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ENDRESS TALE

紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 5

 ←3、4章、追加しました →紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 6
           ☆

「どう思う?」
 道場の入り口近くで立ち止まり、ユリは肩を並べた貴臣に声を落として問いかけた。元信という僧侶の目的が、匡臣だとは思わない。案外、五代の道場を先に訪ねたことだって、貴臣を引っ張り出すための罠のように思えてくるのは、考えすぎだろうか。
「さあ、まだわからないな。あの男の太刀筋を見てみないことには」
 貴臣の返事は慎重だったが、ユリの不安を否定するわけでもなさそうだった。その双眸が息を呑むほどあでやかな光輝を孕んでいて、まったく強そうな男を見るとと、いささか嫉妬めいた感情まで掻き立てられる。
「あの坊主の立ち合いを見りゃ、何かわかるのか?」
「ある程度のことなら、な」
 道場の中では、胴着に着替えた匡臣が防具をつけ、試合のための身支度をしている。一方の元信は、身軽そうな墨染めの法衣のまま、床に座りじっと腕組みをして目を閉じ、一見穏やかそうに見えるがまわりの空気がびりびり張りつめているのを、離れていてもはっきりと感じる。
「ある程度って?」
 当然、貴臣にだってその異様な気配は伝わっているんだろう。かえって匡臣のことや元信の正体に不安の欠片も覗かせない今の貴臣のほうが、ユリにとっては心配だった。
(マジになってやがる)
 ヤクザ相手にユリのボディガードをしている時も、貴臣が神経を尖らせているのは確かだけれど、ここまで意識を集中させることは滅多にない。かつて貴臣からその全力を引き出させたのは、同じ母親を持つ異父兄の芙緋人(ふひと)だけだった。
 その芙緋人に匹敵するほどの力が、元信にあるのかと思えば、まだ目的がわからないだけに、ここで貴臣を関わらせることさえ、できることなら避けたかった。だが、元信のほうもすでに、匡臣より貴臣の実力のほうが上なのはわかっているだろう。だからこそ、死力を尽くして匡臣を叩き潰しにくるはずだった。
「そうだな……。人か魔か。敵か味方か」
「怖いことを言うなよ」
 敵味方はともかく、魔というのはなんのことだと、ユリはさっきから元信をとらえて離さない闇色の虹彩を覗き込んだ。ようやく目線を恋人へと戻した貴臣が、はんなりと妖しく紅い唇を綻ばせる。
「僧侶だというせいかな。あの男、奇妙な気配を身につけている」
「そうなのか? まあ、おっかねー坊主だとは思うが」
「何かを怖いと思うのは、もう魔の領域に入りかけている証拠だ」
 ふーんと、わかるようなわからないような言葉にうなずいてから、ふいにまじまじと秀麗なおもてを見下ろした。
「じゃあ、おまえも魔物かな」
「なんで?」
 貴臣がどういう意味かと困惑したように見つめ返すから、つい淫猥にニヤついてしまう。
「いつだって、怖くて堪らねーぞ。特に、ベッドの中……」
「バカっ!」
 ベッドだろうとどこだろうと、いつも思いどおりに弄んでいるくせに、怖いはずがない。むしろ貴臣のほうが、際限のない快楽の深みへ引きずり込むユリを怖がっているのだと睨むから、お互いをとらえて離さないのは恋という魔物だろうかと、珍しくロマンティックなことを考え、ひそやかに笑った。
「貴臣」
 防具をつけた匡臣の傍らにセコンドよろしく立っている五代老が、老齢とは思えないよく通る声で貴臣を呼んだ。
「おまえが審判を務めてくれ」
「はい」
 すぐに返事をして、貴臣は道場の中央へと走っていく。五代の爺さんめ企んだなと、ユリはこっそりほくそ笑んだ。おそらく元信の太刀筋を、貴臣に一番近くで見極めさせようという魂胆だろう。
 貴臣から丁寧な指導を受けてきた匡臣だって、相当に腕を上げているはずだ。もし勝てるなら、それに越したことはない。だが、元信はそれほど生やさしい相手ではないはずだった。
(一体何者だ、あの坊主)
 ちょっとした好奇心に駆られて、ユリは元信の顔が見えやすい位置まで移動して、ポケットのカメラつき携帯を取り出した。不用意に近づくのは危険だが、ちょっとした望遠機能までついているから、顔かたちの判別ぐらいはつくはずだった。ひたすら瞑目して精神統一を図っている男の隙を見澄まし、さりげなくシャッターを押す。
 その瞬間、まるで気配に気づいたように、元信がカッと目を見開いた。どきりとして、慌ててカメラをスーツのポケットに落とし込む。何も知らず緊張した面持ちの匡臣の隣から、やったなというように五代老が微笑んだ。もちろん、元信と匡臣の中間位置にいる貴臣も、ユリの行為の一部始終を見ていて、呆れたような表情を浮かべてみせた。
 当の元信は、再び瞼を落とし座禅でもしているみたいに不動の姿勢を保つ。しかし隠し撮りされたことは、もうわかっているはずだった。
(食えねー坊主だ……)
 とても読経三昧の生活を送っているようには見えないし、よしんば今は僧侶だとしても、過去はもっと凄惨なものを感じさせる。ご同業だとは思えないが、刃の上で命のやり取りをするユリたちとどこか似たような匂いも感じた。貴臣が言っていた奇妙な気配というのも、なんとなくわかる気がする。
(さて、どんな技を使ってくるのか)
 竹刀を握った匡臣と、錫杖を手にした元信が立ち上がり、道場の真ん中で対峙する。緊迫が、周囲の空気を震わせた。
(凄いな)
 ぞくりと皮膚が粟立ったのは、何も元信のせいばかりではない。双方からぶつかり合う闘気が渦を巻いている。予想どおり匡臣も格段に腕を上げている。いや、ユリが考えていた以上だろう。わざわざ五代老が元信をここへ連れてきたわけがわかった。
 匡臣のことを、そのいかにも育ちのよさそうな温厚な外見で見くびっていたかもしれない。少なくとも半分は貴臣と同じ東堂の血を引いていて、あとの半分も五代のものだ。武道家としてはサラブレッドだろう。もちろん、眠っていた才能をこの短期間で引き出した、貴臣の指導力も褒めるべきだろうが。
 これは大した見ものになりそうだと身を乗り出して、審判の旗を持った貴臣の顔色が冴えないことに、遅ればせながら気づいた。
「老師……」
 恐ろしいほどの気を発しながら、一見静かに佇む二人を待たせておいて、貴臣が五代老を呼ぶ。その視線が自分の傍らに向いていることに驚いたユリが振り返った先に、いつの間にかすぐ隣に老人が立っていた。
 まったく気配もとらえられなかったことに顔つきを渋くして、ニヤつく老人を睨んでやる。それを歯牙にもかけず、食えない老人は「なんだ?」と歩み寄ってくる貴臣に答えた。
「この勝負、俺が匡臣の代理をするわけにいきませんか?」
「ほう?」
 老人も意外そうな呟きを洩らしたが、ユリはもっと動揺した。東堂の家の相続権をはっきりと放棄して以来、親しく出入りはしていても貴臣が実家の問題に口を挟んだことはない。この場を道場の主である匡臣に任せた五代老の判断は当然だろうし、それにあえて貴臣が差し出た真似をする理由がわからない。
「匡臣では敵わんと思うか?」
「それは……」
 老人の口からあからさまに質(ただ)されると、匡臣の手前、貴臣もためらったが、何を心配しているかは言うまでもない。
「危険、かもしれません」
「ふむ」
 わざと言い方を変えた貴臣が、勝敗の行方より異母弟の身を案じているのだとわかると、老人も少し考え込む様子をみせた。
「あの錫杖は曲者か。高邑も竹刀ごと持っていかれおった。……おまえなら、得物は何を使う?」
「素手で」
 淡々とした貴臣の返答を聞いて、老人は呵呵と大笑した。だが、その両眼は強烈な炯りを湛えている。ユリもまた、全身に鳥肌が立っていた。
「なるほど。それはさぞや見物だろうが……。とりあえず、ここは匡臣に任せてみよ。あれにも経験は必要だ」
「はい」
 老人にそう言われれば、貴臣も大人しく引き下がり、また道場の中央へ戻っていく。それをじっと見守っていた元信にも匡臣にも、五代老との会話の内容は聞こえていたはずだった。匡臣のおもては緊張に青白く見える。
「俺の錫杖を素手で受け止めたのは、我が主ただお一人だ。おまえにそれができるのか?」
 無口な元信が、ここへ来て初めて口を開いた。低い声は、しかし思いがけずよく通る。確かに経文を読ませるには似合いそうだと、ユリは耳をそばだてた。
「やってみなければわからない」
 巨漢を見上げる貴臣は、あくまでも冷静だった。とはいえ、貴臣が素手で闘うと言った時にもぞくぞくしたが、元信の話ではもう一人化け物がいるらしい。ようやく芙緋人が消えてくれてホッとしているのに、世の中にはそんな連中がごろごろいるのかと思ったら、ヤクザなんかやっているのも嫌になる。
「爺さん」
「なんだ?」
 横浜の首領といわれるユリもヤクザの小倅ぐらいにしか思っていない老人は、なんと呼ばれようと好々爺然とした笑顔を返してくる。
「あんた、あの坊主の主って知ってるのか?」
「天在日輪宗の座主(ざす)さまか……。滅多に下界へは降りて来ないお方らしくて、面識はないが。そうさな、年はおまえさんよりまだ三つばかり下かな。それに、菩薩か天女と見紛うほどの美形だそうだ」
 年下だと言われただけでもぎょっとするのに、さらにその噂の半分でも美人なら、間違いなく化け物だろう。
「美人は怖いな」
 ざわざわと悪寒の走る背中を小さく竦めたユリのまなざしの向こうで、とびきり美人の恋人が試合開始の旗を振った。
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