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ENDRESS TALE

紅蓮の爪痕 漆黒の愛撫 10

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           ☆

 中庭に向かって開いたままの朱塗りの扉からは、人工の滝が奏でる涼やかな水音が聞こえてくる。さらに遠くから響いてくるのは、どこか艶めいた胡弓の調べだった。赤いチャイナ服のウエイトレスが、食後酒の入った緋色の硝子の盃をテーブルへ運んでくる。ユリがチップを渡すと、「謝謝(シェシェ)」とにっこり微笑み、丁寧に頭を下げて開いている扉から回廊へ出て行った。
 入れ替わりのように、金と黒の長袍をまとった小柄な老人が入ってくる。この『紅楼(こうろう)飯店(はんてん)』の主人であり、日本のチャイニーズマフィアの総元締めでもある人物で、《王老》と呼ばれている。五代の老人とも似たところのある目の炯りの強い、油断のならない爺さんだ。
 かつて貴臣がその異父兄、芙緋人と自らの自由を賭けて闘った時、香港でさまざまな便宜を図ってもらったこともある。もっとも、裏切られたことだってあったが。
 扉の前に立った王老が、両手を袖に納めて頭を下げる中国風の礼をする。その変わりのない飄々としたおもてを、ユリはじろりと見た。
「お元気そうですね、お二人とも……」
「おまえも、変わりなさそうだな」
 ユリの口調が面倒そうなのは、貴臣の実家から横浜に戻ったとたん、この老人に呼び出されたからだ。おかげでその後の調べの進展を、九鬼から聞き出している暇もなかった。
 しかし、ふとニューヨークにだってチャイナタウンがあることを思い出した。米軍が、ニューヨークのチャイニーズマフィアたちに接触していることも知っている。王老から、仲間の状況ぐらいは聞けるかもしれない。
「ありがとうございます。白龍(パイロン)などには、老人らしく少しは弱ってみせろと憎まれ口を叩かれておりますが、まだなかなか若い連中も頼りになりませんで」
「そういや、香港からこっちに見習いに来てたあの楊(ヤン)っての、まだ日本にいるのか?」
「はい。そうですな、楊とは、ユリさんも先生も香港で面識がありましたか。こちらに呼びましょうか?」
「いいよ、別に用はない」
 香港でユリがわざと芙緋人の組織にとらわれていた間、貴臣と行動を共にしていたのが、王老の孫の白龍と、王の甥の腹心である楊の二人だった。当時、ユリに会えずに苛立っていた貴臣に散々苛められた白龍はともかく、楊のほうはわざわざ貴臣を追って日本に来るほど入れあげてしまっていて、ユリにとってはむしろ面白くない相手だ。とんでもないと首を横に振り、小さな盃の強い酒を一息に飲み干す。
「で、わざわざ俺と貴臣を呼び出すってのは、どういう相談だ?」
 チャイナタウンの権利や仕事の話なら、九鬼や内藤でも事足りるはずだ。それに、ユリのボディガードである貴臣を名指しで呼びつけるわけもわからないと問いかける。
 場合によっては王老の話を聞いてやって、その見返りにニューヨークの情報を引き出すつもりだった。
「はい……。それが」
 自分から人を呼びつけておいて、王は珍しく言いにくそうに口ごもり、皺深い眼窩の奥の瞳で、ちらちらと貴臣を窺った。その目つきには貴臣も何事かと、居心地悪そうな表情になる。
「なんだ、貴臣がどうかしたのか?」
「実は、先生にお願いがありまして」
 王が貴臣に用があるなんて、今までの経験だとろくなことはない。幾分警戒しながらユリが促すと案の定、どうやら厄介ごとらしい。
「どんなことでしょう?」
 まだ迷っているみたいな王に、今度は人のいい貴臣が細い首を傾げてみせた。さすがに覚悟を決めたみたいに、王は向かい合った椅子の上で姿勢を正した。
「先生にニューヨークのチャイナタウンへ行っていただきたいのです」
「なんだとっ?!」
 思わずユリが声を荒げたのも当然だろう。隣に座った貴臣も、闇色の双眸を瞠った。偶然の一致というには、もうあまりにできすぎている。
「おい、おまえまでまさか、貴臣が《gate》だとか、わけのわからねーことを言い出すんじゃないだろうな」
「は? 《gate》……?」
 訊き返す王の口ぶりで、それにはまったく心当たりはなさそうだと気づく。だとすれば、ほかにも貴臣をニューヨークへと繋ぐものがあるということだろう。
「いえ、今ニューヨークに芙緋人さまがいらっしゃるのですが……」
「芙緋人が?」
 それには、ユリが反応する前に貴臣が身を乗り出した。同じ母親の呪われた血を引く異父兄を、貴臣は憎悪しながら一方で誰より愛した。ユリに出会い、その闇から救われるまで、身も心もたった一人の兄にずっととらわれていた。だが今は、芙緋人の名前を呼ぶ貴臣の声に憎しみの影はない。むしろ肉親の慕わしさに満ちたそれは、ユリを複雑な気分にさせた。
「芙緋人さまを、ニューヨークから救い出してほしいのです」
 王のどこか悲痛な訴えで、なんとなく事情は理解できた。確かに、生物兵器に侵された人間を外に連れ出すのは至難の業だ。まして、まだウィルスの十分な分析も終わらず、当然治療方法も見つかってない。それどころか、どういう状況で死に至るのか、その情報すら米国内でも錯綜していた。
 マンハッタンは今や、死と暴力と闇の支配する地獄と化している。どんな命知らずだろうと、病人を連れ出せと言われれば尻込みするだろう。強い絆で結ばれた肉親でもない限り。
「生きてるのか?」
 貴臣の目の前だが、わざと残酷な訊き方をした。死体を連れて帰るわけにはいかない。生きていなければ意味はないのだ。その上、生物兵器に感染して生き延びられる確立もほとんどない。
「間違いなく生きています。アメリカ政府から提供されたデータをもとに、今、世界中の研究者がニューヨーク型ウィルスの治療法を探しています。あの死の島から救い出せさえすれば、助かる可能性はゼロではありません」
「畜生めっ!」
 罠だとしか思えない。これは、誰かが貴臣をニューヨークへ呼び寄せるために仕組んだ巧妙な企みだ。だが、ユリには貴臣を止められないこともわかっていた。自分の分身にも等しい異父兄を、ほんのわずかでも希望がある限り、貴臣が見捨てられるはずはない。
「お願いします、先生っ!」
「王……おまえ、なんでそう芙緋人を救いたがる? 香港のあいつの組織は壊滅したはずだ。チャイニーズマフィアのおまえが、ただの親切心であの男を助けたいわけじゃあるまい。芙緋人は、ニューヨークで何をしていたんだ?」
 貴臣に異父兄への情を乞う王を遮るように、おかしいじゃないかと問い詰めた。
 これが貴臣をおびき出すための罠ならば、芙緋人の影には、それを仕組んだ人間がいるはずだった。あるいは、芙緋人自身か。大体、芙緋人がウィルスに感染していると言っているのは王で、それを確かめるすべなどない。何が真実かは、ユリと貴臣が判断するしかないことだ。それも、芙緋人との長い闘いで学んだことだった。
 ユリに睨まれると、王はひっそりと痩せた肩を竦めた。その両眼に先程とは打って変わって冷ややかな光が映る。
「やはり、一筋縄ではいかない方ですな」
「因業爺に言われたかねーよ」
 薄々わかっていたことだが、王の態度の豹変ぶりには呆れた。異父兄が瀕死の床にあると脅された貴臣はなおのこと、困惑をおもてに滲ませる。
「芙緋人さまは、ニューヨークであるものを探していたのです。その手掛かりを見つけたと連絡のあった矢先のテロ事件で、我々は多くの仲間と重要な情報を紛失してしまった。残された芙緋人さまの情報だけが頼りなのです」
「芙緋人は、一体何を探していたんだ?」
 チャイニーズマフィアが、それほど必死で追い求めていたもの。あるいは、米軍が狙っているのも同じものかもしれない。そう考えれば、あのテロ事件そのものさえも、同じ目的で起こされたような気がしてくる。
(こいつは、とんでもねー裏があるのかもしれない)
 天在日輪宗、伊賀忍者、米軍特殊部隊、シシリーにチャイニーズマフィア、生物兵器を操るテロリスト――まだまだどんな連中が関わっているか知れたものではない。そして、その渦中に芙緋人と貴臣の兄弟がいる。
(アーサーの奴、俺が手を貸すなら、便宜は惜しまねーと言ったな)
 死の都市と化したニューヨークに眠るお宝がなんだろうと、そんなことはユリには興味もない。ユリにとって、この世で唯一の宝は貴臣だ。ほかのものなど、犬にでもくれてやる。だが、それが何かわからないことには、貴臣を守ることも困難になるだろう。王の言うとおり情報は必要だった。
「わかりません」
 しかし、王の返事は意外なものだった。それほど躍起になって探しているものがなんだかわからないというのはどういうことだと、疑いのまなざしで見た。
「ただ、それを手にしたものは永遠の力を得ると」
「はあ?」
 元信が言った《gate》もまったくわからないが、「永遠の力」とはまた漠然としすぎている。大体、なんのための力だと、ユリは大真面目な王の顔を本気なのかと覗いた。
「おまえ、それを信じているのか?」
「もうすでに、その奇跡の力を手に入れたものたちがおります」
 王の言葉は、何かを確信していた。いくら耄碌しようと非現実的な夢を見るような王ではないことは、ユリが一番よく知っている。王が奇跡と呼ぶほどの力を持った者たちが、どこかにいるということだろう。そして、そんな化け物がいそうな場所なんて決まっている。
「ニューヨークにか?」
「はい」
 王は、はっきりとうなずいた。マンハッタンで、今何が起こっているのか、あるいは起きようとしているのか、ますます不可解になる。そこで貴臣を待つものなんて考えたくもなかった。
 だが、どうでもそれとまみえることになりそうだ。ユリの傍らの瞳には、とっくに翻すことのできない、強い意志が宿っていた。
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