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ENDRESS TALE

紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 8

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           ☆

「貴臣……?」
 深夜、ふわりと肩口を掠める空気の冷たさと、恋人の甘い匂いのたゆたう気配に目を覚ます。最近の貴臣は、不眠症というよりもどこか夢遊病じみていると、ユリは密かな溜息を呑み込んだ。
「どうした? 眠れないのか……」
「しっ!」
 また夢見心地なのかと思えば、正気どころか緊迫した口調が返ってきて、逆に驚かされる。
「庭に、何人か入り込んでいる」
 その短い言葉だけで、貴臣の張りつめている原因は読み取れた。今、この家には美鈴と匡臣母子のほかに、ユリと貴臣、それに五代老と僧侶の元信が宿泊している。ひっそりと暮らしている美鈴たちが、夜中にこっそり忍び込んでくるような連中に狙われるとは思えない。だが、あとの四人なら誰が目当てでも不思議はなかった。特に元信は彼自身の目的もまだわかっていない。
「ユリ、俺は庭にまわるから、おまえは母屋に行ってくれ」
「一人で大丈夫か?」
 母屋には五代老もいる。それに匡臣だってけっこう役に立つことはわかったから、美鈴夫人を慌てて心配することはないだろう。そう思って問えば、貴臣がどこか困ったように首を振った。
「おまえもそのほうが安全だ」
「おい、俺におまえを危険に晒しておいて逃げろってのか?」
「ユリ。俺は、おまえのなんだ?」
 納得できずに声を荒げれば、薄闇の中で顔を覗かれ呆れたように訊いてくるから、わかっていると眉根を寄せた。
「おまえは俺のボディガードだが、今は、休暇中だろ」
 不満をあらわにしたまま屁理屈をこねると、闇に浮かぶあでやかな白面が、仕方ないなと淡く口元を綻ばせる。
「相手の予測もまったくつかない。絶対に無茶はしないでくれ」
「その科白、おまえに言われたくはないけどな。わかったよ、貴臣の影からこっそり覗くだけにしとく」
「そうしてくれ」
 いつも無茶ばかりするやつに言われたくないと嘯けば、仕事の邪魔をするなと本気で怒った剣呑な目つきを向けるから、やっぱり美人は怖いと大人しく譲歩した。
 そっと布団を抜け出し、障子戸の両側に立って目配せし合う。貴臣がスーッと音もなく障子を開く。金色の月明かりが畳みの上に射し込んだ。さわさわと庭木の小梢を風が揺らしている。月が明るいせいで、木々の影が濃い。広い庭は、深い闇に包まれていた。
 ふと風呂で汗を流し一緒に眠りに落ちるまで、散々乱れた時間をすごした恋人の体が心配になったが、こういう時絶対に弱みを見せない意地っ張りにわざわざそれを確かめるのはやめた。
 得体の知れない不安に駆り立てられるみたいに、ユリを欲しがるこの頃の貴臣も心配だったが、今夜のは明らかに元信のせいだった。何に苛つくのか、貴臣自身にも多分よくわかっていないんだろう。
 そしてこの真夜中の招かれざる客。因果関係があるとはとても思えないのに、すべてがひとつの方向へ向かっているような気がしてならない。その鍵を握っているのは、間違いなく貴臣だ。
 濡れ縁から素足のまま庭へ下り、低木の陰に潜むように身を低くしてかなりのスピードで走る貴臣に倣って、そのあとを追った。雲があるのか、時々それが風に運ばれ月の光を遮った。木立の下は暗いから、つい下ばかり見ていて、うっかり貴臣の背中とぶつかりそうになる。
 ざわっと目の前のこんもりとした皐月の枝が揺れ、長身の後姿が思いがけない間近に立っていた。それが誰かは、おもてを確かめるまでもない。
(元信……。あの坊主、こんなところで何してやがる)
 この離れを使っているのは、ユリと貴臣だけだ。元信は匡臣に母屋の客間へ案内されているのを見た。客間からこの庭は、いくら広い屋敷とはいえ迷い込むには離れすぎている。貴臣が感じた気配は、元信のものだったのだろうかと考えていると、暗がりに佇む影を見つめているユリの腕を、声もなく貴臣が引いた。それでようやく元信が太い楠の向こうに対峙している相手まで、目に入った。
(なんだ、ありゃ……?)
 緊迫した状況なのはひと目でわかるのに、思わず呆れて見入ってしまったのは、そのどう見ても時代錯誤な光景のせいだった。
 楠の大木に月光から閉ざされた闇に潜んでいるのは、三人の黒装束の男だった。いや、正確には真っ黒ではなく、もっと闇に紛れやすいくすんだ茶色っぽい。だが、その格好はテレビの時代劇でよく見る忍者そのもので、頭はターバンみたいな同色の頭巾で覆われて、わずかに見える目だけがぎらついていた。
 それと向かい合っているのが墨色の法衣姿の元信だから、まるで江戸時代にでもタイムスリップしたのかと錯覚しそうになる。しかも彼らが睨み合っているのは、いかにもお誂え向きの日本庭園だったからなおさらだ。
 よく考えてみれば、傍らにいる『東條陰流』の後継者である貴臣もまた甲賀忍者の末裔だったと思い出し、その月明かりを透かした怜悧な横顔を見つめた。
「あいつら、親戚か何かか?」
 半分本気で訊ねたユリに、貴臣も真面目に首を横に振った。しかし、その表情も戸惑っているように見える。
「知り合いじゃないが……」
 そう答えつつじっと彼らを見つめる貴臣の様子は、なんだか心当たりでもありそうだ。
 じゃらんと微かに元信の錫杖の遊環の音がして、はっと視線を戻した時には、もう木立の闇に三人の忍者の姿はなかった。
「不味いな」
 どっちが敵なのか、それとも両方とも敵なのかもわからなくて、しかしあんまりうれしくない状況なのだけは確かだ。ここで得体の知れない連中同士、潰し合ってくれれば御の字だと思ったが、鬼気を孕んだ貴臣が全身を張りつめる。
「ユリ、ここを動くなよ」
「おい、どこへ……?」
 見た目は時代劇のロケみたいだが、危険極まりない暗闘の中へ飛び込んでいこうとするほっそりとした肩を、慌ててつかんだ。
「加勢してくる。三人相手は荷が重い」
「……って、あの坊主にか?」
 昼間、匡臣を串刺しにしようとした相手だぞ咎めると、貴臣は口元だけで陰険に笑った。
「不本意だけどな。仕方ない。あの男からは、昼間も今もまったく殺気を感じないが、相手の連中は多分、俺たちもこの屋敷にいる全員殺すつもりだ」
 ガンと重い金属音が響き、慌てて目を向けた先で、蒼い火花が散った。頭上から襲いかかった忍者の刃を、元信の錫杖が受け止めた音だ。暗がりというばかりでなく、忍者の姿はほとんど目にも留まらない。恐ろしいスピードだ。昼の試合の匡臣も早いと思っていたが、まるっきり桁違いだ。貴臣が不味いと言ったわけも納得できた。元信も強いが、闘い方が全然違う。これじゃ、重戦車で機関銃と闘っているみたいなもので、パワーは有り余るほどだが、機動性が足りない。
 ふいに木立の上で別の赤い火花が煌く。どうやら忍者たちは、樹上から地上を狙っているらしい。低木の根元に隠れていろと貴臣が言ったのは、上から狙われるのを防ぐためらしい。無茶はするなと言われたけれど、これじゃ並の人間には無理も無茶もできる状況じゃない。
(貴臣……)
 刀の打ち合う響きが聞こえるのは、かなり高い場所だ。しかし、ユリの側を離れていった時、貴臣はナイフ一本身に佩びてはいなかった。それは、直前まで抱き合っていたユリが一番よく知っている。相手から獲物を奪い取って闘っているんだろうが、いくら忍者同士だといっても、その技量は驚異的だろう。
(また、腕を上げたのか……)
 ユリのボディガードの仕事に就いてから、貴臣がしばしば実家に帰っていたのは、何も匡臣に奥義を教えるためばかりじゃなかった。貴臣は、ユリを護るために自分を一から鍛え直していた。芙緋人との闘いで見せたあの凄まじい技は、実は貴臣にとってはまだまだ不本意なものだったらしい。あれで百パーセントの実力が出せるようになったらどうなってしまうのか、空恐ろしい。
 仲間の危機を察しても、元信を狙う刃の切っ先は鈍らない。ただ淡々と己の任務を遂行しようとするところは、いかにも忍者らしかった。見ているほうには時代錯誤も甚だしいように思えるが、闘っている者にとってはこの上もない脅威だろう。
 だが、勝負が一瞬で決まらなければ、パワーに勝る元信が次第に相手を圧倒し始めていた。振り下ろされる忍び刀を、空気を引き裂いて唸る錫杖が弾き飛ばす。刀を握った腕どころかその上体ごと持っていかれて、敵が体制を崩した一瞬、電光石火で突き上げた錫杖の先端を食らって、黒装束は背後の巨木の幹へ叩きつけられていた。
(あいつ、力を出し惜しみしてやがったのか……)
 最後に突きを繰り出した元信の動きは、忍者にも勝っていた。幾分重たそうに見えたのは、どうやら相手を油断させ懐へ踏み込ませるためだったらしい。そういえば、昼間の匡臣も同じように懐へ入って、貴臣が止めなければ危うくあの突きを受けるところだった。
 ざざっとその頭上へと、闇色の大鳥が舞い降りてくる。再び風を孕んだ錫杖は、影に触れる寸前、ぴたりと止まった。
「勝負をつけなくてもいいのか?」
 暗闇の底から挑発的に響く魔性めいた囁きに、巨漢の僧は口元を淡く歪めた。
「無益な闘いは好まん」
 いかにも坊主らしいその返事には、クスクスとからかうような笑い声が聞こえた。
「それならなぜ、道場破りなんかするんだ?」
「人を捜している」
 答えた巨漢が、急に半ば闇に沈んだ姿へと動いた。素早く腕を取りぐいと引き寄せると、雲間から現れた月にやわらかに白いおもてが滲んだ。
「おまえは、《門(gate)》か?」
「なん、のことだ?」
 不審そうに見上げる貴臣を息も触れるほど間近から覗き込む元信に、ユリはもう我慢できずに飛び出していた。
「人のもんに気安く触るんじゃねー」
 貴臣の手首をとらえている僧侶の腕をつかんだへし折りそうな握力に、元信はあっさりと手を離し、ユリに解放された痺れたようなそれをそっと擦(さす)る。
「なるほどな。時はすでに至ったか」
「どういうことだ?」
「俺の捜し人は、どうやら見つかったようだ。自分の運命が知りたかったらニューヨークへ来い。いずれ、好むと好まざるに関わらず、おまえは運命(さだめ)に巻き込まれていくことになる。その力で希望をつかみ取れ。それが、おまえ自身を救うことになる」
「おいっ!」
 困惑する貴臣を見つめ、勝手なことを喋った男は、もう用はないとでもいうようにその重さを感じさせずに巨体を翻した。
 話にもならないとチッと舌打ちして振り返ると、貴臣はまたひどく虚ろな目をして、元信の去った深い闇を見つめていた。ユリは堪らずに、その細い肩を引き寄せた。
「ユリ……」
「ん?」
「俺を、離さないでくれ。ずっと、抱いていて」
「離しゃしねーよ。永遠に、おまえは誰にも渡さない」
 夜ごとの悪夢のあとと同じ言葉で求める貴臣の冷えた背中を、ユリはぬくもりを与えるように抱きしめ続けた。
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