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ENDRESS TALE

紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 2

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           ☆

「珍しいですね。何か、悩み事ですか?」
 ラップトップのノートパソコンを立ち上げたまま、デスクに肘をついてどこか視点の定まっていないユリに、覗き込んできた男が淡い笑みを浮かべて訊いた。
 実際、仕事中にぼんやり考え事をしているなんてユリらしくもない。弱冠十八歳の若さで、育ての親でもある北川(きたがわ)武明(たけあき)からこの横浜最大の組織である『北辰会(ほくしんかい)』の跡目を継いで以来、広域暴力団の組長としての立場もさることながら、経営者としての手腕を遺憾なく発揮してきた。昨年一年遅れで大学を卒業してからは、いっそう精力的にフロント企業の育成を推し進めてきたおかげで、景気の回復も思わしくない厳しい状況の中でも、『北辰会』の懐がどれほど潤っているかは、金庫番の内藤(ないとう)の生き生きとした顔を見るまでもないだろう。
 実の兄である『関東・正竜会』の幹部、竜馬(りょうま)との、父親の跡目をめぐる確執は、一応落ち着きをみせていて、何もかも順風満帆のようなこの青年が悩みそうなことといえば、たったひとつしか思いつかない。
 八つ年上の、今は常にその傍らでユリのボディーガードを務めている最愛の恋人。東堂(とうどう)貴臣は、すでに誰もが認め畏怖する横浜の首領(ドン)であり、腕っ節も強く、悪魔みたいに頭の切れるこの怖いもの知らずな青年の、唯一の弱点だ。
 また先生のことですかと、九鬼(くき)義晴(よしはる)は、左目から頬へ刀傷の走った印象的な切れ長の双眸を穏やかに細めてみせる。
 ユリと同様に幼少から北川家で養われてきた九鬼は、年はかなり離れているが乳兄弟のように身近な存在で、この『北辰会』の若頭でもある。元々先代の北川組長は九鬼に『北辰会』の跡目を譲るつもりだったが、親組織である『正竜会』の跡目争いに巻き込まれたユリを護るために、急遽予定外の組長に仕立てた経緯があった。
 危機が去った今も九鬼がナンバー2の存在に甘んじているのは、ひとえにユリの人望と実力に敬意を払っているからであり、またこの弟のような青年を肉親同然に愛しているからだった。
 ほんの子供の頃からユリの密かな野望は、いつも自分を見下ろしている長身の九鬼の背丈を追い越すことだったが、まだわずかに足りない。張りのある体躯はしなやかで、ドスを持たせれば『正竜会』随一と噂される腕は、まったく衰えをみせなかった。
 本来は物静かな性質で、それが滲み出る怜悧な容姿は、昔から言い寄る女があとを断たなかったが、組の顧問弁護士の早乙女(さおとめ)涼二(りょうじ)と一緒に暮らし始めてからは、浮いた噂のひとつも聞かない。もっとも、浮気なんかしたら弁護士の早乙女にどんな慰謝料を請求されるかわかったものじゃないから、怖くてできないのが本音かもしれないと、ユリは意地悪く考えている。
 スーツはほとんど黒に近い深みのあるグレー。シャツは純白。ネクタイは紺色の細いストライプ柄をオーソドックスなプレーンノットに結んだ、どこまでも端整な男を、ユリはデスクからじろりと見上げた。
「そんなふうに見えるか?」
「溜息……さっきから三度目ですよ」
 なんでもないことのように指摘されて、おまえいつから見てやがったんだと、なおさら眦を険しくした。
「おまえな……俺の女房でもないんだから、そんな細かいところまでチェックするなよ」
 男にじっと見つめられるのは気味が悪いと、自分の性癖を棚に上げて機嫌を損ねるユリに、九鬼は口元で苦笑する。
「女房……は謹んで先生にお譲りしますが、一応、若頭ですからね。組長の様子を気遣うのは当然でしょう。しかし……ユリさんに限って、体調が悪いとも思えませんし」
「なんだ、その俺に限って、ってのは?」
 ユリが子供の頃から滅多に風邪もひかない健康優良児だったのは九鬼も承知の上だろうが、それにしても言い方が引っかかった。なんのことだと聞き咎めると、その唇に刻まれた渋い微笑が深くなる。
「先生ですよ。随分目を赤くされていて、あれじゃ寝不足だとひと目でわかります。それに……少し手加減してもらえませんかね。事務所の若い連中には目の毒ですよ」
「ゆうべは、久しぶりだったんだ。貴臣も欲しがったし……」
 貴臣がユリの情人だということは、事務所の人間ならみんな知っている。平気で人前でキスしたり、挑発的にあっちこっち撫でまわしたりする癖に、一時は貴臣の艶っぽい仕種ひとつに赤くなる連中を見ると、その度に目くじら立てていたユリは、最近になってようやく落ち着いてきた。それも、九鬼や内藤に頼まれて、「おまえしか目に入らない。おまえだけのものだから」としつこいほどユリに囁き続けてくれた貴臣の努力の結果だったが。
 しかしその反動のように、事務所の中に限らず、どこでも貴臣を抱き寄せてよけいにいちゃついてみせるようになったのは、貴臣に頼み込んだ九鬼の大きな誤算だった。もちろんユリは、そんなことはわかった上での確信犯だ。
 その傍迷惑なおふざけはともかく、今日の貴臣の尋常ではない色気にははらはらさせられると、九鬼は正直に眉を顰めた。そして、耳タコになった言いわけをしつつ、ふっと言葉を途切れさせるユリの様子に、らしくないなと瞳を眇める。
「何か?」
「寝不足以外に、貴臣におかしなところはなかったか?」
「いいえ。特には気づきませんでしたが……」
 急に真摯な目つきになって確かめたのは、九鬼がユリに限らず貴臣に関しても、普段から注意を払ってくれていることをよく知っているからだ。心配事を打ち明けるような口調には、九鬼もその表情を引き締め、少し考えてからあっさりと首を振った。
「そうか」
「先生が、どうかなさったんですか?」
「この頃な、よく眠れないらしい。……俺が原因じゃねーぞ」
 九鬼の否定を聞いても、ユリの顔色は冴えなかった。逆に九鬼のほうから幾分心配そうに問われて、ようやく溜息の理由を口にした。九鬼がどういうことだというように眉の端を跳ね上げるから、あえて自分のせいではないと念を押す。
「そんなことを疑っていませんよ」
「嘘つけ。……だが、冗談じゃなく、このところの貴臣の様子は変だ。よくぼんやりしてるし、なんか心ここにあらずって感じで」
「ユリさんと一緒にいて、ですか。それは、妙ですね」
 微笑んでみせる九鬼には冗談を返して、しかしすぐに真顔に戻る。ユリという年齢よりずっと大人びた恋人を得て、貴臣も心の重荷を預けることをいくらかは覚えたが、それでも何でも自分で抱え込んでしまおうとする性格が、すぐに矯正されるわけではないようだ。
 何を一人で悩んでいるのかと、九鬼いわく四度目の溜息をつけば、デスクの向こうの男も首を傾げながらうなずいてみせる。
 何しろ、ユリの傍らにいる時は、四六時中飽きもせずにその横顔を見つめてうっとりしている貴臣のことだ。ユリに見惚れていて、ほかの人間に呼ばれても気づかないことはあっても、ユリに対する反応だけは人一倍素早い。それが心ここにあらずというのは、確かにおかしかった。
「だろう? しかし、この頃は竜馬関係の『正竜会』とのいざこざもないし、貴臣の実家とも円満だ。あいつを悩ませるようなことなんて、思いつかねーんだが」
「ユリさんに心当たりがないんじゃ、俺たちはお手上げですよ。……お疲れなんじゃないんですか? 先週はずっと関西でしたし、今週も毎晩遅かったでしょう。先生も気を使われたと思いますが」
 九鬼にそういわれると、ほかに思いつくこともないだけに、ただ疲れているだけだろうかという気もしてくる。車や飛行機を使った長距離の移動や初めて会う客との接待が重なれば、ワイヤー並に神経の図太いユリはともかく、その身辺を護衛する立場の貴臣が気疲れするのも当たり前だった。
「なるほどな」
「今日辺り仕事も一段落しましたし、しばらく先生と一緒に休暇を取られてはいかがですか? ちょうど外出するにも気持ちがいいし、食べ物も美味い時期ですよ」
「休暇、か……」
 いつもは仕事をしろとうるさい九鬼も、こと貴臣が関わるととたんに甘くなる。だが、この際便乗させてもらうのも悪くはないかと、ユリはデスクの上で腕組みした。仕事以外で貴臣と二人っきりで旅行することなんて近頃なかったから、考えただけでわくわくする。
「どっかの鄙びた温泉宿でしっぽりってのも、悪くねーな」
「先生の休暇ですよ。よけい疲れさせないでください」
 なんだかろくでもない考えでニヤつくユリは、とても二十四歳の爽やかな青年には見えなくて、ヤクザな稼業が板につきすぎたかと、その強面に似合わないロマンティストで生真面目な若頭は、ひっそりと大きな肩を竦めた。
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