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ENDRESS TALE

火炎の翼持つ者 黒き門より下る 1

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           ◆

「貴(たか)臣(おみ)、そろそろダラスだ。……気分はどうだ?」
 ファーストクラスのゆったりとしたシートで、毛布に包(くる)まれるようにして眠っている恋人へ、正木(まさき)由里(ゆり)はそっと声をかけた。
 搭乗機がちょうどアメリカ本土上空に差しかかったあたりから、体調の不調を訴え始めた東堂(とうどう)貴臣は、今もひどく顔色が悪い。元々透きとおるような白い肌は蒼白になり、時折瘧(おこり)のように震えた。艶やかに紅いはずの唇も、白っぽく変わって痛々しい。
 ユリの声に薄っすらと瞼を開くと、いっそう濡れたような漆黒の瞳にもいつもの澄んだ光はまったく感じられなかった。
「うん。……頭痛は少し治まったから……」
 熱に浮かされたような声音にも貴臣らしい張りがなくて、ユリは無理をしなくていいよとひっそりと溜息をこぼす。
「治まったって顔色じゃねーな。空港にはアーサーが迎えをよこしてくれてるはずだが、少し休んだほうがよけりゃ、ダラスの近くでホテルでも……」
「いいよ。本当に、大丈夫……」
 今年、二十四歳で、貴臣よりは八つも年下のくせに甘やかすのが上手な青年へ、予定通りに移動できるからと気丈な口調が遮った。そうして儚げな笑みまで見せられると、休ませても貴臣がかえてって気にすることがわかっているから強制もできず、「わかった」とユリのほうが折れるしかない。
 未確認のウィルスという生物兵器を用いた数度にわたるテロにより、ニューヨークは壊滅的なダメージを受け、その余波はアメリカ東海岸のほぼ全域に及んでいる。アメリカ政府は都市としての機能を果たせなくなった東海岸をいったん放棄して、西海岸へとその中枢を移していた。
 かつての首都であったワシントンDCには、今は危険極まりないニューヨークを監視するために、わずかな政府機関と非常事態に備える軍が駐留するのみだ。海外はおろか国内からすらも、マンハッタンへの直接の出入りは固く禁じられている。ニューヨークへ入るためには、まずワシントンでその許可を受ける必要があった。
 ワシントンに三つあった空港も、現在はダラス空港のみを残して閉鎖され、空港にも厳戒態勢が布(し)かれている。入国管理も特に厳しく、政府からの特別な紹介状でも持っていなければ、審査だけで二、三日空港内に足止めされることも珍しくはなかった。
 もちろん、『横浜(よこはま)・北辰会(ほくしんかい)』という広域暴力団の組長であるユリに、日本政府が紹介状を発行してくれるはずもない。しかし幸運なことにユリの母親の再婚相手は、彼女と同じアメリカ人でペンタゴンの大物軍人だった。ダラス空港をその統轄下に置いている軍に直接の権限を持つアーサー・キングの口添えがあれば、それに勝る保証はないだろう。
 具合の悪い貴臣をどこかで休ませることも、ユリには大した面倒でもなかったし、何より先日来おかしな夢に苦しめられている恋人の体が心配だった。体、というよりは、むしろ精神状態といったほうがいいかもしれないが。
 そもそもヤクザ稼業とはいえ、身辺にあったさまざまな問題もどうにか落ち着きを見せ、この数年は横浜で穏やかな生活を送っていたユリと貴臣が、わざわざ物騒なニューヨーク乗り込むきっかけになったのも、その夢だと言っても過言ではないだろう。
 夜ごとの夢に不安を感じ始めていた矢先、二人で訪れた貴臣の実家で出会った僧、元信(げんしん)に「ニューヨークへ来い」と唆された。当然、得体の知れない坊主の口車に乗って恋人を危険に晒すつもりなどユリにはさらさらなかったが、その直後、今度は横浜の中華街を仕切る王老から、「ニューヨークにいる芙(ふ)緋人(ひと))を助け出してほしい」と頼まれてしまった。
 貴臣にとって異父兄の芙緋人は、どれだけ憎み合い傷つけ合った過去があれ、自分の分身にも等しい存在だ。ウィルスに侵され苦しむ異父兄を、見殺しにできるはずなどなかった。だからこそ、芙緋人が持っているというニューヨークの秘密を欲しがる王老が、貴臣を焚きつけたのだとも言える。
 策略家の王の言いなりになるのは業腹だったが、ニューヨークに眠るお宝というのがなんであれ、王が手に入れた暁にはその半分は手間賃に要求してやるつもりだった。もっとも、《永遠の力》なんていうろくでもないものが、金になるとも思えなかったけれど。
 大体、その怪しげなお宝を巡って争っているらしい、天在日輪(てんざいにちりん)宗の僧侶や現代版伊賀忍者集団というのもまったく胡散臭い。その上に、王たちチャイニーズ・マフィアや芙緋人が絡み、ひょっとしたらアーサー・キングら米軍も狙っているのかもしれない。
 今、マンハッタンの死と暴力に閉ざされた暗闇で何が起こっているのかは、予断を許さなかった。しかしユリ自身はお宝なんかにはいっさい興味はなかったし、生きているにしろ死んでいるにしろ芙緋人を見つけ出し、貴臣の気が済めば、首に縄をつけてでも日本へ連れ戻す決心だった。
 何より、貴臣の様子が気にかかる。日本での悪夢といい、アメリカに入ってすぐのこの原因不明の頭痛といい、超常的な力など端から信じないユリだったけれども、王の言った《永遠の力》とやらとまるっきり無関係とは言いきれない。
 それに、東堂家の屋敷で対峙した元信は、貴臣のことを《gate(門)》だと言った。
 一体、何の門なのか。門というのは、つまり出入り口のことだ。貴臣を通して、何かが出現すると言われているように聞こえなくもない。
(現れるのは、お宝、かな……?)
 馬鹿な考えだと密かに笑って、ユリはまた浅い眠りに落ちたらしい恋人のどこか愁いに沈んだおもてをじっと見守った。
 真摯な横顔は、年齢よりもずっと大人びた青年をさらに不敵に見せる。もとより、日本にいれば『正竜会(しょうりゅうかい)』の幹部を始めとする大物ヤクザや政治家、名のある企業の経営者たちからも一目置かれる存在で、それは横浜きっての組織の組長であるからというよりも、この青年自身の大胆さや怜悧さによるところが大きかった。大学を卒業してからのわずか一年で、ユリはそれまで学生組長と侮っていた連中からも信頼を勝ち得、既に『正竜会』内部ばかりではなく、対外的な地位までも不動のものにしていた。
 しかも少しくせのある艶やかな黒髪に神秘的な海の色をした瞳と、俳優ばりの美貌はつとに名高く、背も高くスタイルもモデルというよりもスポーツ選手並に逞しく、相変わらず女性週刊誌やニュース番組でも度々話題にされている。事務所に勘違いしたファンレターが届いて、若頭の九鬼(くき)を困惑させることも少なくはなかった。
 けれども十六歳で貴臣という運命の相手を得てからは、この情熱的な男の目がほかへそらされたことなど一度もない。重い出生の秘密を背負い、自らは何も求めようとはしなかった貴臣が、初めて命を賭けた恋に溺れたのも、そういうユリだからだ。
 案じていたような大きなトラブルはなく、搭乗機は無事にダラス空港へと到着したとアナウンスが聞こえてくる。
「貴臣……」
 起こすのも可哀想なような気がしたが、ファーストクラスとはいえ窮屈さは否めない機内より、もっとゆっくりしたベッドで休ませてやりたい。名前を呼んで小さく肩を揺すると、やはり貴臣らしくもなくぼんやりと目を開けるから、悪いと思いながらついクスリと笑ってしまった。
「隙だらけだな」
「……ごめん」
 甲賀忍(しのび)の流れをくむ『東條陰流(とうじょうかげりゅう)』という、武道とは名ばかりの暗殺術を身につけた貴臣は、どれほど体調が悪かろうと外でこれほど無防備になることなど滅多にない。まして、教師を辞め『北辰会』組長であるユリの側近くでボディーガードを務めるようになってからは、本来の性質を取り戻し、いっそう感覚が研ぎ澄まされていくようだった。
 その貴臣がここまで気を許しているのもまた、傍らに最愛の男がいるからにほかならない。いつもは守られる立場ばかりのユリが、今は守ってほしいと恋人からその身を託されているみたいで、元々はひどく過保護な青年は頼られているのがうれしくて仕方ない。
「いいよ。具合が悪い時ぐらい俺に任せてろ。なんだったら、抱いていこうか?」
 そう言ってからかえば、実際にユリがそれぐらいやりかねないとわかっている貴臣は慌てて首を振って、シートから飛び起きた。
「おい。無茶するな」
 治まってきたといっても、急に動けばまだ痛むのだろう。繊細な眉を顰める華奢な肢体へと、反射的に手を差し伸べる。抱え起こして立たせてやって、その少し汗ばんだ額に「おはよう」とキスをした。
「ばか……」
 照れてほのかに笑う貴臣は、具合が悪いせいだけでなく妙に頼りなげで、それが隙ばかりでなく凄まじい色香まで生むことにも、本人はまったく気づいていないのだろう。これだから先が思いやられると、ユリは微かに嘆息して、貴臣にぴったりと寄り添い通路へと歩きだした。
 入国審査の窓口には、思ったより長い列ができている。今の時期にワシントン入りしようという物好きな外国人がこれほど多いとは思わなかった。体調の優れない貴臣をこの列に並ばせるのは気が進まないと躊躇する前に、向こうから足早に近づく軍服姿の長身の男が視界に飛び込んできた。
 何事かと列に並んだ人々が振り返る中を、男は一直線にユリたちへと歩み寄り、その前でぴたりと立ち止まる。いかにも軍人らしい挙措と、きれいに撫でつけたブロンドの髪、冴えたアイスブルーの双眸には見覚えがあった。
「ロイ・ハワード、少佐、だったっけ?」
「覚えていてくれたか。今は大佐だが」
 ユリの異父妹であるアリスが父親のアーサーの元から家出して、突然マンションを訪ねてきたのは七年前だった。その時、アリスを迎えに現れたのがこの男だ。
 上司であるアーサーに見込まれているらしいロイは、いずれアリスを妻に迎え、キング家に連なる軍閥に入るつもりなのかもしれない。今も、ユリの迎えにこの男がよこされたということは、よほどアーサーから信頼されているんだろう。
「そりゃ失礼。連れが具合を悪くしているんだが、すぐに出られるかな?」
 わざと軽薄に謝ってから、入国審査の長蛇の列へ視線を向けて訊ねた。ロイのほうは、ユリのからかうような態度に一瞬気配を尖らせかけたが、貴臣の青ざめた顔を覗き込んで急に様子を変えた。
「確かに、つらそうだな。休ませたほうがいいか?」
「いや、できればすぐにアーサーのところまで行きたい」
 気遣うように問われて、どうやら話の通じる相手らしいと判断すると、今度はユリも真剣に答えた。
「わかった。一番近いところに車をまわさせよう。ここは、俺が話を通してあるから、すぐに通れる」
「ありがたい。すまないな、手間をかけさせて」
 さすがに、アーサーに信用されているだけあって判断も素早いし行動もそつがない。さっきの非礼も含めて改めて謝罪すると、ロイは「いや」と意外そうなまなざしを返す。
「こっちだ」
 きびきびした動きで身を翻したものの、貴臣のペースに合わせ、ロイはゆっくりと先に立って歩いてくれた。その後ろに従って、混雑した旅行者用とは別の出口から空港の外へと向かう。
「こっちの様子はどうだ?」
 歩きながら、まだニューヨークが目的だとはアーサーにしか話していないから、当たり障りのなさそうな質問をした。
「ニューヨークが隔離されてからは、ある程度落ち着いたが。しかし、一触即発だな。ワシントンに残っているのは、軍人と中央からは弾かれた政府の官僚。あとはニューヨーク同様、ハイエナみたいなならず者ばかりだ」
 ロイの口調からも、どうしてこんなところへ来たのかという疑問を隠せない。その言葉を聞けば、観光気分で訪れるような街ではないことは確かで、ワシントンに限らずニューヨーク周辺はどこもそんな状態なのだろう。ふと、アーサーとともにいるはずの異父妹と母親のことが気になった。
「アリスたちは、元気か?」
 とたんにロイの表情が翳るから、何かあったらしいと察した。貴臣のことばかりが気になっていたから、そういえばこの男の顔色も冴えないなと今頃気づく。
「夫人はサンフランシスコにいる。アリスは……会って確かめてくれ」
 はっきりとものを言うロイらしくもない言い方が引っかかった。見栄っ張りな母が危険しかない東海岸を離れ、現在の政治経済の中枢となっている西海岸に移り住んでいるとしても不思議はなかったが、アリスの身に一体何が起こったというのか。見かけよりずっと強情で家族思いの少女が、アーサーを置いてワシントンを離れるとは思えない。そして今、我先に西海岸へと逃げ出した政治家たちに代わって、実質ワシントンを掌握しているのはそのアーサーとも言える。とはいえ、いかにアーサーでもニューヨークの闇にまでは目が届かない。
 元々アーサーは義理の息子であるユリを手元に引き取りたがっていたが、この非常時にユリが望むならニューヨーク入りの便宜まで図ろうというのは、やはり軍でも手に入れられない情報が欲しいからだろう。あるいは、アリスとも何か関わりがあるんだろうか。
 貴臣の異変ばかりでなく、さらに身内の問題まで増えそうで、窓から見えるどんよりと曇ったニューヨークへ続く空を、ユリはきつく睨み据えた。
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