スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 3 →3、4章、追加しました
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png 近況
もくじ  3kaku_s_L.png WORK
もくじ  3kaku_s_L.png イベント
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ENDRESS TALE
もくじ  3kaku_s_L.png ●恋
もくじ  3kaku_s_L.png 花と牙
もくじ  3kaku_s_L.png 恋闇
もくじ  3kaku_s_L.png NOVEL
もくじ  3kaku_s_L.png アニパロ
【紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 3】へ  【3、4章、追加しました】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

ENDRESS TALE

紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 4

 ←紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 3 →3、4章、追加しました

           ☆

「え? 養子って、ユリさんを?」
 部屋の隅に切られた炉では、黒ずんだ鉄の釜からやわらかな湯気が立ち上っていた。茶筌を手にした美鈴夫人が、驚いた表情で貴臣を振り返る。
「あ……は、はい」
 相変わらずこの義母子のやり取りはぎこちないが、それでも互いに心が通じ合っている分、見ている者には微笑ましい。
 多分、年下の男の恋人と結婚もどきの養子縁組をしたいとは、義理の母親にも言い出しにくかったんだろう。茶釜に向かっている背中へと話しかけたものだから、逆に体ごと振り向かれて追及される破目になったのは、貴臣も計算違いだった様子で、真っ赤になった顔を恥ずかしそうに伏せる。
「よくわからないけど、そういう場合って、貴臣さんが正木のお家へ入るんじゃないの?」
 無邪気な夫人は女性週刊誌の愛読者で、なおかつその特集記事で度々名前の挙がる若き横浜の首領、正木由里フリークだった。ユリと貴臣の関係については、なまじな組員よりもよく知っていた。そして映画みたいなドラマティックな禁断の恋を、心から応援してくれている。
「それは、その、ユリが……」
「別に、どっちでもいいんです。ただ、俺は正木の家にとっても庶子なので、いろいろ面倒があって、それなら貴臣の籍に入ったほうがいいだろうと。もちろん、東堂の家からのお許しがいただければ、ですが」
「まあ、そうなの……」
 しどろもどろの貴臣に代わって、簡単な事情を説明したユリに、少女めいた仕種が首を傾げる。
 いくら若くして結婚したといっても、貴臣の母親と同じ年齢で五十歳近いはずだったが、皺ひとつないおもては三十代と言われても十分通用する。年相応に見えない貴臣と並んでも、姉と弟のようだった。
 長い黒髪を結い上げた根元に、紅い珊瑚の玉簪がシンプルでよけい若々しく、薄紅色に丸みのある菊を散らした付け下げがよく似合っている。その着物からこぼれる白い首も指もひどく華奢で、これで竹刀を握らせれば貴臣も油断できない技量の持ち主とはとても信じられなかった。
 くるっとした黒目の大きい瞳がユリを見つめ、はんなりと口元を綻ばせる。青磁の茶碗を「どうぞ」と差し出され、ユリは恭しく受けた。
 それだけで、どんな大物のヤクザや政治家にもふてぶてしいほど傲慢な態度の男が、この小柄な婦人をどれほど崇拝しているかがわかる。
「すると、ユリさんが貴臣さんの息子になるのね。じゃあ、わたしはユリさんのおばあちゃん?」
「すみません、こんな大きくて可愛げのない孫で……」
 慌てたように頭を下げて謝る貴臣に、美鈴は鈴を転がすように笑って、「いいえ」と左右に首を揺らした。
「うれしいわ。匡臣さんもなかなかお嫁さんをもらってくれないから、孫なんて当分無理かと思っていたのに、こんなにハンサムな孫ができたら、お友達にうんと自慢できるわ」
「でも……ユリは、ヤクザで」
 自慢にはならないと、さらに消え入りそうな声音になる貴臣へ、美鈴は「あら」と意外そうに目を瞠った。
「貴臣さんだって、今はヤクザなんでしょう? でも、貴臣さんが先生だろうとヤクザだろうと、わたしの自慢の息子であることには変わりないわ。ユリさんだって、それは同じ、ね」
 にっこりとそう言われれば、貴臣がこの母親に勝てるはずもない。返せる言葉もなく深々と頭を下げるその傍らで、ユリも神妙に恋人の所作にならう。
「もう、二人とも頭を上げてちょうだい。ねえ、お茶をもっといかが?」
「いただきます」
 クスクスと困ったように忍び笑う美鈴に、そつのないユリが答えると、たおやかな着物姿は再び茶釜に向かう。その背中へ、今度はユリが声をかけた。
「五代のご老人にもご挨拶をしたいのですが、近々こちらへいらっしゃる予定はありませんか?」
「父に? さあ、どうかしら、近頃は海釣りに凝っているとかで、滅多に屋敷にもいないと兄から聞いているけれど……でも釣りの帰りに、ふらっとここへ立ち寄ることも」
 向き直った美鈴が、ユリの膝元へ優美な挙措で茶碗を置く。それを両手で取り上げながら、ユリは相変わらず元気なじいさんだと口元を微かに緩めた。
 とたんに、表の玄関のほうからにぎやかな物音がする。奥まった茶室からは、会話までは聞き取れないが、誰か客でも来たらしい。広い家には使用人もいないから、応対に出ているのは貴臣の二歳年下の異母弟である匡臣だろう。
「あら、噂をすれば……きっと父よ」
 どうしてわかるのかユリには見当もつかなかったが、美鈴は客が五代正宗(まさむね)だと確信しているようだった。やがて待つほどもなく、廊下を複数の足音が近づいてくる。「ほら」と、子供みたいな笑顔がユリへ囁いた。
 美鈴の言ったとおり、中庭に向けて開け放している障子戸から真っ先に見えたのは、かくしゃくと歩いてくる五代老の布袋さまみたいに恰幅のいい姿だった。
「おお、貴臣、久しぶりだな」
「ご無沙汰しております、老師」
 廊下からひょいと茶室を覗き込む老人の顔は、その娘同様ほとんど皺が目立たない。若々しく見えるのは、東堂家も五代家もどちらも家系らしい。後ろに従っている匡臣も、三十歳になったはずだが、飄々とした容姿は下手をすれば大学生にも見えかねない。
 さらにもう一人、廊下の端に見たことのない男が立っていた。五代老も大柄だが、それよりさらに頭ひとつ分背が高い。肩幅も逞しく、墨染めの法衣(ほうえ)の上からでも隆々とした筋肉がわかりそうだ。髪は短く切り、剃髪(ていはつ)はしていないものの、僧侶らしいことはその服装と手にした巨大な錫(しゃく)杖(じょう)でわかる。
(三井(みつい)といい勝負か……)
 男の見事な体格を、ユリは『北辰会』きっての武闘派である三井一矢(かずや)と思わず比べていた。
 意志の強そうな太い眉の下の双眸が、僧侶というには恐ろしく鋭い。頬も顎も鼻梁も直線的で、感情は読みにくい。どちらかといえば、袈裟(けさ)よりも軍服か戦闘服のほうが似合いそうに見えた。
 畳の上へ両手をついて丁寧に挨拶する貴臣に、五代老はにこにことうなずいてみせる。日本でも指折りの武道家の宗主である老人が、実の孫の匡臣よりも『東條(とうじょう)陰流(かげりゅう)』という稀代の技の最後の正統な後継者である貴臣に目をかけていることは、その表情ひとつで明白だった。
 そして、廊下の奥に立っている巨漢の僧の目つきが、とたんに鋭利に貴臣に突き刺さる。当然、その不穏な気配に気づいているはずの貴臣は、しかしそ知らぬふりをした。
「まるでお父さまには、貴臣さんが今日いらっしゃるのがわかっていたみたいね」
「おお、偶然とはいえ好都合だった。おまえにも引き合わせたい客がおる。……元信(げんしん)殿」
 悪戯っぽく父を見つめる美鈴に、老人は上機嫌で相槌を打ち、背後の僧をそう呼んだ。客と言われたところをみると、五代流の門弟ではないらしい。だが、その体つきを見れば、何か武道を遣うことは間違いない。
「こっちは、そこにおる匡臣の腹違いの兄で貴臣という。ありあまる武道の才を持ちながら、『東條陰流』の当主を蹴りおってな。今はそこのヤクザ者の用心棒をしておる」
 随分失礼だが、あまりにも的確な老人の紹介に、貴臣は目を丸くし、ユリは小さく吹き出した。
「お父さまっ」
 失礼よと咎める美鈴も、その瞳は堪えきれずに笑っている。さっきは元信という僧侶の視線を無視した貴臣も、今度は軽く会釈した。元信のほうも、礼儀正しく頭を下げる。
「こちらは天在(てんざい)日輪(にちりん)宗、輪影(りんえい)寺の僧で元信殿。うちの道場へ道場破りに来られてな。高邑(たかむら)を負かして、見事に看板を取られてしもうた」
「高邑お兄さまを?」
 美鈴と貴臣が、同時に顔色を変えた。ユリは五代家の内情を知らないが、老人の息子らしい高邑という男は、血筋からいえば道場の後継者で、しかも五代流のかなりの遣い手なのだろう。
 道場破りに看板を奪われたとなれば、流派の面目にも関わることだろうが、面白そうに笑っている老人も相当なへそ曲がりだ。
「もっと強い相手はいないかと訊くから、ここへ連れてきた。匡臣、おまえ、この元信殿と立ち合ってみんか?」
「俺が……ですか? だって、高邑伯父さんが敵わなかった相手でしょう」
 さっきまで貴臣ばかり見ていた祖父が急に振り返って促すから、相手が違うのではないかと、匡臣はいかにも自信のなさそうなまなざしを異母兄のほうへと泳がせる。実力の有無はともかく、その様子を見れば、匡臣がとても落ち着き払った元信に勝てるとは思えなかった。案の定、五代老もそれを見て白い眉を顰めてみせる。
「『東條陰流』の師範は、おまえだろう。ほかのものに道場の看板を託すつもりか? 貴臣に鍛えてもろうた実力を試すチャンスだろう。元信殿は強いぞ」
 唆すように悪い眼光が、間近から匡臣を挑発した。そこまで言われれば、いくら温厚な匡臣だろうと引き下がるわけにはいかないだろう。
「わかりました」
 匡臣は、悪知恵の働く祖父に向かいきっぱりと言い放った。どうやらこれは、養子縁組の許可どころの話じゃなくなりそうだと、ユリは傍らの貴臣と顔を見合わせ、ひっそりと溜息をついた。
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 近況
もくじ  3kaku_s_L.png WORK
もくじ  3kaku_s_L.png イベント
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ENDRESS TALE
もくじ  3kaku_s_L.png ●恋
もくじ  3kaku_s_L.png 花と牙
もくじ  3kaku_s_L.png 恋闇
もくじ  3kaku_s_L.png NOVEL
もくじ  3kaku_s_L.png アニパロ
【紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 3】へ  【3、4章、追加しました】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 3】へ
  • 【3、4章、追加しました】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。