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花と牙

花闇 ~退魔師・能勢頼人の誘惑~ 1

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        十六夜

「大介……?」
 警視庁捜査4課の刑事(デカ)部屋は、その歴史の浅さや人員の勤務状態を示すように、机やロッカーの類いもまだ新しく傷みも少ない。
 別館の窓は大きく、午後の明るい陽光が室内に射し込んでいたけれど、むしろ闇が本来の職場である刑事たちはほとんどデスクにはいなかった。
 つい最近、奇特にも自ら志願して陸自からこの4課に入った変わり種の新人に声をかけようとして、どうも様子がおかしいと、能勢頼人はひっそりと首を傾げる。
 犯罪捜査の頭脳と体力自慢の猛者たちを選りすぐった刑事部の中で、異色な存在である4課を指揮する頼人は、四年と三ヶ月前に4課が新設された時、科捜研から4課長に抜擢されたやり手の警視だ。
 来期にはすでに警視正への昇進も確実という噂も、まことしやかに囁かれていた。
 エリート警察官僚とも、叩き上げの強面刑事ともあきらかに異質な、端整すぎるその美貌と鋼のように冷徹で強靱な威圧感は、個性の強い警察組織の中でもほかに類を見ない。
 その左手は、紫の絹の刀袋に入った大刀を常に傍らから離すことがなかった。
 お堅いエリート刑事の立場とはかけ離れた奔放で自堕落な私生活を送ってきた頼人が、目下ただ一人だけ興味を抱いている男が、この三つ年下の新しい部下、八口大介だった。
 清潔な短い黒髪は、自衛隊時代の名残だった。おとなしそうな印象から気づかれにくいけれど、涼しげな切れ長の瞳も、すっきりとした鼻梁も、薄い唇も、よく見れば驚くほど整っている。
 その虹彩に、ふとした拍子に鮮やかな紅蓮の色がよぎることも、霊力の強い4課の刑事ぐらいしか、すぐには見抜けないだろう。
 もともと口数も少なくシャイな男だけれど、それにしてもクソ真面目な彼が職場で放心したような表情をさらしているのは珍しい。
 確か、午前中は、同い年の先輩である渡といっしょに、先日、4課が解決した、教祖による連続殺人事件のあった教会の様子を見にいかせていたはずだけれどと、こうしたことには事情通の三浦のほうを窺う。
「大介のヤツ、どうかしたのか? 例の教会に行っていたんだろう?」
「ええ。ただでさえ怪しげなカルト教団の本部だったところで、おまけに何人も殺されていますからね。施設は閉鎖されて、今じゃ人っ子一人いないし。おかしな噂が立ったり、近所の住人が気持ち悪がったりするのも無理ありませんよ。おあつらえ向きの心霊スポットだ。……本当なら、見回りなんて駐在の仕事ですが、うちにも教会ぶち壊した責任の一端はあるわけだし」
 三浦の「うちにも」という口調に微かな引っかかりを感じて、頼人は含みのある言い方だなと、4課創設以来の腹心の部下を睨んだ。
「なんだか、わたしに責任でもあるような口ぶりだな……」
「そりゃ、直接ぶち壊したのは、ボスと大介ですから……」
 その歯に衣着せぬところが気に入って、三浦を捜査一課から強引に引き抜いたのは頼人自身だけれど、本当のことしか言わないから、時々、腹が立つ。
「被害は最小限に抑えたぞ……」
「結界張ったのは、俺と渡です」
 確かに、教会を壊したのは頼人と大介で、被害が外に及ばないように結界を張っていたのは三浦たちだった。
 もっとも、結界を張れと彼らに命令したのは頼人だけれど、あの状況では、三浦たちの術が命がけだったのは間違いない。こうして責められることは、釈然としないものの……。
「で、大介もそうやっていじめたのか?」
「人聞きの悪いこと、言わんでください……」
 人一倍責任感が強くて、しかも自分の力をいまだに厭わしく思っている大介にも、そんな嫌みを言ったのかと確認すると、三浦はとんでもないと即座に否定した。
 言っていいことと悪いことの区別ぐらい、頼人よりもはるかに心得ている苦労人の三浦だった。もちろんそんなはずはないとわかっていたけれど、それなら大介の様子がおかしいことの説明はつかない。
「じゃあ、なんだ? あいつのあの腑抜けた顔は?」
「ここんとこ、ボスのいじめも乗り越えて、やけに機嫌がよかったですからね……」
「嫌みはもういいっ。部下とエッチしたぐらいで、いちいち突っかかるな」
 教会での事件の翌日、頼人が大介といっしょに出勤した時から、三浦には二人の間で何があったかをとっくに見抜かれている。
 頼人の男癖の悪さを十年以上も案じ続けてきた三浦が、部下であるばかりか特別な力を持つ大介との関係を、快く思わないことなど承知の上だった。
 三浦が、ただ刑事としての規範にうるさいばかりでなく、本気で頼人の身を心配してくれていることも知っているけれど……。
「部下の前で自慢げに話すことですか?」
「上司の幸せを素直に喜べ……」
 大介は、同性相手の気まぐれな恋愛を続けてきた頼人が、唯一、自分のほうから求め、焦がれた男だった。
 半分人間、あとの半分は強力な魔性の血を引く彼は、退魔師という宿命を持つ頼人が斬るべき敵でもあった。その半妖の青年を愛し、手元に置いたことを、頼人は後悔してはいない。
「俺は、大介に同情しますよ」
「わたしのせいなのか?」
 もしも人に害をなすようなことがあれば、自分の手で斬ると宣言した頼人に、大介がひどく落ち込んでいた時期もあったから、まだそんなことを悩んでいるのかと呆れた声を出すと、三浦は軽く首を横に振って否定した。
「いいえ。大介が落ち込んでるのは、教会のせいですよ」
「真っ昼間から、噂の幽霊が出たわけじゃないだろ。第一、あそこは……」
 殺人現場に幽霊が出るなんて噂は、当たり前すぎてなんの面白みもない。その幽霊や魔物のからんだ超常事件を追うのが仕事の4課の刑事なら、なおさら耳たこになっている。
 人並みに幽霊を怖がったりするのは、自分の血統を知って、陸自から警視庁へ転属してきたばかりの大介くらいのものだった。
 しかし、魔性の血を引く分、この世ならぬものの気配に敏感な大介でも、あの廃墟となった教会で幽霊を見ることなどないと、頼人は確信していた。
「そうです。あんたと大介が、盛大に霊気を放ってくれたおかげで、悪魔どころか、十キロ四方は幽霊一匹残っちゃいませんよ。まったく、除霊も浄霊もあったもんじゃない。実際、教会でも、地下室でも、霊気の欠片さえ感じられませんでした……。大介が落ち込んでるのは、そのせいです。あいつは、本来、幽霊だって傷つけられないようなヤツだから」
「なんだ。おまえまでついて行ったのか……」
 見てきたような口ぶりで話す三浦の様子から、彼がその場に居合わせたことを察して、頼人がサボっている分も事件を掛け持ちしているくせに、よくそんな暇があったなと、感心して呟いた。
「気になることもあったんで……」
「お節介だな……」
 三浦が過保護なのは頼人に対してだけかと思っていたのに、大介にまでかまいすぎじゃないかと、仕事熱心な部下を咎める。
「あんたが薄情すぎるんですよ。あいつの霊気がひどく不安定なのは、半分はボスの責任です」
 相変わらず、人ばかりか魔物の心の機微にまで敏感な男だった。
 半妖の大介のちょっと特殊な気配を、ここまで正確に読み取れる人間もほかにはいないだろう。霊力というよりは、刑事が天職の男の勘、なのかもしれない。
「まあな……」
 頼人だって気がついていないわけではないのだけれどと、三浦の叱責に珍しく気後れしたようにうなずいた。
 大介に対して、どこかで曖昧な態度を取ってしまうのは、頼人が彼を本気で愛しているからだ。例の教会の事件では、頼人自身が気持ちを持てあまし、ナーバスになっている大介に振りまわされて、冷静な判断を欠くことになった。
 この恋が自分自身とまわりにどんな影響を及ぼすのか、頼人にも予想がつかない。なのに、気持ちや体ばかりが逸って、大介を求めてしまうから、よけいに質が悪かった。
「わかってるなら、なんとかしてください。結界張るにも、こっちは限界があるんです」
「もう……無理か?」
 あの教会でのこともある。本人にその気がなくとも、無意識に垂れ流している大介の霊気でさえ、この世界のバランスを崩しかねない。
 三浦たちに頼んで、大介の部屋に結界を張って、彼の気配が外へ洩れるのを防いでいたけれど、すでに彼らが音を上げる状態になりつつあることは、頼人にも察しがついていた。それが、自分の大介への態度が原因だというならなおさら……。
「今は、渡がなんとかがんばってくれちゃいますが……。もともと人間じゃ荷が重すぎる相手ですから」
「わたしだって、人間だ……」
 人を化け物扱いするなと、ボソリとこぼす。
 生まれた時から、退魔師の一族からも化け物扱いされてきた頼人は、とっくに慣れっこだったけれど、三浦がそんなふうに責めることは滅多にない。
「あいつの霊気の隣で熟睡できるような化け物を、まともな人間とは言いませんよ」
「そうだな……。わたしがなんとかする」
 仕方がないと、ひっそり溜め息をついた。
 いずれにしろ、大介の気持ちまで、三浦たちにはどうこうできはしない。それができるのは、頼人だけだ。
 人と魔性、二つの顔を持つあの男のすべてを受け入れる覚悟が頼人になければ、大介はこの世界では生きていけない。
「お願いしますよ」
 大介のことは任せると言いながら、三浦の目もいくらか危ぶむように、頼人の白い美貌を見つめていた。
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