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●恋

砂上の仁義 5

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     5.

 滞在先の若宮組からまわされた車で、サイとジンは、空港から都内の下町にあるという屋敷に向かった。
 去年までは城から出る機会さえ少なかったから、東洋の都市も、日本も初めてで、サイにはすべての景色が珍しい。いつの間にか車窓に張りつくようにして、東京の街並みに見入っていた。
(これが、日本。お母様が生まれ育った、東京という街――)
 リアウインドウには視線避けの薄いグレーのシートが貼られているとはいえ、サイが国内で使っている対テロ用の装甲を備えたリムジンに比べれば、あまりにも無防備だ。
「殿下。せめて信号待ちの間は、窓からもう少し離れてください」
 隙だらけだと、ハラハラしながら警告するジンの声に、やっと隣にいる男のことを思い出した。
「ああ……」
 いくら憧れの日本に来てはしゃいでいるとはいえ、常に自分の身を案じてくれるジンを苛つかせるのは本意ではない。
 サイは、おとなしくシートに背中で凭れながら、傍らの男の端整な横顔をを見上げた。
「そういえば、旅行もあまりされたことがなかったんですね。異国の街は、珍しいですか?」
「うん。ビルと、人と、車……都会はどこも似ているけれど、きれいな街だな」
 首都にどれだけ高層ビルが林立し、道路が整備されても、古いオアシスの面影を残す街には、どこか雑然とした印象がつきまとった。
 東京にもそれなりに古い建物は残っているはずだけれど、ゴミひとつない道路も歩道も、驚くほど清潔に見えた。
「そうですね」
 穏やかに同意したジンは、サイとは正反対に、アメリカ留学経験もあり、世界の都市を駆け巡ってきた男だ。
「おまえは、日本に来たことはあるのか?」
「二、三度、立ち寄ったことはあります。ほんの数日の滞在でしたが……」
「世界中、行ったことのない国はないみたいだな」
 ジンの身軽さがうらやましくなって、つい嫉妬めいた言葉を洩らすと、男は暗いものを映す瞳をそっと伏せた。
「褒められたことではありません」
「まあな……」
 テロリストだった過去を思い出したように陰気に呟くジンの腕に、甘えるように凭れてやると、純白のトーブに包まれた華奢な肢体をそっと胸元に抱き取られる。
 本当に甘えているのは、もしかしたらジンのほうなのかもしれない。心に深い闇を抱えた男が、自分の存在に慰めを見出してくれるなら、サイはうれしかった。
「移動時間が長かったですからね。疲れましたか?」
「いや……城にいるよりよく眠った。変な時間だったから、ちょっと時差ボケかな」
 まだ長旅には慣れていないサイを気遣う過保護な恋人の胸に顔を埋めたまま、たいしたことはないと眠そうに返事をする。
「まだだるいようなら、おやすみください。若宮家に着いたら起こしますから……」
「おまえがいつになく激しかったから……」
「……申し訳ありません」
 ジンには珍しい機内での大胆すぎたセックスのことを思い出し、その疲れもあるのだろうと何げなく口にしたら、律儀な男は恐縮したように謝罪した。
「バカ。責めているわけじゃない」
 どんな時でも、ジンに理性を飛ばすほど求めてほしいと言っているのに、まだわかっていないのかと小声でなじる。
 けれど、本当に疲れていたのか、愛する男の腕の中で安心しきっていたのか、サイはうとうとと眠りに落ちていた。
 それほど時間は経っていないのだろうが、ジンの呼ぶ声で目を覚ます。
「殿下……」
「ん……着いたのか?」
 郊外の高級住宅地にある祖父の別宅でも見覚えのある日本風の門構えが、まずサイの視界に飛び込んできた。
 黒っぽいスーツを着た数人の男が、門前に並んでサイを出迎えている。祖父の屋敷にも大勢いる使用人たちと同じようなスタイルだから、こういうのがヤクザの定番なのだろう。
 古い映画で見るような着流し姿のヤクザなど、今の日本にはいないのだろうかと、サイは白いカフィーヤの下で小さく首を傾げた。
 黒服の一人が駆け寄ってきて、リアのドアを開けてくれる。いつものようにジンの背中に庇われて、サイは車を降りた。
 門の内に、明るい紺色の着物と対の羽織りを着たサイと同じ年頃の青年が立っている。
 その傍らに大柄な男がぴったりと寄り添って、辺りを圧倒するように暴力的な雰囲気を発散していた。
 ビジネスマンの祖父の側にはあまりいないが、ヤクザというイメージには一番しっくりくるタイプだ。
(彼が……若宮蒼一郎、か。でも、ヤクザの跡目というから、もっとごついのを想像したのに……)
 初めて見た蒼一郎は、やさしげな面立ちの、でも凜とした貴公子めいた気品のある容貌だった。細身の手足はすんなりと伸びて、隣の男が人並みはずれた偉丈夫だけに、よけいに華奢に見える。
(ああ。なるほど……)
 祖父が「なかなか面白い男が側におるらしい」と言っていたのは、あの大男のことだろう。
 サイが暗殺者から身を守るために、テロの手口を知り尽くしたジンを身近に置いているように、あの獰猛そうな男が、荒くれたヤクザの中で蒼一郎を守っているのだろうと気づく。
 蒼一郎は、サイのほうへまっすぐに歩み寄ってくる。紺色の着物の袖が、やわらかに翻った。
 着物姿は祖父でも見慣れているけれど、やはり彼のような黒髪にはあでやかに映えた。
「ようこそ、日本へ。サイ殿下……」
「サイでいい。俺も、蒼一郎と呼んでいいか?」
「もちろんです」
 このところ、祖父とはしょっちゅう日本語で話しているし、日本人の外交官やビジネスマンと会う機会も増えてきて、自信をもって話すことができた。
 サイが差し伸べた手を、蒼一郎は固く握り返して、にこやかに微笑みかけてくる。
(ふ~ん……。やっぱり、東洋人は感情が読みにくいな)
 初対面でお互いに悪い印象を抱くことはないだろうが、年齢よりもずっと大人びて如才ない蒼一郎の態度に、やはり祖父が興味を持つだけのことはあるようだと舌を巻いた。
「侍従のジンだ。俺の身のまわりの世話をまかせている。いっしょに世話になるが……」
「こんなあばら屋ですが、部屋数だけはたくさんありますからお気遣いなく。ごゆっくり滞在なさってください」
 蒼一郎に言われて改めて見ると、確かに門も壁もくすんだ色をして、屋根には灰色の瓦がどこまでも並ぶ、由緒ありげな古めかしい風情の屋敷だった。
「うん。なかなか雰囲気のある屋敷だな」
「殿下……」
 蒼一郎の謙遜に率直に同意したとたん、ジンに失言を慌てて咎められ、サイはひどくうろたえた。
「いやっ、褒めたんだぞっ……」
 けっして悪い意味じゃないと焦って言い訳するサイに、蒼一郎は静かな笑い声を立てる。
 澄まして挨拶を交わした時よりも、本当の笑顔はずっとやさしく、見る者を安心させた。ヤクザの血筋といっても、祖父と同じで心の中は悪い人間ではなさそうだと、すぐにホッとした。
「サイのお気に召して、幸いです」
「ジン・スワイドと申します。お世話になります」
 サイから紹介されたジンが、蒼一郎へと優雅に頭を下げる。
「日本語がお上手ですね」
 感心したように呟く蒼一郎は、半分、日本人のサイと違って、明らかに純血のアラブ人の顔をしたジンが、流暢に日本語で挨拶したのは、意外だったらしい。
 しかし、サイだって、ジンがたった数日でここまで完璧に日本語をマスターできるとは思ってもみなかった。
「付け焼き刃ですが……」
「こいつはハーバード出の秀才だ。もともと語学には堪能だが、俺が少し教えてやったら、三日でこれだ」
 頭の出来が普通とは違うらしいと、サイがいくらか嫌みを込めて付け加えると、蒼一郎はまた面白そうに笑った。
「うらやましいですね。うちの組長に、爪の垢でも飲ませたいぐらいです。……剣持大吾、若宮組の組長です」
 隣の肉食獣みたいな男を、蒼一郎はそう言って説明した。サイは、単なるボディーガードだと思っていたから、組長を舎弟か何かのように扱っている蒼一郎に、また驚かされた。
 もっとも、有能なジンを奴隷扱いしている自分だって、人のことをとやかく言える立場ではなかったけれど。
「よろしく、王子様」
 形式的に差し出したサイの手を取った大吾が、白い指を引き寄せたのは、一瞬のことだった。熱い唇が肌に触れてから、サイはやっと男の不埒な意図に気づいた。
「殿下っ!」
 警戒した声を上げたジンが、大吾から引き離そうとする前に、サイは平手で不躾な男の頬を打っていた。
 パンッ――
 派手な音が周囲に響いて、門前にいた組員たちがいっせいに気色ばんだ。
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