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●恋

乱恋 3

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「嫌だっ……」
 あられもなく乱れた寝間着姿で廊下へ飛び出して、蒼一郎は迷いもなく階段を駆け下りた。
 やわらかな縄で両腕を後ろ手に縛られ、バランスを崩せば二階から転がり降りかねないのに、今はそんな配慮すらできる状態ではない。
「蒼……。おい、こら……」
 同じく寝間着を羽織っただけの裸と変わりない格好で、大吾が獲物をいたぶる肉食獣みたいに、わざとらしくゆっくり追いかけてくる。
 彼が本気でつかまえようと思えば、蒼一郎が部屋を逃げ出す前にそうできたはずなのに、ギリギリの抵抗を残酷に楽しんでいる。
 早朝の自宅でのこととはいえ、二人きりではなく、部屋住みの若い衆もいっしょに暮らしている。半分は事務所代わりに使われているから、泊まり込んでいる組員も何人かいるはずだった。
 これだけ騒げば、みんな何ごとかと起きだしてくるだろう。わかっていても、蒼一郎にはほかに逃げる場所もなかった。
 病身の祖父が、今も入院中なのがせめてもの救いだった。尊敬し、愛する祖父に、自分のこんなあさましい痴態を見られたら、蒼一郎は舌を噛んで死ぬしかない。
 誰も見咎めないでくれと祈るような気持ちで、階段の先の廊下を曲がり、幸い家人には出会わないまま事務所のドアの前を通り抜けて、奥の座敷へと逃げ込む。
 けれど、そこまでだった。いくらなんでも、裸よりも恥ずかしい格好で庭に降りることはできなかったし、背後の障子戸に手をかけて、残忍な男が追いつめた蒼一郎に舌なめずりする。
「追いかけっこはもう終わりか、蒼? ……しっかし、そんなもん入れたまんま、よくここまで走れたな。さすがに、《俺の》蒼だ」
「大吾っ……」
 息が、熱く震える。無理に動いたせいで、体の奥に爛れたみたいな痛みと狂おしい愉悦がある。相反する衝動を同時に感じてしまえるほど、自分がすっかりおかしくなっていることを嫌でも意識した。
 全部この男のせいだと、目の前でニヤつくケダモノを、意地だけで気丈に睨み返す。
「だが、いくらおまえが強情でも、限界だろう? それ以上暴れたら、怪我をするぞ」
「なら、どうしてっ……?!」
 怪我をするようなことを、なぜ自分にさせるのかと、やるせなく叫んでいた。
 刑務所に入っていた六年間を除けば、幼い頃からずっと蒼一郎の傍らに寄り添ってきた大吾は、恋人でありながら、今でもどこか保護者意識が抜けていない。
 蒼一郎のことには、柴田やほかの組員たち以上に過保護だったし、独占欲もずば抜けて強い。
 だからこそ、たかがセックスの前戯だといっても、こんなやり方で自分を辱める大吾の意図が、蒼一郎には理解できないし、強い憤りさえ感じていた。
 もともとサディスティックなところがあるのも、人並みはずれて乱暴者なのも十分知っているけれど、蒼一郎に対して無体な扱いをするような男ではない。なのに、どうしてと、青ざめているくせに妙に艶のある薄い唇をギリッと噛む。
「どうして……かな。おまえの恥ずかしい格好や、泣いてる顔が見たくてたまらねー時がある。めちゃくちゃ興奮するんだ」
 言葉どおりに、隠しもしない男の股間は猛々しく勃起している。
 うっかり目にしてしまったモノから慌てて視線をそらしたのは、蒼一郎の中にも危うく歪んだ被虐の欲望があったからだ。でも、それを無垢だった自分に教え込んだのも、この身勝手でスケベな乱暴者だった。
「蒼……」
「来るなっ!」
 座敷の奥のほうにある庭に面した障子にしがみついて拒む蒼一郎へ、大吾は可愛い威嚇など歯牙にもかけず歩み寄ってくる。
 もとより、関東中のヤクザ者が名前を聞くだけで震え上がる極道の大吾とまっとうな高校生の蒼一郎とでは、体格も腕力も違いがありすぎる。少しばかり古武道をかじったくらいの腕で、とうてい太刀打ちできる相手ではなかった。
 そうでなくとも、悩ましい淫具を押し込まれたままで、くずおれそうな細い腰を自力で支えているのもやっとの状態なのだ。
 大きな手に、萎えた腰をあっさりとわしづかみにされて、何度も洩らした欲情でぐしょぐしょに濡れている内腿を開かされた。
 脚に力がはいらないから、とっさに抗うこともできず、腕と同じ縄で卑猥に縛られている素足と性器、その後ろのほうまで明るい光にさらされた。
「嫌だっ! 大吾……」
 見ないでと哀願するように大吾に向けた瞳の先、逞しい裸の肩越しに、開け放たれた障子戸の向こうに、鈴なりになってこちらの様子を窺っている柴田たちがいるのを知って、反射的に凍りつく。
 蒼一郎の異変を鋭く察して、大吾が凶暴な目つきで背後の子分たちを振り返った。
「何、見てんだ?」
 とたんに、「ひっ!」と竦み上がって、障子の陰に頭を引っ込めたのは、大吾の過激なスキンシップでいつもぼこぼこにされている部屋住みの彦たちだ。
 柴田だって、兄貴の大吾に対しては似たようなものだったけれど、さすがに若頭らしく心配そうな表情をそらそうとはしなかった。
「……組長」
「意見があるなら、こいつを可愛がってから、あとでゆっくり聞いてやる。それとも……てめーら、《若》の恥ずかしい格好をかぶりつきで見学してーのかっ!? 金、取るぞっ!」
 あとの台詞は、隠れている彦たちに聞こえよがしに吼えたから、廊下にいた連中は、いっせいにわーっと逃げ出す。
 たった一人、その場に残った柴田は、やはり蒼一郎のほうを哀れむようなまなざしでちらりと窺ったものの、「失礼します」と丁寧に頭を下げ、きちんと障子戸を閉めて、廊下を歩み去っていく。
 彼らの視線がなくなると、蒼一郎はいくらかホッとして四肢の強張りを解いた。
 同時に、ひどく情けなく惨めな気分にさせられたけれど、柴田や彦たちがこれで自分を蔑むことは絶対にないとわかっている。
 逆に、苦労性の柴田などは、先代組長の大事な孫である蒼一郎を、大吾の人身御供に差し出しているような後ろめたささえあるのかもしれない。
「見物人がいねーと燃えねーか?」
 蒼一郎の顔色をどんなふうに誤解したのか、いや、わかっていてからかっているだけに違いない大吾の言葉に、ムッとして目つきを尖らせる。
「バカっ……!」
 吐き捨てるような蒼一郎の罵倒に、大吾はなぜか心地よさそうに目を細めた。そして、いっそう熱っぽく舐めるみたいに華奢な体を凝視してくる。
「ほかの相手ならどうでもいいんだが、おまえだけは嫌なんだよ」
「大吾……?」
「あいつらにだろうと、おまえのこんな色っぽい顔や、いやらしく濡れてるところを見せたくない」
 いやらしくしたのは誰だと責めてやりたかったけれど、むしろ積極的に、蒼一郎との関係を誰かれかまわず主張したがる大吾の意外な告白には、小さく息を呑んだ。
 独占欲は確かに強いけれど、ちょっと露出趣味があるのではないかと疑っていたのに、蒼一郎に関しては特別な想いがあるらしい。
「当たり前だ……」
 けれど、それが人としては当然な感情だと、蒼一郎はかさに懸かって大吾をなじる。
 もちろん、相手はその程度のことで、神妙に反省するような男ではなかった。真摯な顔つきは、すぐに好色な笑みに崩れる。
「おまえの泣き顔を見るのは、俺だけだ……」
「大……っ」
「つらいんだろう。強情張らずに、もう出しちまえよ」
 大吾の甘ったるい猫なで声の要求に、背筋がゾッと総毛立った。
 淫らな玩具を入れられる前にも、男の長い指と肉厚な舌でさんざん抉られ、いじめ抜かれて、痺れたような後孔から、小さなリングが覗いている。リングには大きめの葡萄の粒みたいな珠がいくつも連なってついていて、そのすべてが今は蒼一郎のやわらかな体の中へ収まっていた。
 後ろ手に縛られ、腰を高くして四つん這いになった恥ずかしい姿で、そのひとつひとつを大吾の指に押し込まれる間、蒼一郎は潤みきった泣き声を上げ続けた。
 ギチギチと内部を満たして珠が擦れ合う圧迫が苦しくて、すぐにでも出してしまいたいけれど、あんな感触をもう一度味わわされたら、おかしくなってしまう。
 その上、大吾は蒼一郎に自分で力んで出してみせろと命令してきた。
 遊び慣れた男から、バイブとかローターとかを使われるのもまったく初めてではなかったけれど、蒼一郎は無機質な玩具に与えられる歪んだ快楽が、あまり好きではなかった。
 泣かされるほど執拗に嬲られても、大吾自身の指や、大きすぎる性器のほうがずっとうれしい。そんなものを使わなくても、自分は大吾のセックスに狂おしいほどの愉悦を感じているのに、彼はそれだけでは満足できないのだろうかと思うと、ひどく惨めだった。
 まして、大吾の目の前で玩具を使って自慰をするようなそんな行為を見られるのは、絶対に嫌だと首を振る。
 だから、柴田たちに知られることも承知で、ここまで逃げてきた。どこへ逃げようと、自分が大吾の手の内からどこへも行けないことは、蒼一郎自身が一番よくわかっていたけれど。
「大吾……頼むからっ」
 縛られた腕では、寄り添っている男にしがみつくことすらできず、もう許してと弱々しく哀願していた。
「仕方ねーな。手伝ってやるから、ここに凭れて、尻を突き出しな」
 大吾は、古い日本家屋のしっかりとした柱に蒼一郎を寄りかからせて、後ろに立つ自分のほうに尻を差し出せと囁いてくる。
 立ったまま、もう一度あれをされるのかと思うと泣きたいほど怖くて、せめて腕を自由にさせてほしいと、残酷な男を振り返った。
「縄、解いて……」
「だめだ」
 大吾の返事は、わかっていたけれど、冷たすぎるほどにべもない。
「でも……っ」
「おまえ、縄が似合うよ。そんなふうに脱げた着物を引きずって、白い尻をくねらせてると、ゾクゾクする」
「誰がっ!」
 好きでこんなみっともない姿をさらしているわけじゃない。本当は死にたいくらい恥ずかしいのにと、蒼一郎は屈辱の涙に滲む目で男を睨んだ。
「そういう顔は、悪い男を煽るだけだぜ、蒼……」
「おまえが、変態なだけだっ!」
 こんなセックスを、普通の恋人同士はしない。少なくとも、蒼一郎の常識の範疇にはないと、怒りに震えて大吾を罵る。
「おまえは、自分がわかってねーよ」
 背後から蒼一郎の耳朶を噛むみたいに囁いてくる大吾に、どういう意味かと問いかけるまなざしを向けた。
「この白い肌も、しなやかな手足も、きれいな顔も、気の強い瞳も……全部、男の中のケダモノを目覚めさせるんだ。小さい頃から、危ないヤツに追いかけられたり、レイプされかけたことも、一度や二度じゃなかっただろ?」
「それはっ……」
 自分がヤクザの家で育ったからだ。蒼一郎は、そう言いわけしようとして、大吾の射貫くような目つきに口を塞がれた。
「違うよ。おまえがどこにいても、それはおまえが生まれ持った分、ってもんだ」
「どうして……?」
 わからないと、蒼一郎は小さく首を振った。自分は普通の子供だった。ヤクザの家で暮らしていても、今だって普通の高校生だ。
「おまえは、男を狂わせる。……俺だって、おまえにとらわれているんだぜ」
 極道でしか生きることのできない男に、自分が極道なのは蒼一郎のせいだと言われたような気がして、納得できるはずはなかった。でも、この勝手気ままな男を若宮組に留まらせているのは、間違いなく自分なのだろう。大吾がとらわれているというのは、きっと嘘ではない。
「大吾……」
「見せろよ、蒼一郎。おまえのうんといやらしい姿を……。俺を、もっと狂わせてくれ」
 もとより、狂気をおびたこの男を、狂わせてしまったのが自分だとは言われたくない。けれども、蒼一郎にかかわれば、この男は人が変わる。文字どおり、鬼にも悪魔にもなる。
 六年前、黒龍会の事務所に単身乗り込んでいったのも、殺された舎弟たちの恨みばかりではなく、本当はまだ幼かった蒼一郎を守るためだったのだろう。あのまま抗争が続いていれば、いずれ蒼一郎の身にも、亡くなった両親と同じように黒龍会の手が及んでいた。
 蒼一郎が三歳の時に、両親は事故にみせかけて黒龍会に殺された。同じ車に乗り合わせていた蒼一郎も大怪我を負い、運び込まれた病院で医者にも見放されかけていたのを、大吾に救われた。
 大吾が「助からなければ、おまえを殺す」と医者を脅し、大量の血を分けてくれなければ、蒼一郎の命はとっくに消えていた。
 それからも、どれだけこの男の腕に守られ、無償の愛を受けてきたかわからない。だから、「おまえは、俺のものだ」という大吾の言葉を、蒼一郎は素直に受け入れた。自分の身も心も、この守護者(ガーディアン)のものだった。
「息んで、ゆっくり腹に力を入れてみろ」
 熱い掌でなめらかな内腿を撫でまわしながら、大吾に言われて、蒼一郎は逆らうこともできなかった。
 珠を詰め込まれた腹の中が苦しい。痛いような気がして、息をゆるめかけるたびに、大吾に促すみたいに下腹や脚をさすられた。
「んっ、んあっ、あっ、あ……あぁぁっ!」
 ポロリと、最初の珠が転がり出て、尻の先に垂れ下がる。大吾のほうに見せつけている自分の格好を思い出して、とっさに全身を強張らせた。
「蒼……?」
「……い、やっ、大吾。見ないでっ……」
「ちゃんと、全部見てるよ、蒼。……ほら、二個目が覗いてるぜ」
「だめ――えっ! 大吾……」
 意地悪い指に、せっかく出そうとしている珠を中へ押し戻されて、蒼一郎は不自由な身を悶えさせ、焦燥に泣き叫んだ。
 珠を産み出せば、捲れ上がった敏感な内襞がジンジンする。熱くて、痺れるみたいな悪い熱を孕む。
「嫌っ、嫌だっ……」
「ほら、ちゃんと力めよ。中に入っちまうぞ」
「入れないでっ!」
 ちゃんと出すからと、蒼一郎はあられもなく叫びながら、大吾のほうへ差し出した尻をビクビク震わせた。
 ポロポロと珠が転がり落ちてくる。そのたびに、身の毛もよだつような感覚に、ヒクヒクと泣きじゃくった。
「大吾……大吾っ」
 途中でどう力んでも珠が動かなくなってしまい、蒼一郎はうろたえきった泣き声を上げる。
「どうした? まだ半分も残ってるぞ」
「だめっ! も、無理っ……」
「腹に力を入れるんだよ」
「無理っ……大吾」
 苦しい。つらい。身も世もなく泣きながら、訴える。自分をさいなんでいるのは、間違いなくこの男なのに、すがりついて助けを求める相手も彼しかいなかった。
「仕方ねーな。全部出してやるから、しっかり足を踏ん張ってろよ」
 この男が、途中で許してくれるほど甘くはないことなどわかっていたのに、蒼一郎はただ目の前の責め苦から逃れたくて、コクコク首を縦に揺らした。
 柱に薄い肩を押し当てて、萎えそうな両脚に力を込める。大吾の気配が、微かに動くのを感じて……。
「ヒィッ、ヒッ……ヒィィィ――ッ!!」
 衝撃は、ほんの一瞬だった。けれど、そのせつなに、蒼一郎は何度も失神するほどの快楽と苦痛を同時に味わわされて、全身をビクビクと痙攣させた。
 あまりの強烈な刺激に、しばらく意識が飛んでいたのだろう。重い瞼を開くと、自分は座敷の畳の上へ仰向けに横たえられていて、大吾の火傷しそうに熱をおびた体が覆い被さってくる。
「蒼……気がついたか?」
「うっ、ひっ……うっ、う……」
 頭の中はまだ真っ白いままで、子供みたいな痛々しい嗚咽が唇からこぼれた。
「泣くな、蒼。……いい子だから」
 昔、よくそうしてくれたように甘い声であやしながら、大吾の手は痺れて感覚の戻らない蒼一郎の膝を抱え上げ、やわらかな尻の丸みをなぞる。
「やっ、やぁっ……!」
 男に何をされるのか、呆けた頭はまだ理解できたわけではなかった。ただ本能的に怯えた声を上げた蒼一郎に、逞しい裸身がゆっくりと密着した。
「あぁっ、あ――っ、あ――っ、あぁっ……あ――っ、あぁっ!」
 何を、どれだけ叫んだかわからない。とっくに、まともな意識は失っていた。
 玩具の珠で正気をなくすほど責められた弱い粘膜を、勃起しきった凶暴な男の性器に開かれ、最奥まで犯された。
 蒼一郎は再び意識を混濁させ、人形みたいに猛々しく揺さぶられるままに小さく啜り泣いた。
「あぁっ、あ……あ、あ……ひっ、あぁっ……あ――っ……」
「蒼……蒼一郎、愛している。俺の、蒼……」
 ただ、繰り返される男のやさしい言葉だけが、薄れゆく意識を慰めて、激しく抽送しながら注ぎ込まれてくる熱を感じると同時に、蒼一郎の下腹をようやく縛めから解放された欲望が迸った。

           ◇

「……痛い」
 目を覚ました布団の中で、蒼一郎は低く、不機嫌な声で呟いた。
 ぼんやり霞んだ視界にある天井は、自分の部屋のものではない。けれど、昔からすっかり見慣れている大吾の部屋だった。
 布団には、男の香りが残っている。厚みのある毛布にくるまれた体は、一糸まとわぬ裸だったけれど、意識のない間に風呂でも使わせてくれたのか、汚れた感じはどこにもない。
 風呂場に運ばれる時、誰にどんな格好を見られただろうと思うと、また気が重かったけれど、あんな騒ぎがなくても、蒼一郎の嬌声ぐらい、部屋住みの連中はとっくに聞き慣れているだろう。
 柴田にも何度か苦情を言われたとおり、それが好ましい状況とは思えなかったけれど。
 それにしても、縛られていた体のあちこちの関節と、特に……お尻の中、が痛くて、自分を好き勝手に蹂躙した男に、無性に腹が立ってくる。
 なのに、当の本人がいないから、怒りのはけ口を失った蒼一郎は、深い溜め息をついた。
 それにしても、いつもなら終わったあともベタベタ触りたがる男が、同じ布団の中にいないのは妙だった。
 いったいどこへ消えたのだろうと静かな室内を見まわして、次第に不吉な予感にとらわれていく。
(まさか……な)
 ほんのわずかな時間、自分が目を離したからといって、そうそうトラブルを巻き起こす大吾でもないだろう。心の中で自分に言い聞かせた言葉がやぶ蛇になったみたいで、かえって不安を掻き立てられた。
「……ったく」
 あんな目に遭わされたあとで、まだ大吾の心配をしてやることもないのにと、自分のどうしようもない甘さに舌打ちした。もう一度寝直そうと、自力で動かすのもだるい四肢を毛布の中でそっと丸める。
 しかし、つくづく運が悪いのか、安らかな眠りが訪れる前に、静寂を破って廊下に荒々しい足音が聞こえた。
 どうやら、大吾だけではなさそうだ。ドタドタという足音がいくつも二階を駆けまわっている。
 二階には、蒼一郎と大吾のほかにも、部屋住みが二人、私室をもらっているけれど、自分たちのいる場所とはかなり離れているし、こんなに騒がしくすることも珍しい。
 また大吾が暴れているのは、おそらく間違いないだろう。けれど、大吾相手にケンカをしかけるような命知らずが、今の若宮組にいるとは思えなかった。
 ゆうべ、柴田は何か言いたそうな顔をしていたけれど、温厚な彼ならなおさら、大吾を怒らせたりはしないだろう。
(いったい……?)
 何ごとかと疑うまでもなく、眠れないままじっと見つめていた襖がストンと開く。
 そこに、忘れもしない顔を見つけて、こいつも懲りない男だなと、蒼一郎は内心で嘆息した。
「若、具合が悪いんだって?」
「島村さん、あなたにお見舞いいただく義理はありません。お引き取りください」
 なんだか妙に遠慮がちに、廊下に膝をついて蒼一郎の様子を窺っている島村へ、冷淡な返事をした。
 そのうち、若宮組のシマにも現れるかもしれない――といった権藤の言葉は、的中したようだ。
 この男にさんざん痛めつけられてレイプされてから、まだどれほども経っていない。本当なら顔も見たくない相手のはずだけれど、不思議となんの感慨も湧かなかった。案外、大吾以外の男のことなどどうでもよくなっているのかもしれない。
 ほとんど毎晩のようにこんな強烈なセックスをされていたら、蒼一郎の感覚がおかしくなるのも、無理はないだろう。
「帰れって言ってるだろう、このタコッ!」
 廊下の向こうから、柴田たちに両腕を抱え込まれた大吾の罵声が聞こえてくる。
 なるほど、大吾にとって島村は天敵みたいなものだ。誰が大吾を激昂させたのか、答えは訊くまでもなかった。
「てめーはすっこんでろ、剣持っ。俺のほうは、若に用があるんだよ」
 島村に用があると言われて、蒼一郎は布団の中できょとんと目を瞠った。まさか、また愛人になれと迫りにきたわけではないだろう。
 その件なら、大吾との野蛮きわまりないタイマンで島村が負けて、一応の決着はついたはずだった。
 あの時、殴り倒され、手足を銃で撃ち抜かれて、半死半生の状態だったにしては、やけに回復が早い。やはりこの男もただ者ではないのだろう。
 権藤の情報が嘘でなければ、今の島村は黒龍会とは無縁のはずだ。命令されて、若宮組を潰しにきたわけでもあるまい。
 だからなおのこと、島村が今さら自分になんの用があるのか見当もつかない。
 第一、今の蒼一郎は、自力で布団から起き上がることさえおぼつかない体調だった。こんなところを、他人に、ましてや島村には見られたくない。
 どうやって追い返そうかと迷いながら口を開きかけて、廊下から自分に向かって土下座をする島村に、さすがの蒼一郎も目を疑った。
「頼むっ、俺を舎弟にしてくれ。部屋住みからやり直せというならそうする。俺は……おまえに惚れたっ!」
(はぁ……?)
 島村の告白は、さらに蒼一郎の理解の範疇を超えていた。
 横になったまま固まっている蒼一郎を尻目に、ようやく柴田の腕を振り払った大吾が、猛然と島村につかみかかる。
「このタコ野郎っ! よくも俺の目の前でぬけぬけと言いやがったな。蒼に惚れただとぉ?! こいつは、三つの時から俺のもんだ」
「その大事な自分のものを、寝込むほど嬲りやがって。この、鬼畜のド変態っ!!」
「変態はてめーだろうがっ! 無理やりツッコンで、蒼に大怪我させた馬鹿野郎は、どこのどいつだっ……」
 つかみ合いながら、お互いを罵り合う二人をうんざりと眺めて、蒼一郎はどっちもどっちだなと嘆息した。自覚のないバカ二人に、ひどい目に遭わされたのは自分ばかりだ。
「黒龍会傘下の組長が、僕の舎弟になんかなったら、マズイんじゃないのか?」
「黒龍会とはきっぱり縁を切った……」
 とうてい正気の沙汰じゃないと、蒼一郎は権藤から聞かされたことは知らないふりで、島村に鎌をかけてみた。
 大吾と取っ組み合ったまま、島村は真顔で振り返ると、はっきりそう言った。確かに、黒龍会から離れたというのは嘘ではなさそうだ。
「蒼一郎、おまえがいれば、俺たちはまだ黒龍会と戦える。あんなよそ者の言いなりになる必要なんかありゃしねーよ」
 どうやら、島村は本気らしい。自分から縁を切ったのか、蒼一郎の拉致に失敗して破門されたのか、真相はわかったものではないが、黒龍会を敵にまわして無事でいられると思うほど、この男も甘くはないだろう。
(おいおい……)
 大吾一人でも特大の火種なのに、もう一人、とんでもないトラブルメーカーが飛び込んできたのではないかと、蒼一郎は冷たい悪寒に背筋を震わせた。
 もちろん、黒龍会と縁の切れた島村は、今や孤立無援だ。今さら、水上組の傘下に戻れるわけもなく、かといって統仁会だけで黒龍会に抗うことは不可能だった。
 だからといって、今までさんざんいがみ合ってきた若宮組の懐に飛び込もうという島村の気が知れないが、よりにもよって組長の大吾ではなく、高校生の蒼一郎の舎弟志願とは。裏で何をたくらんでいるか、知れたものじゃない。
 春にはまだ遠い、冬の午後。嵐の予感は、蒼一郎のすぐ間近にまで迫りつつあった。


end.
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