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ENDRESS TALE

火炎の翼持つ者 黒き門より下る 2

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           ◆

 米国国防総省、通称ペンタゴンの置かれるアーリントンは、ポトマック川の西岸に位置し、正確にはワシントンDCではなく隣のバージニア州にある。ダラス空港からも比較的近距離だった。
 かつて赴任していた横須賀の米軍基地から帰国したアーサーは、このアーリントンに居を構えている。ほかにもカリフォルニアとフロリダに別荘を持っていたから、夫人が今いるのはその別荘だろう。
 身勝手で何もかも思い通りにしようとする母は、自分とどこか似たところもあり、細やかな親子の情愛とは無縁でもユリは決して嫌ってはいなかった。むしろ、彼女に惹かれた実父の竜造やアーサーの気持ちはわからないでもない。
 アーリントンはその面積のほとんどを独立戦争以来の戦没者たちが眠る国立墓地が占め、ワシントンDC同様に深い緑に包まれていた。
 ロイ・ハワードが自ら運転する車は、その緑の中に建つ広大な屋敷へと入っていく。家族三人が暮らすには十分すぎるほどの広さだったが、いかにもやり手のアーサーの家らしかった。
 屋敷の前に車を停めていると、玄関のドアが開いて大柄な男が出てくる。十数年ぶりに見るその姿がまったく変わっていないことにも、またアーサー本人の出迎えにも驚かされて、ユリは不調を押しての移動でぐったりしている貴臣を庇いつつ、急いで車を降りた。
「ユリ、久しぶりだな」
 ここへ来るまでに電話では何度か話していたものの、やはり実際に顔を合わせると感慨も深い。ユリとは血の繋がりこそないものの、アーサーには実の息子同然に可愛がってもらった記憶もあり、短い間ではあったけれど正木の父親や実母とよりもずっと親子らしい関係だった。
 アメリカへ一緒に来いと何度も誘われて、なぜあの時頑なに拒んだのか自分でもわからなかったが、今傍らにいる貴臣を見ればそれがなんのためだったか思い知らされる。この人と出会うために、孤独な少年時代を送ったのだと。
「アーサーも、ちっとも変わらねーな」
「おまえは、でかくなった」
 ニヤリと笑い返す男は、鮮やかなブロンドはロイよりも幾分暗く、ブルーの双眸の深みが強い。それは、血の繋がった母親よりもユリに似ていて、けれどもその色彩よりいっそう似ているのは瞳に映る狡猾さとふてぶてしさのほうだろう。だからこそ、アーサーは息子のようにユリを愛していた。
 同じ油断ならないものを秘めたまなざしを見交わして、親密な笑みが深くなる。そして、アーサーは目敏くユリの寄り添う相手へと視線を移した。
「君がタカオミか。アリスから噂は聞いている。……どうした? 顔色がよくないな」
「初めまして、ミスター・キング。あの……」
 流暢な日本語で話しかけられ、困ったように返事をためらう貴臣の肩を、ユリはそっといたわる仕種で引き寄せた。
「来る途中に具合を悪くしてな。着いた早々で申しわけないが、休ませてやってもらえないかな。ダラスからもまたすぐ移動で、結構無理させてしまったし」
「それは、大変だったな。すぐに部屋を用意させよう。俺のことなら、堅苦しい挨拶など無用だ。ユリの父親だと思って、ゆっくり寛いでくれ」
 先に立って屋敷の中へと案内してくれながら、「すみません」と遠慮がちに頭を下げる貴臣に、アーサーは珍しいほど屈託のない笑顔を向ける。それを見れば、アリスの噂がよほど好意的なものだったらしいとわかって、ユリはいくらかホッとした。
 けれども、真っ先に飛び出してきそうなアリスの姿が見えないことはやっぱりおかしい。ユリたちが今日到着することは当然わかっているはずだから、出かけてしまったとも考えられない。気がかりではあったのもの、無理をしている様子が明らかな貴臣をまず落ち着かせてやりたくて、大人しくアーサーに従った。
「ダニエル、客室の用意はできているか?」
 階上まで吹き抜けになった広々とした玄関ホールで、奥から出てきた使用人らしい男へとアーサーは忙しなく確かめる。
「はい」
「案内は俺がするから、薬箱を持ってきてくれ。それと水だ」
「承知いたしました」
 ダニエルと呼ばれた男は丁寧に一礼すると、足早にホールの向こうのドアへと身を翻した。
「医者を呼んだほうがいいかな?」
「いや。頭痛がするだけだと言うから、横にさせて、しばらく様子を見てみる」
 問いかけるアーサーへは大袈裟にしたくないと首を振って、しかしユリの腕はいつの間にかしっかりと貴臣の背中を抱え込んでいる。
 さらに長い廊下を進み、重厚な扉の前でアーサーが立ち止まった。「ここだ」とドアを開けた部屋は、リビングと寝室の二間続きになっていて、南向きの大きな窓からは明るい陽光が射し込んでいた。広さも十分にあり、ベッドも家具も上質なもので揃えられている。これなら貴臣もゆっくりできそうだと、居心地のよさそうな室内にほっとした。
 早速寝室へ連れて行って手早くベッドカバーを剥ぎ、貴臣の上着を脱がせ、促して横にさせる。いつもなら慎み深く尻込みしそうな貴臣も、もう我慢の限界が近かったのか逆らいもせずに唯々諾々とシーツの間へと潜り込んだ。
 その青白い額へと、いつもの癖でちょっと自分のそれを重ね、赤ん坊にするみたいに熱がないかを確認する。
「少し、熱いかな。でも、冷やすほどじゃねーか。寒気は?」
「少しだけ……」
「アーサー、予備の毛布を一枚出してくれ」
 振り返ると、ユリはまるで自分がこの家の主人みたいに命令した。相手が義父だろうと、アメリカ陸軍大将だろうと、たとえ大統領相手でもこの青年の口調は変わらないようだ。そういうところも子供の頃のままだとアーサーはひっそり笑いつつ、言われたとおりに寝室のクローゼットからやわらかなコットンの毛布を取り出してユリに手渡した。
 相手に不快な思いや疑問を与えずに人を従わせるのはその人間の資質だが、間違いなくこの青年は命令する側の人間だった。
「なんだ?」
 アーサーの観察するような目つきに気づいて、ユリは咎めるわけでもなくやんわりと訊き返す。
「いや、しばらく見ない間にふてぶてしさも増したようだと思ってな」
「あんたほどじゃねーよ」
 つまらないことを言うなと素っ気なく逞しい肩を竦めて、再び恋人の顔色を覗き込む時だけは、ひどく敬虔な表情になる。それだけで、ユリがこの年上の麗人をどれほど大切にしているかは、誰の目にも明らかだった。
 ドアにノックの音が響いて、さっきのダニエルが薬箱とトレーに乗せた水を持って入ってくる。アーサーがそれを受け取り、頭痛薬を選んでグラスと一緒にユリへ差し出した。
「これ飲んで、しばらく眠れ」
「うん。ごめん、ユリ……」
 背中を抱き起こして薬を飲ませてやると、枕の上に頭を戻した貴臣が気弱な顔で謝るから、「バカ……」と叱ってその青ざめた唇へ熱を与えるようにキスを落とす。常には人前でと恥らう貴臣も、今ばかりは甘えるみたいに淡く微笑んで、静かに薄い瞼を閉ざした。
 体を伸ばして横になると、幾分呼吸も楽になってきたようで、このまま眠って回復してくれればと儚げな寝顔を見守った。
「落ち着きそうか?」
「ああ」
 アーサーに訊かれ、うなずいてみせて、目顔で外へと促す所作に、ベッドから立ち上がって一緒に隣のリビングへと移動する。
 ゆったりとしたソファに向かい合って座ってから、ようやくユリも人心地ついた気分になった。そうすれば、やはりロイから思わせぶりな言い方をされたアリスのことが気にかかる。
「ニューヨークに連れて行くつもりなら、十分に体調が戻ってからのほうがよさそうだな」
「そのつもりだが……」
 アリスのこともだが、貴臣の不調にも不可解な疑惑はあった。深い考えに沈むように伏せられたユリの瞳を、アーサーは興味ありげに覗いてくる。
「何か、原因に心当たりでもあるのか?」
「さあ……あるとも言えるし、ないとも言える」
 そのいかにも曖昧な返事には、ユリの性格をよく知るアーサーは「らしくないな」と苦笑した。
「あんたはどうなんだ? アリスのことで、何か言いたいんじゃないのか?」
「ロイから訊いたか?」
 そっちこそもったいぶるなときつい視線で促すと、さすがに愛娘のことは心配なのか不敵なおもてから笑みが消える。
「あいつは、あんたに遠慮があるみたいだな」
 規律の厳しい軍の内部ではそれが当然だとしても、怖いもの知らずのユリの口調には皮肉なものがこもっていた。その傍若無人さがいっそ心地よいとでもいうように、アーサーはわずかにまた口元を綻ばせる。
「あれは、おまえとは違う。まあ、おまえみたいなヤツにそうごろごろいられても、やりにくくて仕方ないが」
 ぼやくように呟いてから、「それはともかく」とすぐさま話をアリスのことに戻す。
「実際に、おまえの目で確かめたほうが話は早い。それから、意見を聞かせてほしい」
 ユリと変わらず傍若無人な男が、そんなふうに下手に出て、誰かに意見を求めることも珍しい。どうやら悪い予感が当たったようだと、ユリは立ち上がったアーサーのあとを追いながら、暗鬱な思いにさらに険しいものを眼光に湛えた。
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