分がせり上がってくる。パズルか何かのようだ。
 数度、同じような動きを繰り返し、芙緋人が手を止めた。祭壇の下で軋むみたいな音がすることに、ユリは気づいた。
 芙緋人が祭壇に手をかけ、奥のほうへとゆっくり押す。さほど重さも感じさせないように動いた祭壇の下に、暗い穴が見えていた。
(地下室……?)
 狭い石の階段が、地下へと続いているようだ。どうやら、この教会の地下は遺跡に繋がっているらしい。
 ふと、矢吹から話に聞いた、バチカンが目をつけているという偽神父のことを思い出した。
 悪魔に生け贄を捧げて追放された男は、ハーレムの潰れかけた教会に住み着き、建物の周囲をあっちこっち掘り返していたそうだ。
 この教会の地下が遺跡に繋がっているというなら、偽神父がそれを捜していたのも納得がいく。
 けれど、教会に住んでいるのは偽神父ではなく、ならず者たちを手下にした芙緋人だった。
 では、偽神父はどこへ消えたのだろう。あの老婆のように煙みたいに姿を消したというのか。
 マグライトで階段の足元を照らしながら下りていく芙緋人に、ユリは考えごとをしながら無言で従った。
 矢吹やロイたちも、ためらう様子もなくついてくる。この下に遺跡があることは、小龍はともかく、大人たちは全員気づいているだろう。
 元信もハーレムで遺跡を捜すと言っていた。彼らがすでにハーレムへの潜入を果たしているなら、地下のどこかで出会えるかもしれない。
 芙緋人が持つマグライトの光は強かったけれど、それでも地下道の先はなかなか見えてこなかった。
 遺跡はよほど深いところにあるのか、道はどんどん下っていく。階段はすぐになくなり、そこから先はかろうじてコンクリートで固められているものの、じめじめした坂道が果てしなく続いた。
 ロイたちもユリも、米軍から支給されたジャングルでも行動できそうなコンバット・ブーツを履いていたが、革靴の矢吹はかなり歩きにくいだろう。
 もっとも、いざとなれば空を飛ぶこともできる男は、それほど苦にはしていないかもしれない。
 芙緋人が涼しい顔をして歩いているのも、靴のおかげではなさそうだ。そういえば、貴臣もほとんど足音を立てずに歩いた。
(闇に堕ちた闇は見つからない……か)
 真っ暗な地下道を歩いていると、あの老婆の言葉が奇妙に耳の奥から蘇ってくる。
 貴臣は、自ら闇に堕ちることを望んだりしない。けれど、あの漆黒の瞳は、いつも眩しそうにユリを見つめていた。まるで深い闇の底から、一条の光に焦がれるみたいに。
 今でもそうして、この地の底のどこかで、ユリが助けにくるのを待っているのだろうか。
(もうすぐだ、貴臣。もうすぐ、おまえを俺の腕に取り戻す)
 悪魔の名前も弱点もわかってはいない。ユリにはなんの勝算があるわけでもなかった。
 ただ、自分たちだけではなく芙緋人も、またあの老婆も、今夜、《gate》が開かれることを知っている。そして、貴臣を手に入れようと虎視眈々と機会を狙っているはずだった。
 無力なユリにチャンスがあるとすれば、貴臣を奪い合う者たちの均衡が破れるどさくさに横から掠め取るしかない。
 ふいに、芙緋人が手元の明かりを消した。周囲は濃密な闇に包み込まれる。
 状況もほとんどわからない地下でいきなり光を失ったら、並の人間なら恐慌を起こしかねなかったけれど、さすがに取り乱す者は一人もいなかった。小龍もしごく大人しい。
「どうした?」
「しっ!」
 芙緋人の耳元へ声を落として訊ねたユリに、押し殺した制止が返ってくる。
 口をつぐんだユリにも、やがて、かろうじて伝わっていくる微かな物音が耳に入った。
「人の声か?」
「ああ、目的地が近い。気配を悟られるなよ」
 芙緋人が目的地というのは、つまり悪魔と貴臣の居場所だろうかとユリは首を捻った。
 色濃い闇の彼方からざわざわと遠い潮騒のように響いてくるものは、多分、大勢の人の声だ。
 ユリは、悪魔が喋るのをシティ・ホールでは一度も聞いてはいなかったし、貴臣と話をしているようにもとても聞こえない。
(いったい、誰が……)
 ハーレムを我が物顔に支配しているならず者たちなら、彼らを操っている芙緋人が身を隠して近づく必要もないだろう。
 そのざわめきの正体をユリが思案するまでもなく、勘だけで進む地下道の彼方に薄ぼんやりとした光が見えてくる。
 低く唸るような声音もいくらか明確なものになってきたけれど、何十人もの人間がひどく陰気な歌でも歌っているみたいだ。それとも……。
(呪文、か……?)
 一定の節まわしがあるところは歌みたいだったけれど、それもリズミカルなものではなく、むしろ矢吹が唱える真言にどこか似ている気がする。
(悪魔信仰の集団……?)
 ハーレムに悪魔を信仰する集団がたむろしているというのは、矢吹からの情報だった。チャイナタウンでは、悪魔に生け贄を捧げるために付近の住人をさらっているとも聞かされた。
 貴臣を奪ったものが本物の悪魔なら、あの黒い翼を持つ陰険そうな優男を彼らがあがめているということだ。
 光はもうすぐ間近に見えていた。芙緋人のいつになく不快そうな険しい横顔が、ユリの傍らにある。
「おい……」
「声を出すなよ」
 騒ぐなと念を押してから、芙緋人は覗いてみろと地下道の行き止まりへとユリを促した。
 地下道の先は、すっぱりと切り落とされたみたいにとぎれ、その向こうに青白い光が満ちた巨大な空間があった。
 地下の聖堂とでも言うべきなのだろうか。聖堂の床は、ユリがいる位置よりビルの三階分ほど下のほうにあった。
 そこに、あの声の主らしい男女が五、六十人もいるだろうか。全員が、修道士か何かみたいな足元まで覆う真っ黒い衣装を身につけていた。年齢も性別も様々だが、子供は見当たらない。
 地下聖堂の祭壇にあたる部分には、人型をした巨大な黒い山羊の像が安置されている。
(間違いなさそうだな……)
 声には出さずに呟いていた。それにしても、彼らはいったいどこから来たのだろうかと疑問がわく。
 もともとハーレムの住人だったならともかく、結界の張られたハーレムに集団で移住してきたわけではないだろう。そんなことをすれば、もっと噂になっていてもおかしくはない。
 人々は一心不乱にあの歌のような呪文を唱え、悪魔に祈りを捧げているらしい。
 祭壇の前に、赤黒い血のようなもので複雑な紋様や文字らしいものが描かれている。あれはいわゆる魔方陣というヤツだろうかと、ユリは身を乗り出すように覗き込んだ。
「馬鹿っ……!」
 短く罵った芙緋人に手荒く引き戻され、見つかるようなへまはしないと膨れっ面で睨み返す。
 ユリたちのすぐ背後で、ロイもスティーブも、その異様な光景に呑まれたように立ち竦んでいた。
 意外と面倒見がよかったらしい矢吹は、小龍の手を引いたまま、面白くもなさそうに少し離れた場所に佇んでいる。
 たいした興味もなさそうなところをみると、天才密教僧を恋人にする男は、宗教は違えど、この種の妖しげな儀式を見慣れているのかもしれない。
「貴臣は……?」
 瓜二つの顔に訊くのも奇妙なものだったが、ユリにとって、芙緋人と貴臣ではまったく価値が違う。
 正直なユリは、それをあからさまに態度にも表していた。もっとも、気にするような芙緋人でもなかったけれど。
「少し待て。必ず、ここに現れるはずだ」
 確かに、《gate》を開くなら、これほどふさわしい場所はないだろうと、ユリも納得した。
 しかし、元信の話では、遺跡から発掘された石版は三千年も昔のものだったらしい。
 イエス・キリストを悪魔が誘惑したのは、それから千年もあとの話だろう。この聖堂だって、アメリカの建国とマンハッタンの成立から考えれば、どんなに古くても二百年も経っているとは考えにくい。
 遺跡というイメージではないと、ユリは青白い光に照らしだされる精緻に穿たれた岩盤の天井を見上げた。
 それとも、本当の遺跡はこの聖堂の近くか、さらに地下深くにでもあるというのだろうか。
 ニューヨークに眠る強大な力と遺跡に、なんらかの関係があることは間違いない。
 その力が眠る場所に遺跡が作られたのだとすれば、悪魔がここで《gate》を解放しようとするのも理に適っていると言える。
「ユリ……」
 芙緋人から貴臣と同じ声で名前を呼ばれるのは、あまり気持ちのいいものではなかった。
 眉を顰めながら、白い指が指し示す方向を見たユリのディープブルーの瞳に、隣の男と瓜二つでありながらまったく違う愛しい美貌が飛び込んできた。
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