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●恋

砂上の仁義 1

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     1.

「お祖父様、連絡をくだされば、こっちからお窺いしたのに……」
 突然の来客の知らせを受けたサイ・ビン・ウスマーン・アル=ハイダルは、自室のある塔から下りてきて、正面玄関に向かう途中の廊下で、こっちへ歩いてくる母方の祖父、水上秀一(みなかみしゅういち)翁を見つけて声をかけた。
 白髪に白髯だが、まだまだかくしゃくとした老人は、優美に真っ白いトーブの裾を翻して立ち止まる最愛の孫の姿に目を細め、にこやかに微笑んだ。
 中東にある小国の王子と、その第二夫人だった水上の一人娘、沙也との間に生まれたサイは、母親と瓜二つの少女のように甘い容姿と、透きとおりそうな白い肌、腰まで届く艶やかな黒髪を持ち、この国では異質な存在だった。
 半分異教徒の血を引く、王家の厄介者として育ち、少々ひねくれた性格ではあるものの、勝ち気なところまで母親の沙也そっくりで、それも水上には愛しくて仕方ないらしい。
 水上のほうは、涼しげなシボのある白地に細かい蚊絣のお対の着物と羽織姿で、足下には畳表の品のいい草履を履いている。
 日本から遠く離れたこのアラブの国でも、自分の生活を頑固なまでに崩さないのが、海外で精力的に事業に取り組んでいるこの老人のスタンスだった。
「なに、近くまでくる用があったついでだ。それに、近頃のおまえの暮らしぶりも見てみたかったしな……」
 もともとサイの父、ウスマーン第一王子の居城であったここに、娘婿とは不仲だった水上が訪れるのは、五、六年ぶりくらいだろうか。
 父親を不幸なテロ事件で失い、サイが主人となったこの城の様子を見にきたのだと答え、水上は無骨な傭兵部隊に守られ、武器を持つ迷彩服の大男たちが行き交う城内を、鋭い目つきで見まわした。
「しかし……ウスマーンが生きていた頃も、成金趣味の鼻持ちならない城だったが……。なんじゃ、この優雅さの欠片もない殺伐としたありさまは?」
「申し訳ありませんね。ご趣味に合わなくて……」
 歯に衣着せない祖父の不躾なほど率直な感想に、サイは相変わらずだなと苦笑いしながら、皮肉に応酬する。
「だが、おまえには居心地がよさそうだな」
「お祖父様……」
 嫌みっぽく風情の欠片もない城だと言いながら、ここにいるサイが幸せそうだと笑顔を見せる祖父には、どんな本心も隠せない。
「昔とは、城の中での顔つきが全然違う……」
「そうですね。どうぞ、居間のほうへ」
 第一王子の長男としてはふさわしくないと、この城の中で閉じ込められるように育った時期、サイはけっして幸福ではなかった。
 けれども、そんなことはわざわざ説明しなくとも、水上はよく知っているし、哀れな孫を救ってやることもできなかった自分に、今でもいくらか後ろめたさを感じているのだろう。
 サイもまた、この祖父を責めるつもりなど毛頭なかった。祖父のどこか複雑そうな微笑みを軽く受け流して、喧噪の少ない居間へと水上を促した。
 城の一階にある居間は、身内のような親しい来客をもてなすための部屋だった。
 水上の皮肉どおりに、亡くなった父親の趣味で、柱や天井には金の象眼が施され、クリスタルのシャンデリアもどこか仰々しい。足下の精緻な文様を織り込まれたペルシャ絨毯の価値など、サイは知りもしなかった。
 サイ自身は、常には侍従兼恋人のジン・スワイドと北の塔で生活をしていて、この部屋を使うことも滅多にない。
 大理石のテーブルを挟んで、ゆったりとしたソファーに腰を下ろし、祖父と向かい合った。
 サイの傍らには、いつも影のようにジンが寄り添っている。今はサイの側近という立場だが、このエリート官僚みたいに理知的な容姿を持つ偉丈夫は、亡き父、ウスマーン第一王子の暗殺を指揮した、名うてのテロリストだった。
 欧米に恐怖をまき散らした隣国のテロ組織、アル=シャーヒーンの大幹部で、大規模なテロ掃討作戦でその組織が実質的に壊滅したあとも、国外の組織に身を寄せて破壊活動を繰り返していたジンを、サイは自らの手で捕らえ、けっして主に逆らうことのできない奴隷へと堕とした。
 サイに生涯の忠誠を誓った男は、今ではかけがえのない右腕であり、また身も心も許しきった禁断の恋人だった。サイの祖父である水上も、二人の関係は承知している。
「わしは、泥みたいなコーヒーはごめんだぞ」
「マライアが、昆布茶を用意してくれました」
 寛いでソファーに座り込むなり、アラビア風のコーヒーは嫌だと牽制する祖父に、サイは笑いながら安心するようにとなだめた。
 マライア・オルグレンは、ジンがサイの身辺護衛のために雇い入れた傭兵の一人で、部隊のコックも務める一流の料理人だ。
 世界各地の戦場を渡り歩き、様々な国の軍人や傭兵たちと交流を持ってきた彼女は、日本の食事情にも詳しかった。
「ほう……」
「カップは、エインズレイですが……」
「仕方ない。我慢しよう」
 身長百八十センチの大柄な金髪美女のマライアが、イギリス製のティーカップに注いだ昆布茶をテーブルに並べる様子を、水上は興味深そうに見つめ、湯気の立つカップへいそいそと手を伸ばす。
 サイの隣に座り、いっしょに昆布茶を味わっていたジンは、一口飲んだとたんに顔を顰めた。
 甘ったるいアラビック・コーヒーを嗜好品とするこの国の人間が、どんな反応をするか、おおよその予想がついていたサイは、ちょっと意地悪いまなざしで、恋人の微かに動揺している端整な横顔を見た。
「どうした、ジン?」
「しょっぱい、ですね」
「昆布、海草を粉末にして湯に溶かした日本の飲み物だ……」
 砂漠のこの国では、およそ馴染みのない味だろう。しかし、日本人の客の前で、しかもサイの愛する祖父の前で、それを吐き出すほど、ジンは不作法な男ではない。
「口に合わんか?」
「いいえ、いただきます……」
 サイと同様、ジンの反応を面白がっている水上に訊かれても、律儀な男は慣れない味覚に耐えながら、昆布茶を飲み続けた。
「ところで、俺に何かご用がおありなのでしょう?」
 祖父といっしょに、あんまりジンをいじめすぎるのも可哀想になって、サイはすぐに話をそらした。
「じじいが、可愛い孫の顔を見に来たとは思わんのか?」
「そんなにお暇ですか?」
 石油採掘のプラントだの、パイプラインだの、今は新たに傘下に加えたIT関連企業のインフラ工事にまで、水上が忙しく飛び回っているのはいつものことだ。孫のサイでさえ、この神出鬼没の老人をつかまえるのに苦労していた。
 いくらかの嫌みを込めて追及したサイに、水上はなんだか嫌なものでも思い出したように眉を顰める。
「おまえ……少しウスマーンに似てきたんじゃないのか? まあ、ひとつ頼みはあるのじゃが……」
 堅物で高圧的で、大の苦手だった娘婿に、その息子であるサイが似てきたのではないかと疑いの目で見ながら、水上はらしくもなく言葉を濁らせた。
「頼み? お祖父様が俺に?」
「……うん」
 サイのほうから、世界中の大企業に顔の利くこの祖父に頼みごとをすることはあっても、水上のほうからそういうことはほとんどなかった。
 珍しいこともあるなと問い返すと、水上はまたどこか迷うようにうなずいてみせる。そして、サイをまっすぐに見つめると、思いきったように口を開いた。
「おまえ、しばらく日本に行ってみんか?」
「え……?」
「しかし、殿下は……」
 思いがけない水上の言葉に、面食らっているサイの代わりに、異議を唱えたのはジンだった。
 主人に対してどこまでも過保護な男は、サイがこの城を離れることを最も警戒している。まして、暗殺の機会が増す海外に出ることには、なおさら慎重だった。
 それに、父から煩雑な事業を引き継いだ今のサイは、国内での事務仕事に一日のほとんどを忙殺されている。
「忙しいのは重々承知じゃ。……だが、母親の故郷じゃ。一度くらい見ておくのも悪くはなかろう」
「……そう、ですね」
 水上の言うことももっともだった。この先、さらに仕事が増えることはあっても、今より時間のゆとりができることはないだろう。いくら母親の故郷とはいえ、日本に行く理由ができる機会など、そうあることではない。
「殿下……」
「スケジュールの調整はできるだろう?」
 さらに反対しようとするジンに、サイは少し強引に日本へ行きたいと主張した。もちろん、サイが本当に望むなら、それを警戒心だけで止めるようなジンではない。
「それは……可能ですが」
「そうか。では、決まりじゃ。よろしく頼む……」
 狡猾な祖父には、母親の故郷という理由以外にサイを日本に行かせたい事情があることは明白だ。
 サイには逆らえないジンの気性を知っているから、勝手に自分の都合を押しつけてくる。
「お祖父様っ……俺に、ただ日本観光をしてこいとおっしゃるわけではないのでしょう?」
 さっさと本音を明かせと、サイが催促すると、水上も隠すつもりはなかったように、渋々だが話し始めた。
「まあな。おまえ、権藤は知っておったな?」
「……ああ、水上組の。一度、お祖父様といっしょに、父上に挨拶に来ていましたね」
 サイの祖父、水上秀一翁は、今でこそ日本屈指の大企業の総帥に納まっているけれど、その実家は代々、水上組という都内に縄張りを持つ博徒系の極道一家だった。
 ビジネスを始めてからは、極道から足を洗い、水上組は祖父の舎弟たちが引き継いでいる。
 ジャパニーズ・マフィアと呼ばれるサイの母方の血統も、真面目で誇り高かった父の悩みのひとつだった。
 もっとも、サイ自身はそんなことなど気にも留めなかったし、祖父を見ていると、日本の極道がそれほど悪党ばかりとも思えなかった。
 ましてや、今は無差別殺人と破壊工作を繰り返してきたテロリストを恋人にしているぐらいだから、ヤクザを咎めることもおこがましい。
「ウスマーンのヤツは、ヤクザに挨拶される義理などないと拒みおったが」
「その権藤が何か?」
 祖父の父への愚痴など聞いていたらキリがなかったし、サイ自身も同じ想いを十分知っているから、話を先へと促した。
 権藤は、祖父から水上組を継いだ村瀬の弟分で、現在の水上組の会長だった。しかし、サイとは、昔、ほんの少し言葉を交わしたぐらいで、ほとんど縁もゆかりもない。
「引退したいと言いだしおって……」
「まだそんな歳でもなかったでしょう?」
「わしより、ずっと若いわい。……世界的なこの不況じゃ。日本でヤクザがシノギを続けていくのも、難しいご時世ということだろうな」
 どこか淋しそうに話す祖父は、足を洗ったとはいえ、水上組には今でも強い思い入れがあるのだろう。だからこそ、権藤たちを引き立て、いくつかの事業に企業舎弟を参入させていた。
 水上グループと水上組は切っても切れない関係にある。ウスマーン王子のように、それを徹底的に嫌う人間も少なくはなかったが、祖父は屈しなかった。
「しかし、水上組は?」
「潰すわけにはいかん。それで、権が選んだという跡目候補を、おまえに確かめてきてほしいんじゃ」
 権藤が引退したら水上組はどうなるのかと確かめたサイに、水上は厳しい表情で答えた。その予想もしなかった役目に、サイは目を丸くする。
「俺が……ですか?」
「頭の固くなった年寄りより、おまえのほうが適任じゃろう……」
「俺は、ヤクザのことなんて何も知りませんが……」
 以前、サイに南洋石油のCEO、林士明の人となりを見極めてくれと頼んだ、父方の祖父である現国王も、そしてこの水上も、たった十八歳のサイの判断力をどうも信頼しすぎだった。
 とはいえ、テロリストのジンを側に置くと決めた時、「人を見る目は、誰よりもある」と自負したサイだから、多少の自信は持っていたけれど。
「おまえの人材を見る目は信用しておる」
 そう太鼓判を押す水上も、サイの隣に座ったジンを、その証拠だというようにチラリと見るから、案外、この元テロリストは祖父たちに信用されているのだろう。
 水上や国王が、機会さえあればジンを困らせていじめようとするのも、孫の頼もしい恋人への親愛の裏返しなのかもしれない。そんなことを言えば、ジンは本気で迷惑だと嫌がるだろうが。
「でも……。俺の判断でいいんですか?」
「ああ。……歳も近いらしいしな」
 なんでもないような水上の言葉に、また驚かされた。水上組と言えば、関東を中心に東日本に大きな勢力を広げる組織だ。
 サイと同じ、まだ十代の青年にそれを任せようという、権藤にも祖父にも呆れさせられた。
「そんな若さで……」
「おまえだって、今もそのぐらいの仕事はしておるじゃろう……」
「ジンのおかげです」
 サイ一人では、とてもこなせる仕事ではなかった。父の代わりを、それ以上にこなしていられるのは、アル=シャーヒーンの頭脳と言われた天才、ジン・スワイドが細やかにサポートしてくれているからだ。
 それほど、仕事を甘く考えても、自身に自惚れてもいないと反論すると、水上はひっそりと口元を綻ばせた。
「先方も、なかなか面白い男が側におるらしい。よろしく頼んだぞ」
 案の定、見極めるには一筋縄ではいかない相手らしい。自分で調べるのが面倒くさいから、サイにわざわざ日本まで行ってこいというのだろう。
 その反面、若くして祖父に興味を持たれ、水上組を任せてみようと思わせた相手に、好奇心が湧いた。
「……はい、お祖父様」
 サイは、祖父の奇妙な依頼を慎んで承った。
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