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紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 6

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           ☆

 動かない。しかし、それが息もつかせないほどの危ういバランスの緊張で保たれていることは、武道は素人のユリにでもわかる。ユリ自身も、実家の跡目問題や貴臣の素性に絡んで、何度も殺し合いの修羅場を潜り抜けてきたから、殺気というのがどういうものかは嫌というほど知り尽くしていた。
 けれど、この緊迫はそんなものとも違う。常人の域を超えた達人同士の立ち合いは、すでに生死の領域すら超えた高みにあるのかと思うほど、ひどく静かで冷たく、その癖身を切りつけるように厳しい空気で周囲を満たす。繊細な人間なら、この場に居合わせるだけで、押し寄せる鬼気に気を失いかねないだろう。
 防具を隔てた匡臣の表情は、ユリからは見えなかったが、時々その肩がほんのわずかに揺らいだ。ただ竹刀を構えているだけでも、元信の呼吸を計ることに相当の消耗を強いられているようだとわかる。
「一瞬、だな」
「うむ」
 おそらく勝負は、二人が動いた一瞬で決まる。そう思った言葉がつい声に出てしまい、隣の老人が同意するように相槌を打った。
 じりじりと苛つくほど歩みののろい時間だけが、こめかみをひりつかせる。まるで世界が死に絶えたみたいに、物音ひとつ聞こえない。
 貴臣は何を考えているんだろうと視線を動かした先に、鮮やかな火焔の色を映した瞳が、じっと元信だけを追っていて、その瞬間、カッとはらわたが灼けついた。
(あんな目を、ほかの男に向けるのか)
 許せなかった。今すぐ近づいていって、この場に引きずり倒し、二度とそんな真似ができないように犯し抜いてやりたかったが、拳に爪が突き刺さるほど強く握りしめて衝動を堪えた。
 まだ、元信の正体も目的もわからない。五代老の話では、僧侶なのは確からしいが、錫杖を武器にして闘う僧なんて聞いたこともない。昔は、大きな寺院にはその寺や財産を護る僧兵と呼ばれる武装集団がいたが、むしろ元信にはそういうイメージが重なる。衆生に得を施すより、闘うために生まれてきたような男だ。
 だからこそ貴臣が、あんな熱い目をするんだろうと思えば、よけいに業腹だった。貴臣もまた、闘いに取り憑かれた夜叉の宿命を持って生まれた。どれだけユリの腕の中で愛される歓喜に身を焦がそうと、その本質が変わることはない。
(……ったく)
 悩みの尽きない恋人への、内心の苦々しい舌打ちが、どうして聞こえてしまったのだろう。
「気が揉めるの」
 ひっそりと独り言みたいに呟いた五代老が、ほっほっほといやらしく含み笑う。この爺(じじい)とは思ったが、どうせならこのどさくさに美鈴夫人に相談していたことを頼んでしまおうかと、ユリは笑っているようでまったく隙のない眼窩を窺った。
「なあ、じいさん。あんたに頼みがあるんだが」
「貴臣の養子の件か?」
 あっさりと図星を指されて、なんでもう知っているんだと油断のならない横顔を睨む。
「さっき、美鈴からちらっと聞いた。あれは喜んでいたな」
「じゃあ……」
「しかし、それはちと難しい問題だな」
 認めてくれるのかと勢い込んで訊こうとすれば、はぐらかすみたいな返事をされて、それが当然だろうとはわかっているだけに、かえって目つきを尖らせた。その長身をちらっと横目に見上げた老人は、また食えない微笑を浮かべる。
「まあ、そう怖い顔をするな。男前が台無しだ。……反対すると言っておるわけではない」
「どういう意味だ?」
 ヤクザを東堂の家に入れられるものかと、てっきり反対されるのかと思っていたら、どうも言うことがはっきりしない。
「いくつか条件がある。ひとつは、この家と美鈴たちに迷惑をかけんこと。もうひとつは、一生《親孝行》すること。最後のひとつ、おまえ、実家とは縁を切れ。ヤクザをやめろとは言わん。だがどうも、おまえの実家はきな臭い」
「俺だって、喜んでそうしたいところだが、一方的に縁を切ったところで、向こうはそれで納得するわけじゃねー」
 日本全国に五代流の支部を持つこの老人は、意外なところで顔が広い。実は、ユリの父親の竜造とも昵懇の仲だと知ったのは、つい最近のことだ。政治家や企業ともあちこちで繋がっているし、今のところお互いにいろいろ融通しあうような関係らしい。それに、あの尊大な男が、珍しく老人には敬意を払っているようだった。
「それはわかるが、とりあえずは、おまえのほうから近づかんだけでもいい。間違っても、異母兄と争うようなことはしてくれるな」
 貴臣や東堂の家をヤクザ同士の争いに巻き込むなと言いたいことはわかるが、この老人だってそのヤクザを都合よく利用している口だ。特に、『正竜会』とも関わりがある以上、清廉潔白な武道家とはユリも思っていない。企業だろうと道場だろうと、それなりに繁盛させようと思えば、きれいごとだけではやっていけない。
「じいさん、それ、うちの誰かに頼まれたわけじゃねーだろうな」
「馬鹿言うな。それとも、おまえ、お山の大将にでもなりたいか?」
 念のために、竜馬を跡目に据えたい連中の指図ではないのかと確認すれば、老人はたやすくそれを否定して、あまつさえ挑発的にユリを見た。それには、うれしくもないなと眉を顰めてみせる。
「俺の趣味じゃねーな」
「よくわからん奴だな。おまえ、どうしてヤクザになった?」
「惚れた相手を守るためだ」
「ほう……」
 そう言われれば、かつて東堂家を狙って十四歳の貴臣を拉致した地元のヤクザ、『阿部(あべ)・極蓮会(ごくれんかい)』との確執まで知っている五代老は、薄々事情を察したようだった。
「惚れた相手のためか。父子揃ってロマンティストだな」
 目元に笑い皺を寄せる老人に、ユリはふんと面白くもなさそうに鼻を鳴らした。情の強(こわ)さはその父親譲りで、それゆえに貴臣を後戻りのできない地獄へと引き込んでしまった自覚は十分あった。だからこそ、誰よりも貴臣を幸せにしたい。夜毎に不安に泣かせたりはしたくなかった。
「お、いかんっ!」
 ふいに聞こえた老人の鋭く息を呑む音に、慌てて試合に視線を戻す。元信が振り上げた錫杖の先で、輪形と遊環が触れ合いじゃらんと重厚な音色を奏でる。その先端が、一瞬視界から消えた。
(速いっ!)
 だが一方の匡臣も、錫杖を軽々と振りまわす元信の懐へと、逆に低い位置から飛び込んでいく。完全に相手の動きが見えている。匡臣のスピードも、驚異的だった。
 ガンッ――!
 激しい衝撃とともにぶつかり合った竹刀と錫杖がユリの視界に映り、すぐに離れる。潜り込んでいる匡臣を、さらに下から突き上げる動きに、かわした竹刀が大きく撓んだ。
「なるほど、貴臣が素手で闘うと言ったはずだな。竹刀に頼っていては、あの錫杖は抑えきれん」
 納得したようにうなずく老人の言うことはわかるが、なおさら素手であの圧倒的なパワーを止められるとも思えない。
「来るぞっ! 高邑を倒した突きだ」
 じゃらんとまた重い響きが聞こえ、それをぶーんという空気の唸りが圧した。直線で伸びてくるそれが、匡臣の目には恐ろしく巨大に見えたかもしれない。
 弾き飛ばされると思ったその寸前、パンと何かを叩きつけたような音がして、長い錫杖が道場の床へ転がった。
「それまでっ!」
 道場の隅々まで響き渡る声で叫んだ貴臣の手にした審判旗は、無理にかかった力のせいで折れ曲がっている。錫杖が匡臣の胸を突く直前、叩き落したのは貴臣だった。
「なぜ、邪魔をした?」
「勝負は決まっていた。無駄に怪我人を増やすことはない」
 間近から抗議する元信へと、貴臣は淡々と応じた。だがその双眸は、暗い炎の色をおびて険しい。あまりおもてへ感情を出すことの苦手な貴臣の、それほど怒った顔を見たのは、ユリも初めてだったかもしれない。
「素手で、俺の錫杖を受け止めると言ったな」
「得体の知れない相手の挑発には乗らない」
 低く言い放った貴臣は、元信に背中を向け、力尽きたように床に腰を落としている匡臣へと歩み寄り、防具をはずすのを手伝ってやる。そのほっそりとした後姿を、元信は瞬きもせずに見つめ続けた。
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